iPhoneを簡単に模倣できない8の理由

2007-10-26 00:00



1月のアナウンス時には「こんなものすぐ類似品がでる」という声も散見されたApple iPhoneですが、2007年も終わりになろうというのに今のところ類似品は見当たりません。(中華製の笑える製品は別として)


これはなぜでしょう?以下に私が思いつく理由を列挙します。私は20年来のAppleファンですので、多分にバイアスがかかっていることは自覚しておりますが、今は考えたままを書いておきます。


技術的な理由(製造編)


・OS Xを採用しているというアドバンテージ:日本の携帯とかカーナビはiTron or Linuxの上に一から手作りで各種機能を実装している。そのようなプログラムを長年にわたり「機能拡張」してきたがために、誰にもメンテナンスができず、「とりあえず動いている」状態になっているものも多いと聞く。それに比べて、しっかりした実績と機能をもつOS上でアプリ開発ははるかに容易であり、 OSが提供する豊富な機能を利用することができる。


・OS X自体に存在するアドバンテージ:じゃあWindows Mobile(その他もろもろの携帯情報端末用OS)で作ればいいじゃないか、といえばそうはいかない。両者を比べた人は例外なく、iPhone(or iTouch)のレスポンスの良さに感嘆している。


動作速度について疑問を持たれてる方もいらっしゃいましたが、あんまり自然にスムーズに動くので、それがあたりまえみたいに感じてしまって、久しぶりにAdvanced/ZERO3[es]のOperaを使っていらっとするまでSafariがさくさく動いてる事に気付かなかった、とだけ言っておきます。

らばQ : iPod touchとiPhoneは日本のモバイル市場の未来を破壊するらばQ : iPod touchとiPhoneは日本のモバイル市場の未来を破壊する


・じゃあOS Xみたいなものを作ればいいじゃないか:できるものなら作ってください。是非とも。今すぐに。Appleが携帯情報端末向けOS Xをライセンシングするとは思えないので、もし「同等以上の機能を持つOS」があれば是非使いたいのです。


しかしNext Step以来営々として積み上げ、洗練されてきたOSを簡単に模倣できると思える人は、、、ぜひともその夢を実現させてください。


・ 私は未だにiPhoneほど描画が早く、かつユーザの操作に対してダイレクトに遅滞なく反応する携帯情報端末を使ったことがありません。描画チップを搭載した端末は今までも存在したでしょう。しかしあのレスポンスの良さは一体なんなのか。これに関しては私はまだ答えを見つけていません。


技術的な理由(設計編)


・ 仮にiPhoneの開発が2年前に始まったという言葉を信じましょう。この2年間にAppleがやったUIのコンポーネントを携帯情報端末向けに一から作り直す」というのは途方もないことのように思えます。スクロールバーというのは実に偉大な発明だと思っているのですが、iPhoneではそれを捨ててきました。iPhoneで使われているボタン、数字を選択、表示するためのコンポーネントなどのGUI部品にMac のGUIと共通する要素はほとんどありません。


この事実をうまく表現できない、と思っていたのですが先日ある記事を読んでAppleがiPhoneで何をしたのかようやく理解できました。


iPhone UI には「動詞」が存在しないJobs 氏はいう。iPhone のインターフェイスには「動詞」(verb)が存在しないと。例えばこれまでのマウスやスタイラスの場合、ユーザーは写真のような対象を選択(select)し、そしてそれとは別に動作(action)、即ち「動詞」を選択することによって何かをさせた。    *     *     *うまくいかないのではと恐れていたJobs 氏は更にいう。アップルの開発チームはいつも恐れていたんだ。この[マルチタッチインターフェイスによる]アプローチは iPhone を造っている間に失敗することになるのではないかと。 「我々は Newton を笑いモノにした Garry Trudeau のマンガのことをいつも心に思い浮かべていた」と、手書き文字認識システム[注:Newton]のことをからかった Doonesbury の 1993 年の4コママンガのことに触れて彼はいった。「今度はうまくやらなきゃ・・・」

Steve Jobs の肉声がうかがえるインタビュー « maclalalaSteve Jobs の肉声がうかがえるインタビュー « maclalala


このように全く新しい構想のもとUIを再定義、そのための画面部品から全て作り直す。それを2年先に市場に出す製品に対して行う。結果はユーザの使用シーンに適合した見事なUI。「そんなこと簡単さ」というなら是非とも(以下略)


技術+マネージメント上の理由


・iPhoneを使っていると、一つの思想が全体、すみずみまで行き渡っていることを感じます。ボタンをなくす。スタイラスなんかつかわない(「技術屋」が合理的に考えればどのような結論を出すかは別エントリー参照)ユーザにストレスを与えないため、あらゆる工夫を行う。


これは決して「みんなで考えよう」式のボトムアップ式製品開発ではなし得ないことです。などと私がくだくだしく書くより、こちらのすばらしいエントリーをご参照ください。


日本のインハウスデザイナーが iPhoneのデザインを提案したらどうなるか?

