題名:ネットワークについて

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日付:1999/6/4

 この文章について | ネットワークの動作概要 | Physical Layer:物理層 | Media Access Control SubLayer | Logical Link Sublayer | Network Layer | Transport Layer


Media Access Control SubLayer

 

さて、先ほどのOSI 7 layersの説明から行けば、物理層の次はDLC-データリンク層になるはずであるし、前の章の最後で私はそう書いた。しかし話はそうは進まない。(そう。私はうそつきなのだ)

 

このOSIの体系は国際標準化機構(ISO)とCCITTがおよそ6年間共同作業を行いその結果として導入されたものである。この6年という期間の間に、どのようなレイヤー分けが必要か、ということに関して、「その道のすごい権威」の間で実にこれまた想像を絶するような論議がおこなわれたことは間違いない。

しかしながらどんな分野であっても、その道の最高の専門家が何人あつまって何年激烈な論議をつくそうとも未来を正確に予測することはできないのである。OSIが最初に導入されたのは1984年であった。この年は私が大学4年で卒業論文をPC-9801なるコンピュータ(英文字が何もつかないもの)でしょこしょこ書いていた時期である。数台あった9801は(当時としては)当然のごとくスタンドアロンで動いており、それぞれにうるさい音をたて、やたらと紙詰まりするプリンタがついていた。

当時であっても世の中にEhternetなるLANが存在していることは聞いてはいたが、私がその実物を見るようになるのはそれから数年後のことである。

米国の事情はそれよりも進んでいたかもしれない。しかしながらLANの重要性が増してきたのはOSI7層が決定された後であったようだ。その後発展してきたLAN関係の多様な技術を利用するためには、データリンク層を2層に分割することが必要である、という論議がおこってきた。

参考文献4によれば、それまでOSI参照モデルというのは、基本的にポイント-to-ポイントの通信を前提として制定されていた。つまりある区間の両端に通信を行うノードがあるようなモデルだ。ところがローカエルエリアネットワークを考えた場合にはこれはなかなか成立しない。たとえば部屋の中に5台のコンピュータと1台のプリンタがあるような状態で、それぞれの機器の間を別々の線でポイント-to-ポイントの形で結ぼうと思うだろうか?もしあなたがそれを決心したとしても、必要な線の本数は(6×5)/2=15本にも上る。おまけに一台のコンピュータからはそれぞれ5本も線がでることになるのだ。

こんなんでは部屋の中が歩けなくなるのが火を見るよりも明らかである。つまりLANが使われる状況を考えるならば、一本の線(媒体)を皆で共有してお互いに通信することが望ましいのである。つまり多対多の通信だ。さて、こう考えてくると、物理層のすぐ上に「媒体を共有して、かつ任意の2点間で通信を行う」という層が必要だ、ということになってくるのである。

さて、参考文献1によると「データリンク層を完全に2つに分割すべきだという主張も強くなっています」とある。しかしながらOSI7層モデルという言葉がすたれ、OSI8層モデル、という言葉が普及しているきざしもないようだ。従って正式の合意が存在するかどうか知らないのだが、特にLAN関係の技術を説明するときには、Medium Access Control Sublayerが導入される。つまり「媒体へのアクセスをコントロールするSubylayer」という意味である。Sublayerとは日本語になおせば「副層」である。Layer-層と異なり、Sublayerというのは必ずしも使用しなくてもよい。つまりバイパスする事も有りである。

このMedium Access Control Sublayerが必要なのは、複数の機器が一つの媒体を共有してデータをやりとりしている場合である。ポイント-ポイント間が専用の線(かあるいはそれにたぐいする物)で接続されている場合には、お互いの合意に基づいて意のままにデータを送り、受信すればよい。しかしながら他の機器が同じ媒体を使うようになると話はややこしくなる。

本講義で使われたアナロジーとして、部屋の中で何人かの人が目隠しをしてしゃべろうとしている状態というのがあった。部屋の中の空気というのは誰もが共有しているから、2人以上同時に発声していると何をいっているのかわからなくなる(声の大きさにあまり差がないとしての話だが)

「誰かがしゃべっている時はしゃべるな!」

とか誰かが叫べばとりあえず混乱は収拾されるのかもしれない。しかし目隠しをしているのだから、お互いの「おれがしゃべるぞ」と合意をとる手段がない(目隠しをしていなければ、手をあげて、指名されたもののみがしゃべる、といった「制御」が可能だろうが)従って一度は静かになった部屋でも同時に2人がしゃべり出せば

