題名:YDの結婚

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日付:2000/2/1

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3次会

懐かし(といっても12月のライブで一回来ただけだが)の階段をのぼって扉をあけると、どこかで観たような一団が座っている。まだ会は始まっていないようだ。YDのとなりに座ってなんやかんやと話していると飲み物が届き乾杯となった。

誰かが声をかけ、またもや私が乾杯の発声をすることになった。とはいっても何も余計な事をいうこともない。私は「はいではみなさん。かんぱーい」とか言った。すると反対側に座っていたRascalのベース氏から声がかかった。

「なんだかなれているみたいだよね。合コンで鍛えてんじゃないか」

考えてみれば合コンの乾杯というのはとりあえず最初に何か「区切り」をつけるのに必要なものであり、かつそこであれこれ言ったところで間延びこそすれ何の役にもたたない話だった。そんな乾杯を繰り返している間に私はいつのまにか「はい。とにかくかんぱーい」と、あっさり挨拶ばかりするようになったのであろうか。

さて、私はYDのとなりに座ってあれこれ話していた。以前かれから「新婚旅行で米国行くんですけど、San Fransisco近辺でどこかおすすめの場所は」と聞かれていたのである。

別に米国で限った話なのではないが、私は住んでいる場所の近辺について何もしらないので有名な男である。San Fransiscoもどのガイドブックにも書いてあるような所は行ったが、

「知る人ぞ知る名所」

というのは特に知らないのである。それでもありがたいことにいくつか記憶にのこっている場所はある。しかしそれは私の(実に少ないのだが)楽しかった思い出に結びついている場所であり、他人に

「ここがいいよ」

と進められるような場所ではない。

さて、そんなことを概略わめきらしていると、反対側のとなりにはLuna Queenのベース氏-今後はカップスター氏と呼ぼうか-が座っていることに気がつく。そのさらに傍らには女性が座っている。彼女はどこかで見覚えがある。先日のライブの時もいたのではないか。しかしどこかのバンドのメンバーということでもなさそうだ。私はちょっと不思議に思い

「こちらはどなた?」と聞いた。

すると答えはなんとカップスター氏の奥様だという。YDはとなりから「彼らは仲がいいので有名なんですよ」と補足してくれた。

私はそう聞いて二人をまじまじと観た。奥様はちょっと独特の雰囲気をもつ女性であり、カップスター氏のほうは一見普通の好青年風である。しかし20秒ほど彼らを見つめた後、結構おにあいのカップルではないのだろうか、と思うようになった。

さて、私はご機嫌にあちこちの人と話していた気がする。人間の配置としては、真ん中にカップスター夫妻と私、そこから右側にこの前の合コンでご一緒した仲間+バンドの仲間。それに左側の端のほうには日本シリーズことYD奥様のお弟子さん達がいたのであろうか。私はお弟子さんたちは知らないが、そのほかの人たちは何かと顔を知っている。

YD奥様のお友達と少し話してみた。今日の司会をしていたのは彼女たちの同僚であるという。私はそのときZIMAという飲み物の瓶を持っていた。司会をしていた女性が

「ZIMAってなんなんですか?」

と聞いた。確かにあまり日本ではみかけない飲み物だ。(正直いって始めてここに来たとき、ZIMAの看板をみて驚いたものだが)私はまず瓶を見た。すると

「発泡酒」

と書いてある。私は「発泡酒だよん」と言ったが、そんなことでは説明にならない。私は何故自分がZIMAを飲んでいるか、ということについて、以下のようにまくしたてた。

「よくアメリカのCMで"ZIMA a few degrees cooler"というのがあって、どういうやつかっていうと、男が犬においかけてられているんだけど、バーに逃げ込んでほっと一息ZIMAを飲むと犬が後をおいかけてはいってくる。ところがa few degrees coolerなものだからお尻にかみついた犬が凍ってぼてっとおちちゃうんだ。いやアメリカのTVを観ているとよくこういうのをやってるんだけどね。」

当日の私は結構酒がはいっていたし、ご機嫌さもあいまって大変ハイな状態にあった。その躁状態の私がよった口調でこんなことをまくしたてて相手が話して理解できたのか、というのは大変興味がある問題である。しかし当日の私はそうしたことに十分頭を回すだけの落ち着きをもってはいなかった。

