狂った独裁者に仕えるということ

2012-07-30 06:46

海野十三という人の本をiPhoneで読んでいる。著作権切れバンザイ。その中に「英本土上陸作戦の前夜」という物語がある。

記憶喪失になった主人公が自分は誰であったのかを見つけようとする。時はドイツが英本土に上陸せんばかりの情勢。細かいことは省くが、自分が日本軍の軍人であったことを思い出した主人公は、ドイツ軍の英本土上陸を命をかけて支援したフン大尉にこういうのだ。

「しっかりせんか、アン――いや、フン大尉。君の壮烈そうれつなる戦死のことは、きっとおれが、お前の敬愛するヒットラー総統そうとう伝達でんたつしてやるぞッ!」

via: 海野十三 英本土上陸作戦の前夜

歴史的背景を考えればこうでなければならない。最近の架空戦記とかでは、日本軍はなぜかドイツを攻撃したりしているが、当時ヒトラーは稀代の英雄だったのだ。そのヒトラーに生命をすてて任務を遂行したことを伝える。これはその人にとって最大の名誉だったに違いない。

トップに立つ独裁者が狂っている場合、その組織で「出世する」ということはその狂人を支持し、自分が一体化することを求められていることになる。であれば手放しで出世を喜ぶわけにもいかないと思うのだが。

なぜこんなことを言い出しかといえばこの記事を読んだからだ。

――口コミサイトは近日再び見れるようになるのか。

 どういう形で再開すればいいか検討している。今までの楽天市場に出店してもらっている店舗のサイトとは違い、コボは楽天自身の商品の直販サイトに近いから、ある程度口コミを吟味して再度出すという可能性もある。

via: コボの出足は大成功、ネガティブな口コミは誤情報だから消し、内容を吟味して再掲載する――楽天・三木谷浩史社長(3) | インタビュー | 投資・経済・ビジネスの東洋経済オンライン

繰り返しになるが、Koboの品質、操作性については問わない。ある企業が初めてハードウェアを手がけたのだから、学ぶ点も多いだろう。

しかしここで社長が公言していることは、まるで民主党のようだ。

「自分たちに都合の悪い情報が蔓延しているからKoboのレビューは閉鎖した。再度公開するとすれば、そうした都合の悪い情報は削除した上でのことだ」

と一企業のトップが堂々と語っているのである。

例えば、私が楽天に勤務する平社員だったら「うちの社長は良い人なんだが、時々誤解されやすい言動をするんだよね」とでも言えばいいのかもしれない。しかし仮に大出世した取締役ともなれば、社長の言葉を否定することはできない。かくしてこのような発言が生まれる。

kobo Touchをきちんとした状況でご提供しない中で生まれた混乱は100%われわれの責任ですが、さまざまなレビューが書かれました。「期待を裏切られた」というお怒りの声もいただいており、レビューがレビューとして機能しなくなっていました。良いこと、悪いこと含め、あるべき姿を参考にしていただくのがレビューですが、不完全な状態からスタートしたkobo Touchのレビューの場合、かえって誤解を招くのではないかと判断しました。

 混乱を避けるため、いったん状況を正常化させていただいてから、レビューを再開したいと考えています。レビューを非表示にしたのは緊急の一時的な措置で、投稿されたレビューの削除は考えていません。kobo Touchは大変インパクトの大きい商品。そのインパクトの大きさから特例中の特例として、今回はやむを得ず、非表示にしました。レビューを非表示にしたのは、楽天史上初です。

 現在、アプリや端末の基本的な不具合は解消しています。過去のレビューについて、近く再表示する予定です。

via: 「大きなミスを犯してしまった」――楽天koboに何が起きたのか (2/3) - ITmedia ニュース

本間氏が心からこう考えているかどうかは私にはわからない。しかし執行役員という立場である以上、之以外の発言はありえないことになる。(これでも「過去のレビューについて近く再表示する」と社長と違うことを発言してしまっているが)

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先日毛沢東が主導した「大躍進」の本を立ち読みした。トウショウヘイは「当時我々は沈黙していた」と述べたとか。数千万人が虐殺されている状況にあっても、狂った独裁者の元で出世した人間にできることはせいぜいが

「沈黙」

ということなのだ。私自身が出世とは縁遠い人生を送っているのでこれは半分やっかみなのだが、この一節を思い出す。

 荘子が濮水のほとりで釣りをしていた。そこへ楚の威王が二人の家老を先行させ、命を伝えさせた(招聘させた)。
「どうか国内のことすべてを、あなたにおまかせしたい(宰相になっていただきたい)」と。荘子は釣竿を手にしたまま、ふりむきもせずにたずねた。

 「話に聞けば、楚の国には神霊のやどった亀がいて、死んでからもう三千年にもなるという。王はそれを袱紗(ふくさ)に包み箱に収めて、霊廟(みたまや)の御殿の上に大切に保管されているとか。しかし、この亀の身になって考えれば、かれは殺されて甲羅を留めて大切にされることを望むであろうか、それとも生きながらえて泥の中で尾をひきずって自由に遊びまわることを望むであろうか」と。

 二人の家老が「それは、やはり生きながらえて泥の中で尾をひきずって自由に遊びまわることを望むでしょう」と答えると、荘子はいった。

「帰られるがよい。わたしも尾を泥の中にひきずりながら生きていたいのだ」

via: 荘子、濮水に釣す(荘子・秋水篇)-- 漢字家族

2年前に楽天技術研究所というところの採用面接を受けた。2次面接でNGをくらいその当時は落ち込んだものである。しかしもしそこで採用されていたら、こういうブログもかけなかったなんだろうな。