題名:Java Diary-58章

五郎の入り口に戻る

日付:2004/12/23

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Goromi-Part9(WISS2004一日目、二日目)

というわけで今年もWISSである。直前に「早い時間のバスに乗ってもらえると助かる云々」と書いてあったような気がした。時間より早くつくのは私の得意技だ、というか脅迫観念と化している。というわけでおうちを早くでて、駅の待合室で一時間ばかりうろうろする。私はこういう時間が結構すきなのかも知れない。こだま号はかたこんかたこんと西に向かう。いつもならこの電車の中で熟睡するのだが、今日は妙に寝つきが悪い。発表のことが頭にあるのだろうか。豊橋で降りると快速電車に乗り換え。降りたのが蒲郡。

この蒲郡という地名は妙な形で私の頭の中にこびりついている。そもそも名前が"ガマ氷"だし、私が所属していた小学校の吹奏学部はどうやっても「蒲郡市立蒲郡南部小学校」通称ガマナンに勝つことができなかったのだ。 などと感傷にひたっている場合ではない。出口は、と思い歩いていくと北口と南口があることに気がつく。さて、問題です。迎えのバスはどちらに来るでしょう。 どこかで見たような人が二人南口にいくから私もそちらに行った。すると既に何人か来ていることに気がつく。挨拶など交わしながらぼんやり待つ。そのうちバスが来るといわれていた時間を過ぎてしまったがまだ何事も起こらない。冬なのだが、日差しは穏やかで暖かい。だからただぼけっとしている。そのうち誰かが「バスが北口に待っている」と声を上げる。私は一度北口まで散歩していたので通路の場所を知っていた。しかしそれが最適経路という自信もないのでだまって歩き出す。北口についてみると確かにバスがいる。 そこから山をぐいんと上ると目的地三河ハイツに到着する。

バスを降りWISS2004 Registrationと矢印がでている方に歩いていく。今年の会場は縦長だ。おまけに出席登録150名に対し椅子の数は144だという。(脇に椅子だけの席があり、そこを併せて150になるらしいのだが)まあいいか。でも縦長だから後ろの人は画面見づらいかもしれないなあ。などと思いつつ座っていたがまだ始まるのは一時間以上先である。 とても時間をつぶすのに苦労するはずなのだが、なぜかあっという間に開始の時間となった。 今年のWISSには過去2回にない特徴があった。論文発表が異様にウケの要素を狙っていることだ。こう書くとウケ狙いのふざけた発表ばかりととられるかもしれないがそうではない。論文発表ができる、ということは、事前に厳正なる査読を通過している-研究の内容だけによって-ということなのだ。(こう書くと私のが何故通ったのか、という気もしてくるが)つまりちゃんと研究をした上で、発表においても聞き手を楽しませようとしているのである。もちろん過去のWISSにもそうした「面白い」発表はあったのだが、今年はほとんど全ての発表がそうした要素を取り入れていたのではあるまいか。 その中でも特に面白かったものが(最終的にはダントツで「発表賞」を受賞した)最初の発表「切る」である。論文のタイトルも強烈だが、プレゼンもすごい。内容は以前からなんとなく知っていた。3Dの物体をCGで作ることなど珍しくもないが、この人は中身までちゃんと作っているのである。従って切断したときに断面がきちんと見えると。 それだけならなんともない(というわけではないのだが、普通のプレゼンという意味だ)のだがなあ、などと考えているとまず遠くのスクリーンに実際にきゅうりを切っている様子が映し出される。ああ、実写のビデオを持ってきたわけね。そう思って眺めているとそのうちそれがリアルタイムに行われている映像だということに気がつく。つまりこの人は実際に包丁を持ちきゅうりを切っているのだ。「せっかく買ってきたので」などといいながらあれこれ切っている。場内爆笑である。 その後に続くプレゼンもどこかウケを狙った要素が入っている。ううむ、これは。自分なりに用意はしてきたもののここまでのウケを取る事は無理だ。それどころか(もうこれも恒例になっているが)みな内容がしっかりしているではないか。通勤電車の中で作ったプログラムを持ってきているのは私だけではないか。グラフもなければ数式もなく怪しげな写真と図が並んでいるだけの発表などをして殴られるのではなかろうか。いや、誰も物理的に殴りはしないのだろうけど、実際にチャット-今回は二組用意されている-では時々「おわっ。もしこれを言われたら泣かないまでも結構動揺するかも」といったコメントが飛び交っている。つまり表面上きついことを言われないからといって考えていないとは限らないわけだ。 ううむ。どうしたものか、と思っているうち一日目の発表は終了。デモセッションになる。