さて、そうこう話している間に、こんどは私があまり知らない人が多いほうから、若者がやってきた。何でも彼は22才(自分がそんな歳だったのはもう15年も前なのだ)大学3年生であるところの日本シリーズの弟子である。彼は

「まわりとの会話がつらい」

とかなんとか主張していた。さもありなん。彼にとってみれば周りはだいたい年上の社会人ばかりなのである。こうした事は所詮相対的なものであり、私も周りがずいぶん年下ばかりの合コンにいって髪の毛が白くなるような恐怖感を(これは結果的には杞憂であり、大当たりであったが)味わったことがある。自分が年寄りだと思えば、なんとなく「若い者にはついていけない」などと思うが、逆であってもギャップを感じることに関しては同等だ。

さて、彼はピアノをならってはいたのだが、学校では声楽をならっているとのことである。声楽といえばイタリア語。私はさっそくその昔フランス人のルームメートからならったでたらめなイタリア語をわめきだした。この男は何故かこのデタラメイタリア語が得意で、これをやっている間は表情から性格から女のケツをおっかけまわしているイタリア男(私はその実物をたくさん見たわけではないが)になっていたものである。そのイタリア語とは所謂

「カルボナーラ、スパゲッティ、フェラーリ、チッチョリーナ」

というやつである。もっとも彼はちゃんとした声楽家だけあって、そんなでたらめなイタリア語でない言葉をしゃべっていたが。

彼がいうには、オペラの歌詞というのは実に単純だという。私はあなたが好き。なんでいなくなっちゃうの。あれやこれ。彼の話を聞いていると演歌の歌詞とそう変わるところは無いような気がしてくる。私はまた酒によって妙な事をわめきだした。

「オペラといえば、トムとジェリーにもあったよね。フィーガロフィガロフィガロってやつ。フィガロの結婚だったけ」

と大変ご機嫌にわめていたが、かの声楽家君はそんなデタラメにだまされはしなかった。そうわめいている私のとなりで

「いや、それは”セビリアの理髪師”なんですけどね」

とちゃんと注釈を加えてくれていたのである。一方彼が本職であるところの歌をうたえば、さすがに見事である。私はオペラ出身のフレディマーキュリーの歌い方を(生き方ではない。私はAIDSで死にたいとは思っていない)尊敬しているが、やはりこうした正統派の歌というのはすばらしい。この歌声を聞いていると「歌はあまり上手じゃない」と称された自分の歌声がうらめしくもなるのだが。

 

さて、次にふと気がつくと目の前にはRose Maryのキーボード担当の女性が座っている。彼女と話すのはほとんど初めてなのだが、彼女は私の「Polypus & JMS Live」を読んでいた。これは数分後に明らかになったことが、YDはあのライブを目にすると、さっそくそれをここにいるバンド仲間のほとんどにメールで知らせたらしいのである。どうりで公開直後-正月休みの間だが-に異常な量のアクセスがあったわけだ。あんな文書を読むのはよほどの暇な人であろうと思った私の予想もなんとやら、この日私は何人かの人からあの文章に対する感想を聞くことになったのである。

前回の「もうちょっと肺活量が追いついたほうがいいかもしれない」という感想に対して彼女はこう答えた。あの日はその前にも一ステージやっていて、多少疲れていたことがあるのかもしれないが、やっぱり「肺活量がおいついていない」という印象を与えたとすればそれは反省事項であると。

それを聞き彼女たちは本当に真剣に演奏に取り組んでいるのだな、思った。人前で演奏するのであればやはりこれくらいの真剣さをもたねばらない。私も「歌が下手」という印象を与えるのであれば、それを補うような芸を磨かねばならないかもしれない。

私が人前で歌う時に時々頭に思い浮かべるのは、"My Best Friend's Wedding"のなかでCameron Diazがみせたカラオケでのパフォーマンスである。彼女は歌が下手だ、歌わせないで、といっているのに無理矢理Julia Robertsに歌わされてしまう。

実際彼女の歌は下手だ。音程は全くあっていない。しかしその芸は見事であり、最後にはそのカラオケバーにいる人間全部からの喝采を勝ち取るのだ。これが見事なパフォーマンスでなくてなんであろう。私としても彼女を見習い下手な歌でも観客にアピールできるようになりたいものだ。

 

