映画評

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ドリーム:Hidden Figures(2017/10/9)

今日の一言:映画の嘘

現実世界では数年にわたって行われたことを、映画では2時間ちょっとに収めなければならない。しかも世に知られていない物語を語るためには観客への説明もしなくては。

それゆえ映画には「嘘」が必ず含まれる。複数の人物を一人にまとめたり、あるいは話を単純化するためわかりやすいキャラクターを作り上げたり。しかし私の考えではこの「嘘」には「良い嘘」と「悪い嘘」がある。

「悪い嘘」とは話を作り上げる側の都合のためのもの。主要人物が都合よく瞬間移動したり、「実はこうでした」と観客を置いてけぼりにした設定が披露されたりする。映画を作る苦労はぼんやり想像しながらも、そういう嘘をつかれるとげんなりする。

この映画にも「嘘」がたくさん含まれている。しかしそれは現実に起こった事、生きた人間に対して敬意を払った上の嘘であることが伝わってくる。主役は三人の女性。NASAの初期の宇宙計画で計算に活躍した女性、初の黒人エンジニアとなった女性、それにプログラミングを担当し、初の管理職になった女性。

これは「嘘」らしいのだが映画の中のNASAではトイレ、それにコーヒーポットもColoredとそれ以外に分けられている。私が幼かった頃、アメリカにはこういう州がまだ存在していたのだ。映画の冒頭車が故障し黒人女性三人が立ち往生する。そこにパトカーが通りかかるのだが、女性たちは「これで助かった」という表情を浮かべない。緊張し、言葉に気をつけろとお互い注意する。そういう時代だったのだ。

この映画に描かれているのは、そうした世界でなんとか自分の道を切り開こうとした人たちの姿。それが極東の島国に住むアジア人老人の心を揺さぶるのは、必要な「嘘」を交えつつ普遍的な人間の物語を描いているから。

と思ったがアメリカで初めて地球を周回したジョン・グレンが「あの女性に計算をチェックさせろ。彼女がGoなら俺はGoだ」というセリフはいくらなんでも作り過ぎだろうと思っていた。見終わってから調べれば本当にそう言ったらしい。

彼女たちの道の開き方に比べて、お前はなんなのだ。ぐでぐで文句言っている場合か、という気分にさせられるのはつらいが嬉しいことでもある。白人の女性管理職はどこかでみた顔だなあと思えば、スパイダーマンのキルステン・ダンスト。まあ立派に老けて。ケビンコスナーもかっこいいぞ。黒人女性たちは最初「あまり趣味じゃないなあ」と思うが映画が終わる時にはどこか素敵に見えてくる。お見事。

それとともに

この名作に「私たちのアポロ計画」などというデタラメな副題をつけようとした日本の配給会社には怒りしか感じない。売れりゃなんでもいいのか?嘘も方便で、観客はバカだからわかりやすい言葉を並べればいいのか?黒人とみればゴミを片付けさせるように、観客はバカだからアポロもマーキュリーも一緒でいいんだよ!とでも思ったか?


スパイダーマン:ホームカミング:SPIDER-MAN: HOMECOMING(2017/8/19)

今日の一言:脚本の技

最近日本のTVがつまらないのは、あれやこれやと制約が多いからだという意見を目にすることがある。そういう寝言を言っている人はこの映画をみるべき。どんな制約を満足しているかといえば

・登場人物が白人ばかりではいけない。黒人、アジア人、インド系などとりまぜて

・エログロは絶対禁止。小学生が見ても大丈夫なように。

・そもそも人が死ぬのもいかがなものか

・スーパーヒーローはいつも通り大活躍しないとだめ

・高校生の青春ものの要素をちゃんと取り入れて

・しかも「ありきたり」のパターンは使用禁止


これだけ制約がある中で、面白い物語を作ることができるか?驚くべきことだがこの映画を見るとその回答はYesである。

ちょっと無理もあるがこの映画では人が死なない。悪役ですらちゃんとした「法の裁き」を受ける。スパイダーマンを取り囲むのはアジア系のオタクデブに、黒人と白人のハーフ、それにちょっと肌が浅黒い変わった女の子に少し嫌味なインド系。よくもこうもちゃんと混ぜたものだ。

自分がスーパーパワーを身につけ、あこがれのアベンジャーと一緒に戦う。しかしまだ扱いは「見習い」。なんとか自分を認めさせたい、という若者の焦り。気になる女の子がスパイダーマンのファンだという。「実は僕が」と言ってその女の子の前でカッコよくしたい気持ち。そういう「あるある」な要素をちゃんと取り入れながら例えば「彼女の前でカッコつけようとして、結局彼女を死なせてしまいました」といったことにはしない。

振り返ればこの映画は、少年が自分の周りをなんとかしたい、そうした気持ちからひたすら頑張る姿を描いている。スーパーパワーは偉大だが、それはすべての問題を解決してくれるわけではない。日本のヒーロー物にもそうした要素はあったが、マーベルコミックスはそうした現実をより深く考えているように思える。それゆえこの映画のスパイダーマンはちゃんと

「真面目な高校生」

に見える。「ここから落ちたら確実に死にます」という場面では見ているこちらもムズムズする。どこに糸をかけているか問わないのがお約束のスパイダーマンだが、広い草原では走るしかない。これには笑った。がれきの中から必死に這い出る場面では見ているこちらにも手に汗握る。ヒーロー映画だからいいものはやられない、とわかっているのに。

飛行機の上での最後の戦いがちょっとわかりにくかったとか減点要素は確かにある。しかしこの脚本には本当に驚かされた。私が映画会社の社長なら

「この脚本家にいくらつんでもいいから契約しろ」

と命じるところ。こういう映画を見るとやはり映画において脚本は大きな要素を占めているなあと思う。監督、脚本家の今までの作品をみると小品ばかりのようだが。


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注釈