題名:2000年9月12日

五郎の入り口に戻る

日付:2000/9/12

午前4時 | 弘明寺-戸塚-静岡 | 静岡-岡崎 | Short way to home


午前4時

私は頭を起こすと時計を確認した。何度か目をこすった結果4時であることを知る。どう考えてもあと数時間は寝ていられるのだが、こうなった以上はしょうがない。ここ数ヶ月この

「やたらと早く目が覚める」

状況とは何度も遭遇し、そして一種の妥協らしきものを得るに至った。すなわちそれが以下に理不尽な時間であろうと、一度これに遭遇したら最後、1時間程度は起きていないと眠気は訪れない、ということを。であれば、その1時間の間に何か出来ることをしたほうが有意義というものだ。

涼しくなったとはいえ、屋根裏エリアにこもる熱には耐えがたいものがある。従って私は本来の中2階ではなく、本と洗濯物が散乱する1階でねている。理論的に考えればこの障害物を踏みつけることなしに移動するというのは至難の業のはずなのだが、実際にはそれほどの困難は感じない。

「けもの道」

とはよく言った物だ。自分が作り上げた小道に従い、何も踏みつけず(あるいは踏みつけても問題ないものしか踏みつけず)歩いて中2階に上る。

まず行うのはメールのチェックである。メールは4種類にわけられる。メーリングリストからのもの-これは斜め読みすればよい。それが私のプログラムのバグに関するもので無い限り-あやしげなSPAM-これは題名だけみてとばす-自分のサイトのアクセス解析,それに友達からのメールである。

アクセス解析のメールは特にその数に注意を払う。メールの数はHit数にほぼ比例しているからだ。最近「ネットワークについて」がYahooに登録されたこともあり、総Hit数は向上し、この種のメール数は増え、基本的に私はご機嫌である。

一番ありがたいのが友達からのメールである。ほんの5−6年前までは、こうして友達と気軽にメールのやりとりをできるようになるとは思ってもみなかった。

「夜9時半には寝て、朝5時半には起きる男」

の私であるから、リアルタイムに両者が回線の両端にぶら下がっている必要がある電話しかコミュニケーション手段がなかったとすれば、とっくの昔に誰も話す(それが音声であれ文字であれ)相手はいなくなっていたであろう。

チェックするとそのうれしい友達からのメールが一通届いていることに気がついた。読んでいるうちに、返信文というか、相手に返答したいことが頭の中でおどりだした。こうなるとその文字を吐き出してしまわない限り、眠気というのは絶対に訪れない。私は深夜(というか早朝というか)一人かちゃかちゃとキーボードを打ち出した。さて、TVでもつけるか、と思いリモコンのスイッチを押す。

朝の4時だというのにニュースをやっている。もし頭が完全に目覚めていれば、この時点で何かがおかしいことに気がつくべきだったのだ。やっているのは、ひどく浸水した街の様子である。どこだこれは?と思えば名古屋エリアである。河原の河川敷にある自動車学校(らしきもの)が映っているのだが、ときどき天井だけ見える教習車がみえなければ単なる濁流と思うところだ。なんということか。私はここ数日一度も傘を使わずにすましてきたというのに名古屋のほうはこんなことになっている。

そのうち画面は切り替わった。新幹線が昨日の晩から完全にストップしている、というニュースである。午前1時の映像だが、車内にはまだ人がたくさんいる。乗客が何人いるかについては

「対応に追われていて把握していない」

とJRのコメントが流れる。そのうち乗客とおぼしき女性にマイクが向けられる。彼女はメディアの秘めたる願望通りのコメントを吐いた。所謂

「対応及び情報開示の遅れにたいするいらだち」

である。なんでもいい。とにかく問題が起こったときにはまずこのテーマだ。これさえやれば彼らは

「今日一日いい仕事をした」

といって家路につくことができるのだろう。

そのうちそんなに第3者のごとく状況を見ている場合ではないことに気がついた。本来の私の予定表では、朝の8時頃家をでて、9時頃には新幹線にのって名古屋方面、刈谷というところに行くつもりだったのだ。相手の会社につく時間は2時半。これだけ時間に余裕をもっていけば、本を読んだり、のんびりとご飯を食べたりいろいろできるだろうと思っていたのだが、どうやらそんな状況ではないようだ。そのうちアナウンサーの声が流れる。

「東海道新幹線は運転が再開する目処がたっておりません。」

What ?

