PITY ある不幸な男:Oiktos/Pity(2021/10/9)

今日の一言:全ての受験生に捧ぐ

男がベッドに座ったまま泣いている。のだがどうにもその泣きかたが嘘っぽい。
彼の妻は事故で昏睡状態にあり目覚める可能性はない、と男が人々に語る。それを聞いた人は一様に慰めの言葉をかける。世界は彼に同情し、彼は注目を浴びる。

主人公は終始一貫して悲しげな表情を崩さない。しかし映画が進むとともに、彼がそうした「かわいそうな自分」に依存していることが見て取れる。明るい曲をピアノで弾く息子を止め、自作の「妻の葬式」で歌う歌を披露する。そして葬式用のスーツも準備する。彼の中では妻の葬式は世間からの同情が頂点に達する「晴れの舞台」になるはずなのだ。そして妻がいなくなれば、自分は「新たな出会い」を求めることもできる。家事手伝いの女性相手に「結婚していますか?」と聞き、「はい」と答えが返ってきた後の微妙な間。

ところが

妻は奇跡的に復活する。それどころか全く以前と同じように生活し出す。妻の臨死体験談に皆が聞き入る。誰も彼には注目しない。ここで「意味もなく冷蔵庫の扉を開け閉めする」演出はお見事。馴染みのクリーニング屋についた「妻は以前のまま」という嘘も見破られ、これからどうすればいいのか。どうやってこの映画のオチをつけてくれるのか、と期待しながらスクリーンを見守る。

すると確かに映画は結末を迎える。なるほど。。そうしちゃったかぁ。まあ確かに話の辻褄はあっているけれど、オチていない。というわけで受験生の演技担ぎにこの映画はいいのではないか。

とはいえ

日本映画だったら、主人公が「お前らに俺の気持ちがわかるかー!」と雨の中で叫ぶだろうし、アメリカ映画だったら、復活した奥様がすごい悪妻で旦那を惨めにさせるところがこれでも描かれるだろう。そうした安直な演出を排除したのは悪くない。ギリシャの静かな風景を見るたび、一度だけ行ったかの地が思い出される。

とはいえこの内容ならば90分にして欲しかったと思う。テンポが悪すぎるし、催涙ガスはどう考えても余分。