さて、そんなことを話している間に彼女たちの次のライブの話になった。なんでも2月の18日には、またここでやるのだそうである。その日に来るとオカマのウェイトレス(というかウェイターというか)がお迎えしてくれるそうだが。

とそんな話をしていると、先ほどのオペラ青年が「その日は夕方からナディアパークで歌いますよ」という。私は調子にのって「わははは。その日は早く名古屋にもどって両方でましょう」と言っていたが。

すると横からKDM氏が口を出してきた。彼が属するRascalのライブも2月20日(日曜日)にあるのだそうである。完全によっぱらっている私は「はははは。同じ週末ですな。それも行きましょう」と言いいきなり彼からチケットを買ってしまう。これも楽しい宴会でのご機嫌気分のなせるわざ、という事なのかもしれないが、酔いがさめた今であっても別に

「しまったー」

と思っているわけでもない。彼らと彼女たちの演奏をきいて何か学ぶところがあれば、少しは私の下手な歌もまともに聴いてもらえるようになるかもしれないし、そうでなくても楽しい音楽というのはそう多く聞く機会があるわけでもない。

 

そうこうしている間に皆がぞろぞろと動き始めた。最初からアレンジされていたかどうかしらないが、ステージにはちゃんと楽器がセットアップされている。ぞろぞろと出ていくのはまずは4xXのメンバーだ。

いつもながら彼らの演奏は見事である。聞きながらさっき交わした彼らとの会話を思い出した。彼らは言葉でとうとうと述べるタイプの人たちではない。しかし彼らが奏でる音楽は、彼らの言葉のようにも聞こえる。

拍手とともに演奏は終わった。次はRose Maryと4xXのセッションである。今こうして文字にして考えるとふとこうした疑問が頭に上る。彼らは以前に併せてやったことがあるのだろうか?いくら見事な技量をもつ彼らであっても、ぶっつけ本番でいきなり曲を演奏できるものであろうか。しかし当日の私はそんなことを考えることもなかった。ただ彼らの奏でる音を聞いてご機嫌になっていたのである。

 

喝采とともに彼らの演奏が終わる。次はYD所属のLuna Queenの出番である。前のライブでドラムを叩いていた男は今日は所用で欠席らしいが、代わりにそれ以前にドラムをたたいていた、という女性が座っている。

私は一時女性のドラマーに偏見を持った時期があった。男性と比べるとどうしてもパワーが欠けるのかな、と思ったのである。しかし前のライブで、我々の次に演奏したカプリコというバンドの女性ドラマーはそんな偏見を一撃のもとに吹っ飛ばしてくれたし、今日の彼女もそうだ。演奏が終わった後にYDが

「今日はあまり大きな音をだせないので、おとなしめにやっていましたが、本来の彼女はあんなもんじゃないですよ」

と言っていたがその「おとなしめ」でも私から観れば「ふぎゃ」っというような演奏である。彼女はさっきから4xXのドラマーであるところのSSと話こんでいたが、これは考えるにつけ本物のドラマー同士の会話だったのではないだろうか。

さて、会話をしている彼らの前で酔っぱらってご機嫌になっていた私は

「わははは。私もドラムを叩くんですよ。いやいや。私は”エイトビートしかたたけない男”と言われていますから。」

といった。となりにいたYDは

「いや。大坪さんはおかずがたたけるだけいいですよ。私はおかずをたたくとおかしくなりますから」

と言った。本物のドラマーである二人はただ笑っていたが、いずれにしても彼らはYDや私とは隔絶した技量を持っていることだけは間違いない。

話をもどそう。Luna Queenのボーカル二人は例によって見事なしゃべりを見せている。彼らが演奏した曲には合いの手を入れるところがある。そこでぎゃーぎゃー叫んだ私はますますご機嫌である。

 

楽しい演奏をしめくくるのはrascal+4Xx のDrummerであるSSである。彼らは彼らのレパートリーの「唯一のスローな曲」をやる、と言った。ここでふと気がつく。ステージの前には二組ほどステージの前に(本当の)お客さんが座っている。考えてみれば、この場所はYD3次会の貸し切りではないからそうしたお客様がいるのは当たり前だ。またちらちらとステージの方をみると、楽器の準備をしているはずのRascalのベースマン氏がそのお客さん(女性)と話している。YDが解説を加えるところによれば、彼は大変女性とのコミュニケーションを重んじる人で、街でビラを配っている女性と「コミュニケーションを図った」実績もあるそうである。

