題名:巡り巡って

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日付:2003/1/1


神秘珍々ニコニコ園:埼玉県(2002/12/23)

-恐らく閉園

この場所については「動物園 B級スポット大好き! ARAKAWA'S HOME PAGE」で読んだことがあった。そのときは大して興味深い場所とも思わなかったのだが。

その後ふとしたきっかけでここが有名珍スポットであることを知った。いくつかのサイトがこの場所に言及しているがその書き方たるや

「観た後は食欲がなくなります」

「この歳になって新しいトラウマをかかえこむとは思わなかった」

「これ以上の言葉で語ることは私にとってはとても困難だ」

等々。であればこれは是非行ってみなくてはなるまい。覚悟を決めた上で。

天皇誕生日であり、豆電球の季節が最高潮に達するこの日私は一人電車に乗り埼玉へと向かう。池袋から東武東上線にのることしばらく、高坂という駅で降りる。東口を出るとさっそくあった。

この不動産屋の社長がニコニコ園を主催しているとのことだが、すでにしてここは空き家になっている。つまり今この建物はニコニコ園への看板を掲げることを最大の存在理由にしているように思えるのだ。扉には

「貸店 貸店舗」

という張り紙と並んで

「ニコニコ園は右へ歩き20分余」

とマジックで書いた文字がある。看板には18分とかいてあるのに。そもそも右ってどっちだ。早くも私は不安にとらわれる。

さるサイトに丁寧な道案内があるので、それに従って歩いていく。矢印通りまっすぐ歩いていっても3分もたたないうちに行き止まりになる。そこを左に曲がり、さらに右に曲がる。すると見通しが急に開ける。

畑の中を一本道が遙か彼方まで続いている。これは間違えたかと思ってはいけない。とにかく進む。冬のよく晴れた静かな日。風はゆるやかにふいており、たこ揚げなんかしたら楽しそうだな。でも高圧線がたくさんあるから感電するかな、などと思いながらひたすら歩を進める。(今から考えれば行きにこうした余分な考えに浸っておいたのは正解だった)

そのうち前方に集落というか建物が存在していることが分かる。近づくとその看板はあった。

よくみると端の方はおれて下に垂れ下がっている。それはそうとして、そこかしこにでている「ペット受付」とは一体なんだろう。頭をひねりながら門をくぐる。その瞬間私はたじろいだ。

いきなりこれだ。そこら中に木彫りの怪しげな像が存在し、受付らしいプレハブの小屋には

「アナタの一生一度の想い出」

「魂も安らぎを知るこの園の神や仏の姿知り得て」

などのスローガンがマジックで書かれている。いや、ここでひるんでどうする。進むのだ。とはいってもどうしたものか。「不在の時はゲンカンへ」とあるので玄関の呼び鈴を押してみる。中から声が聞こえる。「あのー。ここを見せていただきたいんですが」と答える。中からは「開いてますよ」と返答がある。

扉を開けてみると年輩の女性が一人でこたつにはいっていた。ふたたびここを観たい、と言うと「大きさは?」と聞かれる。何のことだと混乱し「何の大きさでしょうか?」と聞くとどうやら相手は動物の火葬を依頼に来たと思ったらしい。いや、ここを見せていただきたいんです。おいくらでしょうか?と聞く。

いま出てったんだけどね、と相手がいうそばから足音が聞こえる。おじいさんが戻ってきて私を案内してくれることになった。彼がここの主催者橋本氏であろう。いくらかと聞けば500円とのこと。100円玉を5枚渡す。相手はこの場所のちらしとおぼしきものを4っつに折り「後で読んでね」と言って渡してくれた。そこから説明が始まる。

私としてはここから氏が語ってくれた内容をできるかぎり正確に記述したいと思うし、そう思って一生懸命話を聞いたつもりだ。しかし結局何を言われていたかよくわからない。その中からまず間違いなかろうという点にしぼって書いてみる。