「おれがしゃべる」

「いやおれだ」

「黙れ。人がしゃべっているときは黙れというのがわからんのか」

とまた部屋の中は混乱の渦に巻き込まれるであろう。

 

さてかのように同じ媒体を共有して複数の機器がデータを送受しようと思うといろいろな取り決めが必要になる。ではまず話の始まりとしてなぜ媒体を共有したくなるのかから始めよう。本講義であげられたのは以下の点である。

 

1) 媒体の性質上必然的にそうなるもの:具体例で言えば移動体の無線ネットワークである。(ここには人工衛星との通信もはいる)無線でも指向性の強い通信回線を使って位置のはっきりした相手と通信をするのであれば有る程度こうした衝突無しに周波数帯を使う事ができるかもしれないが、相手が移動してしまえばどうしたって他の機器との媒体(Etherとでも言おうか)の取り合いを考えなくてはならない。

2) 一台あたりの接続コストを下げる:1体1の通信を追求するのであれば、たとえばN台で構成されているネットワークにさらに1台追加するためには、N本の接続を追加する必要がある。媒体を共有するのであれば線を一本追加するだけで事足りる(場合も有る)

3) ネットワークの台数追加が柔軟に行える:2)とだいたい同様。

4) 交通整理の機能(Routing)が不要:同じ媒体を共用している機器の間で通信をおこなうさいに、どの相手にデータを送信する際でもとにかく媒体にデータを送り出せばよい。必要な相手はそのデータを受け取るし、関係ない機器はそれを無視するだけのことで、必要な相手だけにデータをとどけるような交通整理をおこなう必要はない。

 

さてこのように媒体を共用して通信をおこなうことには利点がある。しかしながら人生には楽があれば苦があるのである。以下に苦労と工夫が必要な点について列挙しよう。

 

1) 本来ビット列の送信は2点間を結ぶためのものである。従って単一のメディアを共有するためにはそのための工夫が必要になる。(あたりまえだ)

2) 媒体を共有してネットワーク上の複数の機器がアクセスする、というのはコンピュータのBusとは以下の点において異なる性質を持つ。従って異なった対処が必要である。

・伝送の遅れ:電気は媒体上を真空中での光速度の何割、という桁ではかることができるスピードで伝わる。しかしながらLANの伝送を考える際であっても、この遅れを考慮せざるを得なくなる。2点間を瞬時に情報が伝わるわけではないのだ。おまけに人工衛星との通信を考えたときには数秒に達する遅れが存在する。

・Computer Bus上の機器は緊密に連結されている。それに対してネットワーク上の機器は緩く連結している。

・伝送上のエラーまたは信号の衝突はネットワーク上では普通に起こる。

・ネットワーク上では信号の制御が分散して行えることが望ましい。

・Computer Busは普通パラレル伝送。LAN上では普通シリアル伝送。

3) 伝送に使われる媒体のトポロジー、物理的な性質、ネットワークの規模に大きく依存する。従ってMAC(Medium Access Control) sublayerは物理層とセットになって定義されることが多い。

 

さて、では上記の「工夫が必要な点」をどのようにクリアーするか?本講義の資料にはいきなり「ものすごくたくさんのアプローチがあって、分類は難しい」と前置きがあったあとで、次の3っつの分類がされている。

 

1) 固定チャンネルの割り当て:FDM(Frequency Division Multiplex周波数分割多重: アナログ回線の周波数帯域を狭い帯域に分割して,個々の帯域で,別々に通信を行う。),TDM(Time Division Multiplex 時分割多重:時間を区切ってその時間帯毎に別々に通信をおこなう。)これらは各々の通信毎に周波数であるとか時間帯を割り当てている。従って通信同士の衝突が起こらない。

 

2) ランダムアクセス(つまり基本的に運まかせ):ALOHA、CSMAこれらの詳細については後述する。基本的には「必ず衝突を避けてデータを送信する」のではなく、「衝突が避けられるといいなあ、と思ってデータを送信する」方式。もっと正確に言うと、ALOHAは何も考えずにデータを送信する。

 