ベースマン氏がその場でどこまで女性達とコミュニケーションを深められたかはしらないが演奏はいつも通りすばらしい。大喝采のうちにRascalの演奏はお開きになった。

 

さて、演奏は終わっても楽しい会話は続く。会話の相手は最初にもどってYD夫妻である。私は昔から結婚したカップルに「プロポーズの言葉は」と聞くのが好きである。彼らの場合は「普通」だったそうである。そう聞いて当日ZIMAを何本ものみ、かつご機嫌になっていた私は妙な事を始めたのである。

今からこう考えていても何を考えていたのかさっぱり解らない。しかし

「プロポーズというのはこうやるんだ」

ということで、日本シリーズの前に膝をつき、彼女の手をとってTVや映画で聞いたセリフをごちゃまぜにしてしゃべりはじめたのである。

この日私はこのセリフを何度か繰り返すことになる。YD夫妻(主に奥さんだが)相手に何度か繰り返した後はカップスター氏の元にいき、言葉でしゃべり、そのうちカップスター氏のメモ帳に走り書きした気がする。そのセリフは概略以下のようなものであった。

"I remember that summer day. It was so happy and I wished this happiness would never end... I still think that way. I hope the happiness I feel when I am with you would never end.

What I am trying to say is

Will you marry me ?"

このセリフを途中までしゃべったとき、奥様からのリクエストによって途中から日本語に変えた。普通の日本語では口がさけても言えないようなこのセリフも「英語の訳」ということで割り切ればそれなりに発音できるから不思議だ。そして今こうして素面になりキーボードなど叩いていると

「何をいっているんだか。ほんとにそう言える相手をみつけろよ」

と自分でも思うのだが、そのときはそんなことを考えもしなかった。

 

さて、かくのごとく私は時間を忘れて騒いでいた。しかしこに居られる時間はもう無くなろうとしていたのである。

 

本人が完全に忘れていたそのタイムリミットを思い出させてくれたのはカップスター氏の奥様であった。数十分前に

「わははは。今日の帰りのチケットはちゃんととってあるんですよ」

とかなんとか言いながら指定券を見せていたのであるが、彼女はちゃんとそれが「10時10分発ののぞみ」であることを覚えていたのである。そして私をつつくと「そろそろ時間じゃない?」と言ってくれた。

ふと時計をみると、早9時50分である。本来であれば私は真っ青になり、酔いがさめるはずなのだが

「わははは。間に合わなかったら明日の始発で帰りますよ」

とかわめいている。かえって冷静なのはカップスター夫妻である。なんでも彼らの車が近くにとめてあるそうなので、私を名古屋駅まで送ってくれるという。

「ほんだばー」

とかなんとか言ってこの楽しい会を後にした。新幹線口に車がとまったのは10時5分ほど。見事に間に合った。私はカップスター夫妻に丁重に例を言うと改札を駆け抜け、階段をどどどどと登りそして新幹線に乗り込んだ。

 

 

私は最終ののぞみにのり、そしてしばらくの間幸せな気分にひたっていた。

"people interact, and it is wonderful"

とは空虚な言葉ではなかったのだ。今日始めて口を聞いた人たちそしてその演奏。それは彼らのそして彼女たちの演奏だったとすれば、彼らはその言葉で歌っていたのだ。そして同じ歌で歌えることほどすばらしいことはそうたくさん世の中にはない。そしてその人達はYD達の結婚を祝うために集まったのだ。

 

今日は楽しかった。YDと日本シリーズが幸せな結婚生活がおくることを。

 

 


注釈

年下ばかりの合コン:この合コンの顛末については「HappyDays15-16章」参照のこと本文に戻る 

 

あの文章に対する感想:なおこの後別のRose Maryのメンバーから「サックスは風に吹かれただけでは音はでませんよ」と言われた。やはりあれは伝説であり、本当ではなかったか。

ちなみに彼女たちは私の文書であいまいになっているところを教えてくれた。前の文章ののなかで「手でもって演奏するハモニカのようなもの」と称していた楽器は、「ショルダーキーボード」略称「ショルキー」と呼ぶものだそうである。これで一つ賢くなった。本文に戻る

 

My Best Friend's Wedding:(参考文献一覧)この映画に対する感想は、参考文献一覧経由映画評を参照のこと。本文に戻る