映画評:ウォッチメン

2009-04-03 06:52

疲れがたまった金曜日は本家から改変しつつ転載。

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か つてMinute menというヒーロー集団がいた。アメコミのヒーローだから、基本的にはマスクをかぶった人間である。その次の世代がWatch men。しかし彼らの活躍は条例によって禁止され、今は引退状態。最初の音楽が終わる間にそうしたことが断片的なショットで示される。最初

”これはアメリカ人にとっては常識の物語かもしれないが、私にはそうした予備知識がない”

という恐怖に襲われる。しかしそれらの”わからないこと”は物語のなかでちゃんと説明されるので安心しよう。

さて映画の冒頭、誰かがその引退したヒーローの一人を捜し出し、殺害する。これはどういうことか。Watch menの元仲間に戦慄が走る。誰かがヒーロー狩りをしているのではないか。

そこからのストーリはよく考えられている。上演時間は2時間43分だがそれより長く感じられた。退屈したという意味ではない。いろいろな筋立てがぎっちり詰まっているのだ。途中で話がどう決着するのか全く見えなくなる。

映画の中のアメリカでは、ニクソンが3選されている。なぜか。ベトナムで完璧に勝利したからだ。これは(私が知っている)アメリカのヒーローが避け てきた話題でもある。アメリカンウェイを守るヒーローならば、当然ベトナム、イラクにいかなければならないのだ。そりゃそう
でしょう。アメリカの若者が死んでいるんだもん。救わなくちゃ。”敵”を殺さなくちゃ。

と いうわけで”ヴェトナムでの勝利”をもたらしたのは、不幸な事故に巻き込まれた結果、神に近い力を手に入れた男。この男はほとんど神がかっているのだが、か といって無敵でないのがもう一つよく考えられていると思うところ。ひとり不幸な生い立ちのヒーローがいるのだが、この男は不気味でありかつチャーミングだ。

ソ連はまだ健在であり、そして米ソ両大国は核兵器を手に余るほど持ちながらにらみ合っている。ニクソンが決断を迫られるSituation Room はDr. Strange Loveのパロディであるか。そんな状況だが、筋の通った元ヒーロー達の行動(あえて活躍とはかかない)の結果、世界は”平和”を手に入れたかのように思える。しか し最後にちゃんと(見方によっては)凶悪な落ちがついている。平和は偽りの姿で、人は殺し合いいがみ合うのが真実の姿であるということか。いや、すばらしい。

R- 15となっているが確かにエログロシーンは強烈である。しかしダークかつシリアスな全体のトーンとちゃんと釣り合っている。ヒーロー物のお約束にちゃんと 向き合った上で一つの映画としてまとめたのは見事だと思う。それゆえ強烈に感動した訳ではないが1800円をつけようと思うのだ。

一つ文句をつけたいのは、ヒロインの女の子があまりかわいくない、というか私好みでないこと。妙に顔が四角い。あとクライマックスのシーンで流れるモーツァルトのレクイエムは少し浮いていたかな。


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こういう”スーパーヒーローたちの矛盾”に正面から向き合い、そして人の心を動かす作品って我が国に存在してるんだろうか?