題名:Java Diary-105章

五 郎の 入り口に戻る
日付:2012/8/5
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Gorotte -Part6

さて、このWISSの様子だが、まず私が会社のサイトに書いた文章をそのまま載せよう。

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大坪と申します。インタラクション + 情報推薦であれこれやっております。2011年12月1日〜3日に行われました WISS2011 に参加しましたので、その内容について。

WISS の正式名称は「インタラクティブシステムとソフトウェアに関するワークショップ」だが、誰もこの名前で呼びはしない。ほとんどの場合「ういっす」と呼ぶ。 では WISS とは何か?公式サイト (http://www.wiss.org/WISS2011/) には以下のような文字が並んでいる。

「WISS は、2泊3日の泊り込み形式で、インタラクティブシステムにおける未来を切り拓くような新しいアイディア・技術を議論するワークショップです。この分野に おいて国内でもっともアクティブな学術会議のひとつであり、例年170名以上の参加者が朝から深夜まで活発で意義深い情報交換をおこなっ ています。」

しかし WISS に参加することの意味は、これだけの文字で語り尽くせるものではない。私は今回「参加者」兼「登壇発表者」兼「プログラム委員」兼「スポンサー企業の担当 者」という立場で参加した。その経験から "参加しなければわからない" WISS の姿について記述したい。

初日夜

WISS の夜は長い。なぜかといえば夕食後の「ナイトセッション」が延々と続くからだ。そのうちの一つは「プリキュアオールスターズ3の鑑賞会」。いや、ただ鑑賞 したわけではない。今回論文賞 & 発表賞をダブル受賞した産総研栗原氏の「動画の極限的な高速鑑賞のためのシステムの開発と評価」を使った高速鑑賞だ。私はこの映画を通常速度で見たことが ある。もちろんプリキュアなどに興味はないが娘にせがまれては仕方がない。高速バージョンを観ているうち、

「いやこれではこの映画の面白さが抜け落ちてしまう。そもそもこの映画の面白さは通常は一つのチームにまとまっている赤、青、黄色がそれ ぞれのチームに、」

と熱く語りそうになる。ふと我に返り、いい大人の行動としていかがなものか、と思い直しぐっとこらえる。

今年の WISS には6社が企業スポンサーとして名を連ねている。ビッグローブ、ソネット、電通、電通国際情報サービス、ミクシィという錚々たる企業に並ぶと弊社の知名度 が一段劣るのは否めない。1日目の夕食時には各スポンサーが5分間のプレゼンをする。弊社のプレゼンターはリッテル研究所所長の清田であ る。

「ネクスト社はそもそも知名度が低く、学生の皆さんの内定が決まり、住むところを探そう、という段になってようやく HOME’S というサービスを通じて存在を知ってもらえるわけです」

という「率直」な言葉で笑いがとれてほっとした。

二日目

長い夜が明けると朝がやってくる。 WISS の朝は
「皆さん。おはようございます!」
という凛とした声で始まる。 (最終日にはこの声を使った目覚ましアプリが発表された) 声の主はプログラム委員長であるところの産総研後藤氏。会場のどんよりした雰囲気が一瞬で吹っ飛ぶ。前方にはスクリーンが5枚並んでいる。登壇発表者用、 登壇発表者用サブ、参加者が利用するチャット画面表示用、 WISS Gazer という「 WISS を見ている人はどこに注目しているのか」を表示する画面、それにニコニコ生放送である。

これらのスクリーンを使っての登壇発表が朝から夕方まで続く。普通プレゼンはこんな順序で進むと思う。まず問題定義を行い、次に提案する 解決策の紹介、それが新規性、有効性をもっていることの説明を経て最後にデモ、そしてまとめ。しかし WISS で発表する際には注意が必要である。しゃべってばかりで中々デモを出さないとチャットが荒れるからだ。「説明はいいから、早くデモ!」といった文字が飛び 交う。対象が「インタラクティブシステム」である以上理論付けも大切だが、そもそもどんなものを提案するのかが重要であるという共通認識 があるように思われる。
そうした事情も考慮して、私はデモを最初に持ってきた。その効果はどうだったか。発表後、いろいろな人に感想を聞くと、
「何がなんだかわからん」
というものばかりだった。反省しております。最初にデモを持ってくれば良いというわけではない。この事実を胸に刻んで来年の WISS に備えたいと思います。

発表中参加者は会場内だけで使用できるチャットシステムで議論を交わす。会場外から視聴している人たちのコメントはニコニコ生放送の画面 でみることができる。東大の五十嵐教授が質問した際
「ゆとり乙」
というコメントが流れたのには爆笑させてもらった。ある女性が登壇したときには

「お嬢さん、結婚してください」

というコメントが流れる。「既婚です」という上コメが表示されると「orz」が流れる。

発表が終わると、質問者がマイクの前に並ぶ。今回チャットで議論になった点の一つに
「学生さんがなかなか質問をしてくれない」
というものがあった。その理由は何か? 会場で使用されていたチャットシステムには、その場でアンケートをとる機能がある。「年配の人ばかりが質問するから」という答えは意外に少なく、「そもそ も質問を思いつかない」という回答が多かったように記憶している。反省点の多い私の発表だったが、学生さんが質問に立ってくれたもののひ とつであったことはうれしい点だった。

WISS らしい発表

一参加者としては、登壇発表の時間は最初から最後まで気が抜けない。それくらい興味深い発表が目白押しである。その中で私が「最も WISS らしい」と思った発表について記述したい。東大の五十嵐さんによる「文の構造を明示的に指定・表示することによる異言語間コミュニケーション」だ。