今年は多摩美術大学と共同でデモをやっている例がいくつかあり、はなやかではあるが、2年前に見たような「反応に困る」ような強烈な物が少ないようだ。ただの一発芸のようなものもあるしなあ。。 などと考えているうちにその日は終わる。夜には宴会があり、聞くところによると朝の3時まで飲んでいるそうだが、そもそも私は最高に機嫌がよくてもそこまでおきていられない。加えて二日後に控えている発表は常に私の心に重い影を落としている。デモがちゃんと動くか確認しなくていいだろうか。いや、下手に触ると動かなくなるのではなかろうか。そんなことを考えながらひたすらもんもんとする。ええい、というわけで寝てしまった。

翌日も同じような調子で始まる。今回は過去2回に比べて参加者の方たちとあれこれお話する機会に恵まれたように思う。それは楽しいのだが最終日の発表がなあ。去年は初日の晩にお仕事終わってしまったから楽だったよなあ。この日はお昼に場所を移動してBBQ&みかん狩りである。みかん狩りとは、みかんを追って野山を駆け巡り矢を射掛ける事、などというギャグがチャットで語られるがもちろんそんなことはない。その前にご飯だと思い椅子に座ると前に座った学生さんに話しかけられた。冒頭相手が「大坪さんですよね?」とか言ったような気がした。聞き流して話を続けるが、数語の後相手はこのJavaDiaryを読んでいたということを知り驚愕する。ううむ。それでいきなり「大坪さんですよね」というせりふが出たわけか。思わずその場を立ち去り雲隠れしたい衝動に駆られるが、もちろんそんなことはできない。いいいや、まさかあの文章を読んでいる人がいるなどとは、、という。相手が言うには

「WISSに初参加なのでどんな雰囲気か知ろう、と検索していたらたどりついた。他の記述よりも詳細で参考になった」

とかなんとか。ううむ。そりゃ確かに事細かにあれこれ書く人間はあまりいないだろうけど。 あれこれ話しているとその学生さんも明日、同じセッションでの発表だということを知る。まあ3日目の午前中だからみんな眠たくて聞いてないですよね。だからあんまりいじめられないだろう、と思ってるんですよ、という。相手は「でもあんまり反響がないとつまんないですよね」といった意味のことを言う。ううむ。若い者はいいなあ。この年になるとほめられたプレゼンより、ボロカスにけなされたプレゼンの方が強く記憶に残っており、どうにもきびしいのである。 三河ハイツに戻るとまた発表が続く。同室の人が

「私がいつも発表する学会では、包丁もってきゅうり切ったりしたら生きていけません」

といい場内の爆笑を誘う。そしてその後には堂々とした内容の発表が続く(この人は論文賞を受賞した)ううむ。このウケと内容、両面でのすごさ。その後にはこの道では有名な某氏による発表が続く。コンセプトは私の発表と多少似通ったところがあるのだが、こちらもそのバックにある技術の厚みがすごい。彼が以前発表した内容と結合することはできませんか?という質問が飛ぶ。すると「考えています」といってその質問に対する説明用のチャートまで出てくる。座長ならびに発表者は「事前に仕込んでおいたわけではありません」と何度も繰り返すがそのたびにチャットで