3) 衝突を回避する(conflict-free)プロトコル:Polling, Token Passing ポーリングというのは誰かネットワーク全体を環視及びコントロールしているところから、「送ってもいいよん」と言われたものだけがデータを送信する方式だ。私語とか自発的な発言をいっさい許容しない教師がいる教室での風景ににているかもしれない。指名されるまでいっさい発言をしてはいけないのだ。Token Passingについては後述する。こちらも同じく特定の機器しかデータを送信できないが、集中して管理する人やものが存在するわけではない。

 

さて本講義の説明内容に従い、上記の2)及び3)に分類される技術について以下に概説する。

 

4.1 Random Access Techniques

(1) Pure ALOHA (純粋なALOHA)

このプロトコルがUniversity of Hawaiiで開発されたのは1972年のことである。人類が月におりたって2年ほどたった時のことだ。通常Ethernetと呼ばれているIEEE802.3が標準化されたのが1982年だから、その10年前のことになる。このプロトコルは実に単純だが、それは必ずしもこのプロトコルが古いせいばかりではない。

このALOHAプロトコルが開発された背景は参考文献4によると以下のとおりである。ハワイ大学はその名のとおりハワイにある。ハワイというのは、一つの州として存在しているが、実のところは群島であり、そしてハワイ大学の施設はそれぞれの島に分散して存在している。

さて問題です。それぞれの場所からからホノルルに設置されている中央のコンピュータを使うにはどうすればいいでしょう?

もし電話回線が普通に使用できるのであれば、それが一番安上がりな方法だろう。ところが、不幸にして当時のハワイの電話回線は十分信頼がおけるものとは言い難かった。となると残るのは無線しかない。

さてかくのごとき背景から生まれたのがALOHAプロトコルである。その具体的な内容は以下のとおりだ。

 

・ 送信すべきデータ(パケット)を持っている機器はいつでも送信してよい。

・ 当然のことながらパケットの衝突が起こり、データは破壊されるかもしれない。

・ 破壊されたデータは破棄され、上位のDLCサブレイヤーがそのエラーの始末をする。(注:MAC sublayerはエラー無しのデータ伝送は保証もしていないし、責任ももっていない)

・ 場合によっては送信局が自分が送信したパケットを聞いて、ダメージが生じているかどうかをチェックする。もしダメージがあった場合には任意に選んだ時間の後にパケットを再送信する。

 

ここでいきなりパケットという言葉がでてきた。(コンピュータ用語辞典)によればパケットは「デジタルデータを転送する際に、データを一定のサイズに分割し、送り先や発信元などのタグデータ(ヘッダ)を付けたもの。パケットとは小包を意味する英単語である。」だそうである。この後もこのパケットという言葉ややたらとでてくる。この定義だけ聞いてもあまりピンとこないかもしれないが、(あなたがこの文章を読みすすめることができる奇特な人で有れば)この先も何度かでてくる言葉なので帰納的に内容をつかんでもらいえるかもしれない。

 

先ほどの説明の最後の項目についてはここで説明を追加しておいたほうがいいと思う。送信局が自分が送信したパケットをモニターする、というのはどのような場合に可能なのか?ちょっと考えるとよく有りそうな気がするが、もう少し考えるとそんな状況が起こるのだろうか、という気がしてくる。

講義の中であげられたのは以下のような例である。上空はるかかなたにある人工衛星をつかって電波を中継するような場合を考えよう。地上からまず衛星にむかってパケットを送信する。パケットを受信した衛星はデータをそのまま(中継だから当然だ)地上に送り返す。このとき衛星は特定の地域に向かって電波を送り返すわけではないから、送信局は自分が送信したデータが衛星にどのように受け取られたかを聞き取ることができるわけだ。いわば山びこを聞いているような物である。山びこに他の声がまじっていればそれはデータが破壊されたということであるから、「しょうがねえな」といいつつまたデータを送り直す。

前置きばかりでなく後ろ置きまででてしまったが、かくのとおりALOHAというプロトコルは単純そのものである。とにかく言いたいときに言いたいことを言っていいのだ。特に全体を制御している物も何もないから、いろいろなトポロジーのネットワークで使用することができる。しかしながらちゃんとデータが伝送されるかどうかはすべて運任せである。また、このプロトコルはあまり効率的ではない。なぜかというと、第一にデータがちゃんと受け取られる可能性というのはそう高くない。次に仮にデータ送信途中で他の誰かが同じ媒体に対し送信を初めて衝突が起こった場合でもとにかく最後までデータを送信してしまう。従って衝突を検知して送信を中断する場合に比べ、時間は無駄になるし、媒体上の混雑はひどくなるし、といいことはない。

