題名:Java Diary-54章

五郎の入り口に戻る

日付:2004/11/9

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Goromi-Part5(発表)

キーボード&入力インタフェース研究会という「集まり」がある。何故「集まり」と書いたかと言えば、そうとしか形容ができないからだ。去年何も考えずに参加して驚いた。参加者は特定の学会に属しているわけではない。いや、ヒューマンインターフェース関係で有名な研究者も数名来ているのだが、その一方、参加名簿の「所属」の欄に

「一介の入力マニア」

とか

「個人参加」

とか

「生協職員」

とかがなんらんでいる。特に最後の方は、仕事(生協のお仕事)とは全然関係なしに入力方式の開発を行っているらしい。

かくのごとく雑多なバックグラウンドを持った人の集まりなのだが、皆「仕事だから仕方なくやっている」などということはなく、「本業だろうか何だろうが、俺はこれが良いと思って居るんだ」と提案したり物を作って持ってきたりしている物だから熱気がすごい。私は大変気に入ってしまった。

昨年は「参加者はA4一枚ぐらいのポジションペーパーを持ってきて下さい」と書いてあったら、適当に写真を集めて持って行った。その中に

「車の中ではキーボードは使えません。ハンドルにキーボードをガムテープで貼り付けてみましたが、無理があるでしょう」

という写真を含めておいた。他の人の真面目なポジションペーパーを聞いている内こんなふざけたものでいいのだろうと不安に陥る。こっそり隠れていようとしたが司会者の指名により皆の前で発表することになる。幸いにしてこの写真は受けをとり、私は大変ご機嫌な気分でその後の懇親会(宴会である)まですごさせてもらったわけだ。というかこのプログラムを作るきっかけというのが、このときに行われた質疑応答だったわけなのだが。

さて、一年経った今年のテーマは「家電のインタフェース」。そのテーマに沿っているかどうかわからないけど、そもそものきっかけとなったイベントだし、之を使えばキーボードを殆ど使わなくてもWeb上の情報をあれこれ眺めることが可能なのは確か。となれば発表してもいいのではなかろうか。

というわけで開催案内メールを受け取るとさっそく「発表させてくださーい」とメールを返す。印刷する都合があるから原稿はかなり前に出さなくてはならない。それまでに頭の中でいくつかネタを考えておいたから、ちょこちょこ作り出す。一通りできあがったところで発表練習を小声でぼそぼそやってみる。そして深いため息をつく。とてもつまらない。がっかりしてしばらくその発表資料を観ないようにする。

とかなんとかやっているうちに提出期限が迫ってきた。この際受けを狙うなんてことを考えないようにしよう。考えなければ別に受けなくても面白くなくてもいいではないか。そうだそうだそうしよう、とちょこちょこ直す。えい、と送る前に注意書きを読めば「参加者の情報共有の為、発表用資料はWebで公開します」と書いてある。うーむ、これが検索すれば解る場所に置かれてしまうのであるか。ええい、どうせ私は変なおじさんなのだ。今更気取ってどうする、と資料を送付してしまう。開催日が近づくと、「発表資料公開ページ」に発表資料がそろってくる。他の人のを眺めてみると「こうやって入力効率を改善しました」とかいう真面目な物ばかりだ(あたりまえだが)ううむ。これはやはり外してしまったのだろうか。しかし人間無理はできない。とにかく考えていた路線で発表するしかない。

というわけで発表当日。今年は去年より少し参加者が少ないようだが、例によって参加者名簿はバラエティに富んでいる。そして私は小さく縮こまっている。紙に印刷された発表資料をぱらぱら眺める。どう考えても私の発表って浮いてるよなあ。きっとみんなに冷笑されるに違いない。発表なんてするんじゃなかった。別に誰に頼まれた訳でもないんだから静かにしてればよかったじゃないか。発表資料一覧を他の人が眺めている様子を後ろからちらちら見る。ぱらぱら眺めただけでも私の資料が異常な写真に満ちている事は解るだろう。

「誰だ。こんなふざけた写真を載せた奴は」

と怒られないだろうか。いや、もちろん真面目に喋るつもりなのだけど、写っているのは

「ソファに寝そべって焦点の合わない目でTVを眺めているところ」

とかそんなのばかりである。

誰も怒鳴りはしない。(あたりまえだ)しかし観ていると心なしかみんな私の資料はとばして読んでいる様な気もする。やっぱりつまんないでしょうか。ああ、やっぱり発表しようなんて思わなければよかった。なんでこんなところに来てしまったのだろう。家で平和の内に寝ころんで居れば良かった。私は犬であればしっぽを股の間に挟んで「きゅーん。きゅーん」という状態である。