「信じないぞ」

「信じないぞ」

「信じられない」という言葉が飛び交う。 などと発表は色々な意味で強烈に(少なくともこの後発表を控えている身にはそう思えるわけだ)続くのだが、それと同時に今回は結構トラブルも多かったような気がする。いきなり動かなくなり再起動、あるいはどうやっても画面が出ずにバックアップの機材でプレゼンなど数回あったのではなかろうか。それを見るたびに「あれは私におこることかもしれん」と恐ろしくなる。もちろん今までそんなことは起こったことは無いにせよ、それは本番で起こらないということをなんら保障するものではない。おまけに、ある学生さんの発表で、前置きが延々と続いたことがあった。何をするかを言う前に関連研究(参考にしたとか似た研究だけど違うんだよ、というもの)を延々と述べる。するとチャットの方では

「デモしる」

「早くデモ」

といった言葉が爆発する。ようやくでもビデオが流れるとそうした言葉はおさまるが「暴動寸前でした」という言葉も書き込まれる。 それを見て考える。いや、自分でもデモをやるのが遅く、わけのわからん前置きばかりしゃべっているのでは、という疑念を振り払えずに困っていたところだったのだ。この調子では本当に暴動がおきるかもしれん。いや、みなの疲れがピークに達する3日の午前中だからただ皆眠りについてしまうかもしれん。まあ静かだったらあんまりいじめられなくていいのだけど、どうせしゃべるなら聞いてほしいし。

というわけでまだ発表が続いているのだが、やおら発表用のPowerBookを取り出し、プレゼンの構成を変更する。最初に一枚しゃべったらとにかくデモを見せてしまおう。これで少なくとも「早くデモしる」という非難を受けることだけは無いはずだ。えーっとしかしこれを前に持ってくると話がつながらなくなるから、ええとええと。 などとやっている間に二日目の発表は終わりとなる。昨日と同じくデモセッション。この日は昨日のデモに比べて大物が多かったと思う。をを、これはなかなか楽しいなどと見ていても心のどこかに曇りがある。適当に部屋に戻って同室の人たちとあれこれ話をする。前述した「後ほど論文賞を受賞する人」と話す。この人は昨日話したとき「いやー、いつも来ている学会と雰囲気がちがいますねえ」といっていたのだが、自分のプレゼンの冒頭、その話を出して大うけをとっていた。うーむ。見事なものだなあ。(いやもちろん発表もすばらしかったのだけど)俺も何か言おうかなあ。たとえば最初のデモをやるときに

「本当はもう少し後でデモをしようと考えていたのですが、昨日のチャットを見て怖くなりまして、、」

とかやったら笑ってくれないかしら。少しでも最初に笑いがとれると緊張がほぐれるのだけど。いや、外すともっと悲惨なことになりそうな気もする。結局そのせりふを頭の中にいれておいて、言うか言わないかはその場の雰囲気で決めることにする。 そろそろ宴会の時間ということで宴会部屋に向かう。皆酒を飲んだり、なにやら積み木を積んでみたり、あるいはそれを空気砲で壊そうとしたりあれこれである。私はぼんやりと立ってどこかに話し相手がいないかしら、と思ってきょろきょるする。そのうち

「大坪さんですよね」

と声をかけられる。はあ、そうですが。いや実はGoromiを使わせていただいたことがあるんですけど。そう聞いた瞬間私はくるっと後ろを向いて歩き出す。あっ。なんで逃げるんですか。いや、あの、なんと申しましょうか。そりゃ人様に使っていただくために公開しているのですけど、それでも使っていただいている人に会うのはなんといいますか、、あのーうちのプログラム悪さしてませんでしょうか。 などと始まった会話は楽しく続いた。会話が少し落ち着いたところで相手が「ところで明日の準備は大丈夫ですか?」と聞く。私は「そろそろ戻って直そうかと」と言った。そもそも夜が異常に早い私はそんなに遅くまでおきてはいられないのだが、しゃべりのリハーサルはやり直しになる。構成かわったもんね。時間もどのくらいかかるかわからないし、というわけで部屋に戻ると一人でパソコンに向かいぶつぶつしゃべりだす。つかえながらも終わって時計を見れば17分。ううむ。元は15分だったが、時間が延びたか。まあこれくらいは許容範囲内であろう。 というわけでその日は寝てしまう。心配事は数限りなくあるが、今はいかんともしがたい。また明日練習しよう。

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注釈