私はもともと血の巡りはよくないが、寝ぼけている状態ではなおさらである。状況を判断するのにずいぶん時間がかかったが、そのうち結論に達した。今日新幹線を使うことに関しては不確定要素がありすぎる。従って理論的にはこういう事も可能である。

「いやー、交通機関がとまっちゃしょうがないですね。ではまたの機会」

しかし今日はすでに休暇を取ってしまっている。今は会社で何も仕事をせず、朝から晩までネットサーフィンをして暇をつぶしている状況だが、それでも休暇というものはあまり頻繁にとれるものではない。おまけにこの

「天候による通行止め」

というのはいつ解除になるか予測がつかない。仮に

「よし。今日はやめ。お昼寝しよう」

と思って12時頃目覚めたとしよう。何気なくTVをつけてみると

「昨日からの豪雨のため、新幹線には始発から最大30分の遅れがでております」

と言われたとしよう。私は驚愕する。そして相手の会社に電話をし

「あ。大坪でございます。いや、まだ横浜にいるんですが、いや、あの、朝方のニュースで今日は新幹線が動かないと思った物ですから、いや、あ、そうですか。今はちゃんと動いて居るんですか、そちらは日も射してますか、いやすいません。すいません。再度スケジューリングをお願いできませんでしょうか。もしもし。もしもし。(ツー)」

などという会話をするのは願い下げである。従って本当に相手の会社までたどり着けるかどうかに関わらずとにかく最善の努力をせねば。

 

地下鉄の始発は5時半くらい。とにかくそれにのってJRの駅まで行き、鈍行で名古屋方面に向かおう。今のところ在来線に関しては何もいわれていない。なんだか知らないがなんとなく在来線のほうが新幹線よりも雨に強い気がする。

この鈍行で名古屋に向かう、というのは学生の頃から何度かやったことがある。新幹線に払う代金のうち50%は特急料金だから、この方法を使えばおよそ半額で往復できることになる。

社会人になり、1998年の暮れに帰省するときもこの方法を使った。そのときには接続の良さに驚いたものである。Door to Doorで約6−7時間で実家にたどり着いた覚えがある。となれば始発にのればなんとか間に合いそうだ。また場合によっては途中で新幹線がまともに動き出すかもしれない。そうなればもっと早く目的地に着くことになる。

 

そんな事を考えながら私はねっころがっていた。眠りたいと言えば眠りたいのだが、本当に寝入って寝過ごすのもおそろしい。従って目をあけたままごろごろしているしかないわけだ。そのうちに何を持っていくか考え出した。スーツをきてパソコンもって。ただ時間がやたらかかるかかもしれないから予備のバッテリを持っていこう。それに正直言えば仮にたどり着いたとしても帰り道がどうなるかわからない。最悪の場合途中で泊まらなくちゃならないかもしれないからモデムのケーブルも持っていく。

ここで「下着とか洗面用具」と考えないのがパソコンおたくのパソコンオタクたる所以である。下着だの洗面用具はコンビニに売っている。モデムのケーブルは売っていない。下着は自分で洗濯もできるし、この季節だったら生乾きのものを着てもたぶん風邪はひかない。モデムのケーブルを自作するわけにはいかないし、メールのチェックは怠れない。もっと重要なことに最近毎日更新しているこのサイトの更新がとぎれるのもいやだ。

そのうちだいたいよい時間になったようだ。スーツを着る。首の周りに布を巻き付ける。さて、がんばっていくか。

 

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注釈