はてなの文化に「はてな」と考えた

2007-04-23 00:00



先週の金曜日WD Live! Seminar「株式会社はてなと考えるにっぽんのWeb 2.0。そのサービスとサイト運営 伊藤直也氏 × 須賀正明氏」に行って来た。すでに大変すらばらしいレポートがいくつかあがっているので(この文章の最後にリンクを張っておく。)、全体について述べるのはやめにする。自分が興味を持ち、考えた点をいくつか。


はてなの文化は(参考にしたそうだが)Googleのそれといくつか共通点が見受けられる。基本は「開発者が作りたいものを作る」ということ。なぜかといえば



はてなのサービスは基本的に「作りたい」と思った人間が一人で作る。(開発が進むと2人くらい手伝う)新しいことの正しさは、その開発者にしかわからない。新しい物をみせれば100人のうち20人は否定に回る。したがって一人で考え公開してしまうのが基本。



上記主張には深くうなづけるものがある。大きくてもうかっている企業では、100人いれば98人までは新しいものに対して否定に回る。他人の足をひっぱることで給料がもらえる人たちがそんなにたくさんいる、という事実には気がめいるがそれが現実だからしょうがない。


しかしこうした「作りたいものを作る」を実践しようと思うといくつか落とし穴がある。伊藤氏はそこについてちゃんと述べていた。



はてなの求める人材とは「物を作ることへの欲求が高いこと。はてなのサービスの変さを肯定できること。」ただし、クリエイターとしての才能と欲求は別。すべての人間が↑のように新しいサービスを創造できるわけではなく、現在はてなでそれができるのは3-4人。他は週に一日好きな事をやっていい、という日があるので、その日に作って社内でアピールすることになる。



確かに「モノを作ることへの欲求が高い」人間はいる。しかし外界からのフィードバックを全く受け付けないで、誰にも理解できない一人だけの世界をつくり続けられても困る。


いや、サクセスストーリーの中には、そうして「誰にも理解できないけど成功した」例が山のようにあるけど、それと「誰にも理解できずやっぱりゴミ」との区別はどこでつければよいのか?


伊藤氏は明示的に言っていなかったがそれがはてなで励行している



ほめるのと駄目だしをきちんとメリハリをつけてやる



ということなのだろう。


もうひとつはWebサービス関連企業に共通していることだが、現実世界からのフィードバックを受けやすい、というものがある。仮に大きな企業で製品を作ろうとしよう。すると市場にでるまでにいくつものハードルがある。上司を説得し、部長を説得し、事業部長の審議にかけ、企画検討会で全部やりなおしになり、最後は品質保証部門にお蔵入りにされる。その段階でだんだんサービスは「資料はきれいで、みんなのハンコはおしてあるけど、誰も使いたいと思わない」ものになってしまう。


しかし何がウケルか、というのは本当に誰にもわからないものなのだ。であれば早めに市場に出してしまい、そのフィードバックを受けつつ改良していく、というのが「ひとつの方法」である。


なぜ私がここで「一つの方法」と言ったか。こうした「環境からのフィードバックをうけ進化していく」方法は確かに有効だが、もっとも適切な方法ではない場合があるからだ。最近読んだ本で知ったことだが、われわれの眼は実にばかげた構造になっているという。なぜかといえば、体が透き通っていた遠い祖先の目の構造に進化による改良を加えたものだからだ。つまり進化は確かに現実に適応するのによい方法ではあるが、それは局所最適しか生まない危険性も持っている。


講演で伊藤氏が述べていたが、仮にはてなのサービスが最初から世界を見据えていれば、今頃世界標準になったかもしれないものがいくつもある、という。一度は倒産しかかり小さな企業からスタートのであれば、最初に日本市場にフォーカスする、というのは適切な方法だったのだろう。しかしそれで失ったものもあるわけだ。


はてなのすばらしいところは「現実からのフィードバックをサービスにも社内のマネージメントにも生かしていく」ことだと思う。今後はてながこの「失敗」をどのように反映させていくのか注目したい。


もう一つ興味深かったのは、このような「エンジニアの自主性を生かす」ために必須の「人材獲得」に関するコメントである。



採用に関しては妥協をしない。小さな会社なので、変な人を採用すると会社が壊れてしまう。公募は割りにあわないと思っている。200-300人書類をもらって一人も面接できなかったこともある。知り合いからの紹介が多い。



実によくある間違いというのが「新しいことをやる会社だから”ユニークな人”を採用しよう」とただの変な人を採用してしまう場合だ。


これも実に判断が難しい。ただの変な人と、変わっているけど凄い人の線はどこにあるのか。そこに対してはてなが「現実からのフィードバック」を受けつつ見つけた方法というのが「紹介重視」ということなのだろう。


かくして話はやはり「企業は人なり」というところに戻ってくるわけだ。マネージメントをやる人、働く人、そうした人がちゃんと企業の文化と制約に適合してこそ伊藤氏が述べていたようなポリシーがちゃんと働く。表面だけなぞっても駄目だよ。


最後にもう一点。私も愛用している「はてなブックマーク」は伊藤氏の発案で作られたのだそうな。うろ覚えだが氏はこういっていた。



ダイアリーと連動して、なんとかと連動して、FireFoxの機能拡張にして、とやっていくとなんだかわからないものになる。はてなブックマークを作っているのは私(伊藤氏)だから私が理解できないことはやらない。



この言葉を聴いたとき「そういえば私も同じようなことを言うな」と思ったとと同時に「?」と疑問符が頭に浮かんだ。


はてなブックマークとはてなダイアリーはぜひ連動してほしいと思っている。今のはてなブックマークには100文字までしかコメントがつけられないし、そのように制約することによりメリットもわかるのだが、もっと長い文章を書きたいときもある。


はてなでそうしたサービスを提供していないか、と思い探したができないことを知った。大変失望した。


というわけでぜひそのサービスの実現を、、と30秒ほど考えた。しかしその後1日考えて、おそらく伊藤氏はこういいたかったのだろう、と考え直した。


私は一人のユーザとして「ダイアリーとブックマークの連動」と気楽に言っている。しかしそれを実現しようとすれば、実にたくさんの「設計上の判断」をする必要がある。それを誰がするのか?


結局開発者がすべての問題に対して「こうあるべき」と判断していくしかない。それを仮に「誰かにやらせといて」では絶対にろくな物はできないのだ。(よくあるパターンというのが「どっか外注につくらせといて」といい、発注された側は「何のことかよくわからん」とぶつぶつ言いながら作り、できたものは結局ろくなものにはならず「こんなできか」とお蔵入りと金の無駄遣いに終わる、というものだが)


であれば、結局誰かが「俺がそれ使いたいから作る」と言い出さない限り、まともなサービスはできあがらないわけだ。そう考えると伊藤氏の言葉もうなづけるというもの。私もプログラムを書く人間のはしくれであれば、文句があれば自分で作ればいいのだ。ブックマークのAPIは公開されてるし。ブログ作成ツールだって山ほどあるのだから。


といったところでとてもあれこれ考えさせてくれるセミナーでした。ちゃんとしたセミナーの内容、感想は以下のURLを参照してくださいな。


[参考]


http://blog.inasphere.net/2007/04/hatena_seminar.html


http://gnr.seesaa.net/article/39527170.html


http://d.hatena.ne.jp/ooolong/20070420/1177083969


http://www.snow-drop.org/pgday/archives/2007/04/20203453.html