プログラムを観れば私の発表順番は4番目くらい。まあ少しは時間もあるから(あったからどうなのか知らないが)と自分に言い聞かせていると最初の人がまだ到着していない(この人は最後まで現れなかった)次の人もまだ現れない。おい、いきなりかよ、とかいいながら3番目の人がしゃべり出す。次は私である。

ええい、事ここに至ればいかんともしがたい。とにかくしゃべってこよう、と前に立つ。最初の数語は考えておいた通りしゃべる。ページをめくりあれこれしゃべる。前に立つと皆がどのような顔をしているかが結構よく見える。皆聞いていてくれるようだが。そのうち「きゅーん きゅーん」だった事も忘れて調子にのってしゃべり出す。

最後のスライドを出したところで司会者が格好を崩して笑う。「どうしましたか?」と聞くと「ウェアラブルですか」と言う。いや、そうなんですけど。

この日発表した内容は概略以下の通りである。人間仕事で使う時には、確かにキーボードでキーワードを打ち込み、検索するってのもいいだろう。しかし家庭にはキーボードはないし、そもそもそんなもの使いたいとも思わない。ソファに寝そべっているときとか頭からっぽだからだ。であるからしてこのようにキーワードをわらわら表示してくれるソフトというものの存在価値も有るのではないでしょうか。

ちなみにこうやっても絶対に有益な情報は得られません。暇つぶしですからちらちらと観る位がちょうど良い。というわけで最近ヘッドマウントディスプレイを使ってます。これだと視線移動させただけで画面が切り替えられますからねえ。

一通り発表が終わると質疑応答がある。概して好意的(と少なくとも私は思う)なのでほっとする。最後に一人

「やっぱりこれは役に立たないのではないか。例えばパソコン内のローカルデータを閲覧するのに使えないか」

と言った人がいる。実はそうした質問に対する答えの一つ(と成りうる可能性のあるもの)をちょうど前日に思いついていたので

「ご指摘ありがとうございます。検討したいと思います」

とにっこり笑って答える。大事なのは心構えができていることだ。最近お客様に説明をすると全く想定外の(というか的外れの)質問ばかり浴びせられ「一体この人達は何を言っているのだろう」と唖然とすることが多いのだが、この日はそんなこともなかった。かくしてこの日も宴会まで楽しくすごさせてもらいました。(私が楽しく酒を飲む確率というのはあまり高くない)

さて、翌日「大坪家の書庫」のアクセスログを観てみると、Goromi で検索してきてくれた人が何人かいる。実は「これ公開してますか」と質問があり、それに「Goromiで検索してみて下さい」と答えたのだった。しかし自分で"Goromi"と入れてみると移転前のサイトの存在しないページだけがひっかかる。これはいけない、ともう少し解りやすいところからリンクをはる。

その何日か後、Goromiのページに異常な数のアクセスがあることを知る。リンク元を観てみればITMediaというIT関連の情報サイトだ。記事を読めば当日発表されたいくつものシステムが取り上げられている。私が一番感動した

「70過ぎの母親にパソコンを使わせるため、それまで機械工作など一切やったことなかったけどボール盤、フライス盤を買い込み3年がかりで入力装置を作ってしまった新潟の造り酒屋のおじさん」

がトップに来て、その次がGoromiの話だ。記者の名前を観れば、女性の名前。そういえば最前列に陣取っていた女性が居たが、あの人か。。この人はITMediaでは「IT戦士」と呼ばれている。ううむ。そうと知っていればサインでももらっておけばよかった。

その後その記事を読んだと思しき人が作ったサイトからのリンクが張られた。そのうちの一頁には、Goromi が動いているスクリーンショットが掲載されている。へえ、ちゃんとよそ様の環境でも動くんだ、とちょっと不思議な気持ちになる。SETI@Supportのスクリーンショットを人様のサイトで観て以来の妙な感覚だ。というか「動かすためにはJavaと茶筅とGoogle APIのKeyが必要」なんて面倒な物を動かす人はいるまい、と思っていたのだが。有る掲示板には「知り合いが作っていてびっくりしました」というコメントが載っている。そういうあなたはだあれ、と思うが聞くだけの勇気もない。「近年まれにみる役に立たなさっぷり」という言葉がなによりもうれしい。

このITMediaというのは結構メジャーな情報サイトだから、会社の誰かからコメントが来るかと思っていたが誰も何も言ってくれない。誰も観ていないのか、観てもしらんぷりをしているのか。まあいいや、と思っているうち9月も終わりに近づいてきた。そろそろWISS の査読結果が返ってくる頃である。

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注釈