生産するソフト、という幻想

2007-11-05 00:00



例えば、「IT産業へのイメージ」に対する学生の回答として、「きつい、帰れない、給料が安いの3K」に加えて、「規則が厳しい、休暇がとれない、化粧がのらない、結婚できない」の“7K”というイメージが挙げられましたが、それに対するNTTデータ相談役の浜口氏の答えは、「3Kの“帰れない”は、帰りたくない人が帰れないだけ。スケジュール管理の問題だ。」

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この「重鎮」が座っている場所から見えない世の中の現実、を一つ書いておく。


確かに日本の会社において「残業が大好き」な人間は多い。それは一つにはそうした態度がほとんど常に称揚されているからでもある。無駄な作業を効率の悪い方法でやって残業しまくるNTTデータの社員はとても多い。私はそのことを知っている。そしてその人たちは確かに「帰りたくない人が帰れないだけ」なのだろう。




しかし不幸にしてそうした「無能な上司」のもとに派遣(あるいは偽装派遣)されてしまった「IT技術者」は果たして「帰りたくない人が帰れないだけ」だと言えるのか?




昔話をしよう。私は愚かな職業選択の結果、NTTデータで半年ほど偽装派遣として働いたことがあった。そのときの上司兼お客様は残業と会議が大好きな人だった。いつかは派遣5人ほど集めて朝の10時から夜の10時まで「会議」という名の演説会をやっていた。(もちろんその結果何も決まらなかったし、何も進まなかったが)


彼が頭を何かに打ち付ければ、確かにその日は定時で帰ることができたかもしれない。それは彼の自由だ。しかし我々に自由はなかった。お客様兼上司がなすがまま。それでも「3Kは本人がやっていること」と言えるのがNTTデータの重鎮というものだろう。彼らはそういう人間だ。NTT*にマッチしない会社の人間はまあなんというか自由に使い捨てできる奴隷と思っている。


さて、なんとかその職場を抜け出し、NTT系列の弱小子会社の本社に戻る。そこである日社内報を見た。


その社内報は私が思うに画期的なものだった。新入社員の「本音」が語られていたのだ。そこに並んでいたのは読むのがつらいような言葉だった。曰く


「学生のときは徹夜でプログラミングも平気だったが、この会社じゃそんなことは何の役にもたたない」


(ちなみにそうした言葉に対するNTT出向者のコメントは「甘いことを言っている」だったが)


何かの間違いで進路を考えている人がここを読んでいれば、是非聞いてほしいことがある。


それは、システムインテグレーター(SIer)が手がける案件のほぼ全てが、高度なプログラミングスキルなど要求せず、むしろ顧客の要件をうまくまとめてそれを実現することに価値を置くからです。


▼Googleがなぜ高度なプログラマーや数学者を募集するのか。 ▽答え:彼らの本業は「優れたサーチエンジンを開発すること」だから。


同じように、今度はSIerで考えてみましょう。


▼日本のSIerがコミュニケーション力の高い人物を募集するのはなぜか? ▽答え:彼らの本業は「顧客の要件通りにシステムを作ること」だから。


どうでしょう、これがSIの道理なのです。こういったことをIT業界の重鎮は回答すべきでした。

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SIerと呼ばれる会社に勤務するために、プログラムが書ける必要は全くない。顧客を丸め込み、派遣労働者をこき使い、請負先に無理な納期と予算を押し付けることができ、社内の会議でそれらしいことを発言でき、長時間残業を生き甲斐とできればそれでいいのだ。IT関連の先進情報に通じている必要もない。


仮にあなたがソフトウェアを「創造」することに少しでも興味があるならば、絶対にそうしたSIerに就職してはいけない。彼らはソフトウェアとは「生産」するものだと思っているのだ。SIerが行うことは「労働者を管理してソフトウェアを生産させること」なのだ。


とここまで書いて、ようやく標題に戻ることができる。


私はいろいろな経験を通じてこの「ソフトウェアを生産する」という行為は幻想であるということを確信するに至った。図面通り、ものを作っていけば立派なソフトウェアが出来上がる。そんなことはあり得ないのだ。複雑な構造物を作り上げることは、ソフトウェアを創造する、という側面なしには成り立たないのだ。


しかし我が国ではこの「ソフトウェアを生産する」という神話がまかり通っている。従って開発に失敗すれば、それは「管理が悪かった」せいなのだ。


などと力説していてもしょうがない。私が転職した頃に比べれば、インターネットで情報を得るのは遥かに容易になった。もしあなたがソフトウェアを創造する技量に興味があり自信をもっていれば、まず目指すべきはGoogleだ。そこに受け入れられなければ、他の企業を探す。しかしSIerがどんなにうまいことをいっても絶対に信用してはならない。