映画評:おくりびと

2009-03-11 07:10

ネタのない日は本家から改変しつつ転載。

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ようやくオーケストラのチェリストになった男が、突然職を失う。故郷に帰り”とりあえず話だけでも”と応募した職は納棺職人だった。 というわけで、葬儀屋の下請けとして納棺をする日々が始まる。

白い死体の顔が化粧を施されることによりあたかも眠っているかのように美しくなる。それは厳粛な儀式なのだが、ユーモアも含めてちゃんと描くところがすばら しい。日本の”芸能”にありがちな内輪受けの悪ふざけでもないし、アカデミー賞をとったということは日本人限定のウケでもないのだろう。

主役の本木がすばらしい。”すしくいねえ”とかいって踊っていた頃は単なる派手な顔つきの男と思っていたが、気弱な中に筋の通った男を見事に演じている。会社社長の山崎、それに事務の女性も見事な芸。

しかし広末某だけはどうにも体質的に受け入れられない。ここだけが単なる役者の地に見えるのだ。とはいいつつも脚本にそった演技はしているなあと思い後で調 べれば、彼女の部分だけはキャスティングの後に書き換えられているとのこと。なるほど、役者を念頭において書かれたキャラクターだったか。

もう一つ気になったのが、音楽の扱い。これは私だけの感想と思うが、音楽が鳴り響いたとたん、TVの2時間ドラマになる。安っぽく、わざとらしいのだ。チェロの美しい響きはそうした演出を要しないと思うのだが、そうでもないのかな。

などと残念なところはあるが、やはり葬儀というのは厳粛な儀式である。順番が反対になってしまうのは本当につらい。順番通りで、しかも天寿を全うしたと皆が 思っているときはどこか陽気ですらある。こうした事も含め、登場人物は台詞で語らず観ている物に何かを感じ、させ考えさせる。

だ からまあ細かい事は言わずに1800円かな、と思っていた。しかし最後のクライマックスだけはその”押さえた演出”が緩んでしまったように思える。1/5 の時間でも伝えたい事は十分に伝わり、そしてそのほうが深い印象を残したのではないだろうか。

コロっ、フラッシュバックする父の顔、そして”父さん”。

それだけでいいではないか。映画館の中は”普段あまり映画にはこないとおぼしき”高齢の夫婦がたくさんいた。その中の一組が私の前に座り、”あれ、○○だ よ”とネタばれを大きな声でしゃべっていたことばかりが感動を損なったとは思わない。

などとケチを付けてはみるが、良い映画であったことは確か。というか”日本の芸能”などとまとめて”素人、幼稚、内輪受け”と考えていた自分の不明を恥じる。アカデミー賞受賞という”外圧”でしかこうした作品を知り得ないのは問題であるなあ、と反省する。