さらには衝突が起こって、受取手が正常にデータを受信できないとすれば、「再度送信」ということになる。このALOHAプロトコルは媒体上の混雑がひどくなるに従ってデータの送受信が正常におこなわれる確率というのは低くなる。従ってうまくいけば一度ですむデータの送信が、「再度」ということであれば2度になる。するとさらに混雑はたかまり、成功の確率はへり、再送の回数も増え、、ということでネットワークはひどく不安定な状態(というかデータはちゃんと伝わらないのにみんながわめきらしているような状態)になりかねない。

しかしながら私はこのプロトコルが気に入っている。というかこの方式をプロトコルとして(確かにそうなのだが)名前をつけたのが実にすばらしいと思う。効率が悪いの何のといわれても確かにこの方式もちゃんと動くのだ。それにALOHAという名前も実にいさぎよいではないか。

このプロトコルがこのままの形で使われることは現在ではほとんどない(とある資料には書いてある)が、いくつかのバリエーションが存在している。

 

(2) Slotted ALOHA

 

ALOHAの改良版である。ここでの"Slot"という言葉は"時間を割り当てられる”といった意味で使われていると思う。(嘘だったらごめんなさい)ALOHAに対する改良点は以下の通り。

・ 時間を、パケットの送信時間に等しいSlotに区分する。

・ 送信は各Slotの境界から始めなくてはいけない。

 

この言葉ではなんのことかわからないと思うので、なぜこれがALOHAに比べて改良になるのか、という点と合わせて説明しよう。説明の都合上パケットの送信時間を(ついでにSlotted ALOHAでのSlotの長さも)1(単位はなし。1秒でも1msecでも説明の上では同じことだ)とする。

 

まずALOHAの場合、どのようなシチュエーションで信号の衝突が起こるか考えてみよう。

時間tの時に(時間はtimeだから省略するときはいつもtだ)信号を送ることを考えよう。パケット送信時間は1だから、tからt+1の間信号は送信されていることになる。問題を簡単にするために、伝送遅れが無視できるほど近くに別の機器があり、データ送信をもくろんでいるとしよう。ALOHAであるから、媒体を共有しているすべての機器は他人の思惑など全くかまわずにデータを送信することができる。

 

さて、送信しようとしているデータが衝突を起こす場合というのは、となりにある機器が時間t-1からt+1の間にデータを送信しようとする場合である。したがって隣にいる機器にデータを送信してほしくない時間(vulnerable periodと呼ばれている)は2である。(細かい事を言うと、2よりΔt×2だけ短いと思うのだが、まあ気にしない。)

 

次にSlotted ALOHAを考えてみよう。機器は本能の赴くままにランダムにデータを送信したい欲求に駆られる。しかしながら新たに付け加わった規則により、彼は区切られた時間の端まで待たなくてはならない。ちょうどtがその時間の切れ目だとすると、t-1からtの間にデータ送信を思い立った機器がデータを送信できるのはt,tからt+1の間にデータ送信を思い立った機器が送信できるのはt+1である。最初の信号が送信されているのはt〜t+1であるから、この信号と衝突するのは、t−1〜tの間にデータ送信を思い立った機器だけである。従ってデータを送信してほしくない時間は1になった。どの時間でもデータが送信される確率が等しい物とすると、データが衝突する確率は半分に減ったわけだ。

細かい計算は省略するが、スループットを「回線が”成功裏に”使用される時間の割合」と定義すると、Slotted ALOHAの最高のスループットは0.36であり、Pure ALOHAの0.18の2倍になる。しかしながら「不成功率が高まると、再送回数が増え、媒体上が混雑するためにますます不成功率が増え。。」といったたぐいの不安定性は依然として存在する。

 

さて、ここでいきなりこれから説明するプロトコルも含めて、Random Accessに分類される方式ごとにスループットが回線の混み具合とともにどう変化するかのグラフをのせてみよう。横軸が回線の混み具合(私に具体的な数値の意味をたずねないように)縦軸がスループットである。右にいけばいくほど回線は込み合い、上にいけば行くほどスループットが高くなる=回線が成功裏に使用される時間の割合が大きくなる。