ここの像は全てこの方が彫ったものとのこと。材料は木の売り物にならない部分や、どこそこを掘り返したときでてきた木の根っこ、あるいは洪水のときに流れてきた木だそうな。そんな話を聞きながらまず登場するのは首だけのソクラテスとやけにサイケなキリスト像だ。

今になって冷静に写真を見ればなぜソクラテスがメークをしているの、とかキリストを彩色したとおぼしきスプレーが壁にまでかかっている、とかキリストは何故花をもっているのか、とかいくつもポイントがみつかる。しかし当時の私は早くも放心状態である。橋本氏は快調に説明をする。いや、人形を持ってきてくれたのはいいんだけど、ソクラテスの胴体がどうたらこうたら、、聞き取れない。わずかに聞き取れた言葉も私の上を通り過ぎようとする。

いや、なんのこれしき。私は十分に心の準備をしたはずではないかと思うと次は地獄の鬼がいるところに案内される。

この右側にはえんま様とかいろいろいる。通路の両脇には北斎の絵の複製品と称する物が延々と飾られてる。本物は金庫に入れてあるのだそうな。

張り紙がある絵は誰かがここに来た後国立博物館に行き

「本当に同じ絵がありました」

と知らせてくれたのだそうな。他にもいろいろな像があるのだがそのテーマに一貫性があるとも思えない。あとでもらったチラシをみれば

4 歌丸美人20体

7 貴方の祖先が信じてきた神々の実顔約20

とかいろいろ描いてある。

説明を聞いているとどうも「こんな話がある」と聞くとその像を彫ってみるようだ。そういえば釈迦の実顔とかいう像もあったように思うが、なぜ実顔と分かるのだ。しかしそんなことはいまこうして静かな部屋でパソコンの前に座っているから考えつくことであり、そのときの私は氏のあとについて歩くので精一杯である。置いてあるのは像ばかりではない。

なんでも亀が流れついたけど、首は腐って落ちてしまったから絵を描いたのだそうな。そこからとある部屋に入る。中には壁にいくつも像が並んでいる。元は70あったのだが、子供達が10ほど持っていってしまったとのこと。机の上には海軍関係の本が広げてあり、山本五十六の像も有る。

なんでもこのおじさん、昔第二艦隊 第四水雷戦隊の駆逐艦 春雨に乗っていたのだが、肺を悪くして退艦したのだそうな。そこまでは戦争も勝っていたのだが、それから負け戦ばかりになったとのこと。私は

「春雨って最後まで残ってましたっけ?」

と聞くと

「知らない。その後何もいってこないもんな」

という返事だった。(帰ってから調べると春雨は1944年6月8日に沈没している)その部屋の出口近くに妙に写実的な裸体女性のデッサンがある。なんでも仏像ばかりだと頭がおかしくなるから、、ということだった。

その先のエリアにはプレハブの物置小屋のようなものが並んでおり、その中に像が置かれている。一つの小屋毎にだいたい傾向の似た像があるのだが、目を引くのは第2次大戦関係の像である。

これはチラシの中で「世紀の軍勇ヒットラー永遠の勇姿」と称されている物だろうか。

東条英機らしい。有能で小心で忠実な官僚が神になれる世などあるのだろうか。そんな考察は別として何を頭にかぶっているのだろう。

リンチにあい、逆さづりにされたムッソリーニと愛人。

チラシでいうところの「独露でポーランド分割の耳打の実顔」か。彫られているのが誰だったかは忘れたと氏は言っていた。(帰って本を調べるとリッベントロープとモロトフか。すると一番右は誰だろう)

仏像、実在の人物の像ばかりかと思うとこんなものもある。

氏曰く「あれはリラックスするぞ。やったことある。お金とられるけどさ」とのこと。男の手がいやらしい。

マイガケ(まえがけ?)をめくったところでそんなに大したものは見えない。木の節目が男性の想像力を刺激すれば何かに思えるかもしれない、といったところだ。

ここらへんまで来ると、氏の話に相づちをうちながらなんとか集中して聞こうとしてきた私の気力もつきてくる。しかしまだ先は長いのであった。

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注釈