機械による自動翻訳ができたらどんなに便利だろう。誰もがそう考えているが、なかなか実用化されない。単語の置換はできたとしても、文章 の構造をちゃんと理解することは、コンピュータには未だ荷が重い。その結果、翻訳後の文章は頓珍漢なものになりがちである。

であれば、元の文章の構造を GUI 上で人間が示してやり、それをコンピュータが翻訳すればより理解しやすい文章になるのではないか。このアイディアには驚いた。私たちが普通話す言葉は1次 元で構成される。それは1次元が最適だからではなく、人間が用いることができる手段 (音声) が1次元に限定されているから。

コンピュータをインタフェースとして用いることで、文章が本来持っている構造を2次元上で示すことができるのではないか? というのが提案の肝である。本論文は異言語間コミュニケーションを対象としているが、同じ言語を話す者の間でも、この手法は有効なのではないだろうか。日 本語でも何を言っているのかわからない文章は多い。 (私のプレゼンもその類と思う。しくしくしく)
この論文はそうした新たな可能性に道を開くものだ。しかしまだ研究は始まったばかり。減点方式の査読を行えば「評価が不十分」あるいは 「評価による有効性の証明が不十分」ということでリジェクトされるかもしれない。しかし欠けている点よりも、それが示している方向性が評 価され、登壇発表として採択されたのは、実に WISS らしいと私は考える。

二日目晩

2日目の晩には2部屋合同で「全員参加型議論」が行われた。
「今年の会議内容を踏まえて、社会や他のコミュニティにどのようなメッセージを提言したいか」
について議論を行い、結果を翌日発表する。 WISS では「伝統的に」異なる所属、年齢層の人が同部屋に割り当てられる。それ故議論に集まったのは所属も年齢も性別も異なるメンバー。これだけいろいろな立場 の人と1つのテーマについて意見を交わす機会というのはそうあるものではない。翌日の発表はバラエティに富んだものだった。その内容は一 般に公開されているが、私の意見では参加者のみに公開された「議論の過程を書いたメモ」のほうが面白い。表にでなかった様々な意見を読ん でいると各部屋でどんな議論が行われていたかが想像できる。
とはいっても延々議論しているわけにはいかない。プログラム委員長と、運営委員長が宴会場の入り口に座っており、両名に議論結果を渡さな いと宴会場に入れないシステムになっているからだ。自分たちが早く飲みたい、両委員長に早く飲んでもらいたいと思えば時間通り議論をまと める必要がある。無事提出して宴会場に入れば昨日と同じく様々な議論が朝まで続く。

この全員参加型議論は、去年から取り入れられた「改革」の一環である。 WISS の冒頭、プログラム委員長の後藤氏はこう述べた。
「WISS は伝統的に革新的である」
この言葉通り、去年今年と「三大改革」が掲げられた。「改革」という言葉に食傷気味の人は多いだろうが、ここで掲げられている「改革」は 永田町のそれとは一味違う。ある参加者の Tweet を以下に引用する。

「ある人が「改革します!」と言って、ほんとうに改革を実感したのって人生初めてかもしれない。」

しかし「改革」には常に不安と危険がつきまとう。それらに対処するため、どれほど委員の方が努力し、配慮をしたか。プログラム委員として 参加させてもらったことで、そうした隠れた努力を知ることができたのは貴重な経験であった。

最終日

デモ/ポスターセッション、全員参加型議論の1分プレゼンが終わると今年の総括、引き続いて WISS2012 のアナウンスがある。来年のプログラム委員長は東大の五十嵐さん。最初に「気楽に聞いてもらえればいいですから」と言われるのでやけに低姿勢と思ったが、 その後に熱いメッセージが続く。
「WISS の参加者は180名だが、投稿された論文はたったの42件。少なすぎる。論文も出さないで、 WISS はマンネリだとか言うのはいかがなものか。最近発表していないベテランもキチンと投稿するように。」 (全て私のうろ覚えによるものなので間違っているかもしれません)
今年の委員長後藤さんの熱が「赤」だとすれば、五十嵐さんは「青い熱」を放っている。来年も楽しみだ。私は今年でプログラム委員を退任な ので、せめて論文を投稿することで WISS の発展に貢献したいと思う。とはいえこのメッセージが浸透すると登壇発表の倍率が上がるのだよね。

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少しだけ付け加えておく。私のプレゼンは二日目の午後1番であった。その直前の昼飯はほとんど食べられなかった。カレーライスなので、 おひつの近くにいる人がよそってくれる。私は「一口でいいです」といい、本当に一口しか食べなかった。

今から思えば、実に変わったプレゼン風景だったのではないかと思う。私が何をいわんとしているかは、ほとんどの人に伝わらなかった。し かし多くの人は最後まで顔をあげてプレゼンを聞いてくれたのだ。(途中で相手が寝てしまうようなプレゼンを何度もやったことがある私にはよくわかる)

最後まで無事にプレゼンは終わった。さて質疑応答。なかなか誰も質問にたってくれない。学生さんが一人質問にたってくれた。彼は少なく とも私が何を言おうとしていたか解ってくれたと思う。その後あまりに質問がないので、チャットから

「頭がザルじゃだめすか?」

という質問が取り上げられる。私は「駄目です」と答える。

終わってしばらくぼーっとしていた。知り合いの人にあった時「わからないですねえ」と言われる。そうですか。わからなかったですか。。 その日は珍しく一旦眠った後目をさまし、しばらく館内を放浪していた。

なんだかんだとあったが、翌日にはWISSがおしまいとなる。私は最後のプログラム委員としてのご奉公なので最後の片付けまでつきあう。皆で電車に乗る時、不死身とも思えたプログラム委員長が少し疲労していることに気がついた。私は電車に乗りながら考える。来年はどうしよう、と。

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注釈