Slotted ALOHAがPure ALOHAに対して改善がなされているのがわかると思う。この図に表される曲線は一つをのぞいて、ある点でスループットが極大値になり、そのあと回線が混むにつれてかえってスループット値は下がっていく。これが先ほど文章でだらだらと述べた「不安定」たるゆえんである。

さて次にはさらに改良を加えたアルゴリズムCSMAについて述べる。

 

 

(3)CSMA Carrier Sense Multiple Access

この略語はこの文章を書いている時点で携帯電話の宣伝で声高に叫ばれ、たぶん今後数年はすたれることのない略語CDMAと一字違いだが、当然のことながら内容は異なる。(Code Division Multiple Access・符号分割多元接続。これもMultiple Accessの一つの方式なのだが)

このプロトコルはALOHAよりもかなりお行儀を改善して「人が話してるときはしゃべるな」を徹底させたものである。名前のごとくCarrierつまり他の信号を検知する処理を追加している。あるホームページ(http://minnie.cs.adfa.oz.au/Dual/subsection3_4_3.html)にはListen BeforeTalk(LBT)という略称ものっている。私はなんとなくこちらのほうが気に入っている。この言葉はこのようなネットワーク関係だけでなくいろいろな場所で使える気がする。

さて、このプロトコル(CSMAでもLBTでもよいが、便宜上この後の説明ではよく使われているCSMAを用いる)の基本的なアルゴリズムは以下の通りである。

 

・ パケットを送ろうと思ったら、まず回線をモニターする。

・ (機器の位置で回線をモニタした限りにおいて)誰もパケットを送信していなかったら自分のパケットを送信する。

・ もし回線が使われていたら後で送信する。

 

さてここで「後で」が具体的に何を意味するかでいくつかの方法が存在する。

・ 1-persistence:回線をモニタし、Busy(使用中)であるとわかれば(誰か他の人間が使っている事がわかれば)そのまま聞き続ける。そしてその時点でチャンネルを使っている送信が終わったところで送信する→この方法は回線が比較的すいているときにはうまく動くが、もし複数の機器が「こいつが送信し終わったら俺が送信だ」と待ちかまえている場合には問題が生じる。

・ p-persistence:回線があいていることがわかったら、確率pですぐに送信。確率1−pである時間だけ待って再度トライ。

・ non-persistence:回線が使用中であるとわかったら、乱数をふって(サイコロふって)その時間だけまって再度トライ。→この方法をとった場合、必要以上に長く待ってしまう可能性がある。

 

さてこのように「人が話しているときはしゃべるな」という礼儀を持つことにより、性能はどの程度改善されうるのだろうか。「送信しないでね期間」:Vulnerable periodは2τとなる。ここでτとは媒体の端から端までの伝送に要する時間である。従って伝送距離が長くなり、伝送遅れが大きくなるほど、信号が衝突する可能性は高くなる。じゃあτ=0ならば衝突は起こらないのか、と言えば物事がすべからく理想的に働けば起こらないのだろうが、実際上は回線をモニタするのに必要な時間(必ず一定時間が必要だ)そこから回線があいていると判断し、かつ送信をおこなうのに遅れ時間が必要なわけだから、τ=0の状況下でも衝突というのは起こりうる(私個人としてはこの議論にはちょっと疑問を感じるが、少なくとも講義ではそう言われた)

ここで再び上の図を見てみよう。同じCSMAであってもpersistentのアルゴリズムが異なるとこれほどスループットの傾向が異なるとは結構興味深いことだ。特に1-persistentではSlotted ALOHAに比べて改善の度合いというのは対して大きくない。こうした計算というのは、Operations Research学科の課題としては格好のものだろうが、私はもう学科を卒業して10年近くたっているので、ただ掲載されていた図を写すだけで満足してしまおう。

さてCSMAはALOHAにくらべて、かように改善はされるのだが、まだALOHAと同じ問題を抱えている。つまり途中で衝突が起こっていることが判明しても、データの送信はそのまま続けられるのだ。これはパケットが大きい場合、かなりの無駄になる。

 

(4)CSMA/CD(CSMA with Collision Detection)

さて、ここまできてようやくたぶん一番よく聞く方式の一つであるCSMA/CDの登場である。この方式は名前が示すとおりCSMAの改善版だ。ネットワーク上の各機器が信号の衝突(Collision)を検知した場合、所詮その時点で送信しているデータは無駄になるのだからそこで送信を中断すればかなりの時間の節約になるに違いない。というわけでアルゴリズムの概要は以下の通り。