イソムラ式 : こうあるべきという共通認識イソムラ式 : こうあるべきという共通認識


CLIEとiPhoneをくらべて「なんだ、機能的にはあまりかわらないじゃないか」というのも一つのものの見方です。しかし製品として見たときその差はどこにあるのでしょう?


トップダウン式に理念を浸透させ、かつ全ての関係者に「すばらしい製品を作る」というモチベーションを維持させる。これは文字で綴るより遥かに難事です。それができる経営者がはたして何人いるでしょう?指示がよくわからずみんな結局勝手に作る。トップの理念に誰も心の底では共感せず、モチベーションがあがらない。そもそも理念なんか存在しない、といった状況なら見たことがあるような気がしますが。


ビジネス的な理由


・AppleはiPhoneという製品を開発したことにより、ビジネス上での「常識」をいくつも破壊しています。これを説明するためにはたとえば携帯電話のキャリアと端末メーカー(この言葉自体が実態を表していますが)の関係を考えてみればわかります。


特に日本において、端末メーカーのお客様はわれわれのような「ユーザー」ではなくキャリアです。従って(ここからは想像が多分にまじりますが)端末メーカーが行うことは「キャリアの意思決定者にいかにアピールするか」です。


これまた想像で書きますが、特に日本においてこうした関係は「相手のご要望を受け入れ、反映させる」ことに重点が置かれがちです。某歌手の決まり文句「お客様は神様です」という言葉は日本人の心の中に深く根を下ろしている。そうしたメーカーに行くとディスカッションで「○○の誰々さんはこういった」「あの人は××派の人だから、△△さんから攻めた方が」などとお客様の政治的な事情ばかりが飛び交います。そもそもこれは使いやすいのか、ユーザはうれしいだろうか、という言葉の100倍以上の頻度で。一見おかしなように見えますが「お客様」がユーザーではなくキャリアであることを考えればこれは当然なことです。


しかるにAppleは例えばAT&T様のご意向をくみ、それを反映させることに全精力を注いだか?


私の別のブログで、少し前に「iPhoneのビジネスモデル」というエントリーを書き、(1)iPhoneがコストを反映したまともな価格で売られていること、(2)Appleが販売奨励金をもらっているはず、の二点を指摘したが、後者の販売奨励金に関して、私と同じような見方をしている記事をTheStreet.comに見つけた。 この記事によると、Appleはアクティベーション時に$100~$150、さらに月々の通話・通信料金のうち$9程度をAT&Tから受け取るはず、というインサイダーからの情報(ただしソースは未公開)が書かれている。

Apple iPhoneの二つの相転移:中島聡・ネット時代のデジタルライフスタイル - CNET JapanApple iPhoneの二つの相転移:中島聡・ネット時代のデジタルライフスタイル - CNET Japan


この「通話料収入の一部をキャリアから受け取る」というのがどれほど「デタラメ」な条件か想像してみてください。通話、通信料金というのはキャリアの生命線です。「お客様」に向かって「その一部をよこせ」と要求する。例えばナビを供給してやるかわりに、自動車が売れ、サービスからえた収入のうち何%かをよこせ、とナビメーカーが自動車会社に要求したら何がおこるか?まあ笑い飛ばしてもらえれば宝くじにあたるなみの幸運というところでしょう。


はたして日本の「端末メーカー」はこのようなビジネスのやり方を「模倣」できるでしょうか?


・などとお金の話ばかりではなく、サービスの開発においてもAppleはただキャリア様のご都合の合わせるだけのことはしていません。例えばVisual Voice Mail(留守番電話をリストから任意の順番で再生する?)とかカンファレンスコールなどはキャリアと共同しなくては提供できないサービスです。それが必要であれば、キャリア様に「動いていただき」ユーザにとって有益なサービスを実現する。これも建前では「あたりまえ」のことかもしれませんが、なかなか実現できることではありません。


なんとか10列挙したほうが題名をつけやすかったと思うのですが、当方に思いつくのはこれくらいです。最近あちこちで「iPhoneみたいなものを作りたい」という言葉を聞ききます。そういう言える人にここで列挙した理由についてのコメントを求めたい、、と思うことしばしば。しかし窓際のサラリーマンはただ沈黙し続けるのです。