 

・ 回線が空いていることが検知されたら、データを送信する。

・ 回線がふさがっていることが検知されたら、後でやりなおし(Persistentの方法は任意)

・ 送信中に衝突(Collision)が検知されたら、送信を中断して後でやりなおし(この場合1-persistentは使えない。なぜならば、衝突を起こした相手も同じことをやるので、延々と衝突を繰り返す-Dead Lockになる)

・ この問題を避ける一つの方法は、乱数をふってその間だけ待った後に再度トライすることである。例として、10MbpsのIEEE802.3では、以下の式で待ち時間を決める(0,1,2,.....,2^m -1) ×Lの各値から等確率で選択する。ここでm = min(n,10) and n < 16 :nは衝突した回数。Lは512bitを送信する時間

・ 衝突を検知するまでに必要とされる時間-つまり無駄になる時間-は(最悪のケース)2τ+(衝突検出に必要な時間)

・ 依然として不安定な挙動を示す(トラフィックが混んでくると、通信の成功確率がへり、再送がふえ、、、)

 

さて本講義ではこのような衝突検知時の制御アルゴリズムとしてAdaptive to LoadTree-Resolution Algorithmなるものが紹介されている。媒体に接続している機器をTree型の順序に分類し、あれやこれやと制御する方法らしいのだが、講義をまじめに聴いていなかった私としてはこのアルゴリズムの説明をする自信がないので、あっさり省略してしまう。

 

さてRandom Access Techniqueカテゴリーの説明は以上である。最後に、様々な用途にここで述べたアルゴリズムが適応されるかについて書いておく。

 

衛星通信

・ ALOHA(pureおよびSlotted)は適用可能

・ CSMAは成立しない

 

無線でのパケット送信

・ ALOHA(pureおよびSlotted)は適用可能

・ CSMAが性能を考慮して使われる

・ collisionの検知は無理

 

LAN

・ CSMA/CDが多く使われる

・ 回線が空いているかどうかを検知するためのキャリア検知、及びcollisionの検知

はなかなか難しい。collision検知を確実にするためにジャミング信号を発生させる

ことが必要。

 

これらの適用基準についてちょっと補足しておく。

媒体の性質の違いをのぞけば、LANと衛星通信との間の違いは、伝送遅れとパケット送信に必要な時間の比である。例えば静止軌道上にある衛星にパケットを送信しようとすれば、その遅れは人間でも気がつくくらいのオーダーになる。対してLANと呼ばれるもので接続されているコンピュータ同士の遅れはまず人間が知覚することは不可能だ。

CSMAの「送信しないでね期間:vulnerable period」は端から端までの伝送遅れの2倍だ、と前述した。ところが衛星通信の伝送遅れの値は簡単にパケット送信に必要な時間を超えてしまう。すなわちなんのためにわざわざ回線をモニタしてからデータを送信するのかわからなくなってしまうのである。こういう場合には原始的だろうがなんだろうがALOHAを使うしかない。前述したようにSlotted ALOHAはALOHAの1/2のVulnerable Periodしかもたないが、例えば一つの衛星に対して、複数で、かつお互いに地理的に離れた基地局が通信をおこなおうという場合にはその間でSlotを共通することが困難になる。それが不可能で有れば運を天にまかせて神の御心のままにパケットを送信する-pure ALOHA-を使わざるを得ないかもしれない。

 

逆にパケット送信時間のほうが伝送遅れよりも遙かに長ければCSMA,CSMA/CDが有効となる。ここで「無線でのパケット通信」でなぜCollision Detectionができないのだろう?しばらく考えた末にCollisionを検知するためには自分がデータを送信している最中にその回線をモニタしなければならない、ということに思い当たった。電波の強さというのは、距離の2乗に反比例する。仮に100m離れたところからの電波をうけとろうとまちかまえている受信アンテナが、送信アンテナから1mのところにあり、かつ同じ周波数で耳をすませていると、予想している10000倍の電波がとびこんでくることになる。これではCollisionを検知するどころのさわぎではない。受信機がふっとぶのではなかろうか。

 

さて、ここで一旦くぎって、次には同じMAC sublayerの話題で、Conflict-free technique及び現実世界で目にする規格について述べる。

(執筆中)

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注釈