映画評:サマーウォーズ

2009-08-18 06:56

お盆あけ(といっても休んだの一日だけだけど)は本家から転載

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昔"一発屋"と呼ばれる歌手がいた。突然現れ、誰にも想像できないような大ヒットを飛ばす。誰かが"○○大ヒットの影にあった秘話"を書く頃、売り上げが収束し始める。

そして誰もが待った"次の曲"が発表される。確かに大ヒット曲の要素はちゃんと取り入れられている。しかしこのつまらなさは何なのだ。3曲目は出された事すら誰も知らない。私の年代だと異邦人の久保田早紀とか、マイ・シャローナのナックとか、"とんでとんで"の人とか

映画を見ている間その事ばかり考えていた。

映画が始まる。長々と仮想世界の説明がなされ、そして部室に閉じこもるNerd二人。そこに美人の先輩が飛び込み

"バイトやらない?あたしと一緒に旅行してくれるだけでいいんだけど"

と告げる。それは、おばあちゃんに"彼氏を連れて行くから"と約束した彼女が必要とした嘘だった。お願い4−5日だけでいいからあたしの彼氏のフリをして、と彼女いない歴=年齢の主人公に告げる。

ここまでひねりのない

"男子高校生の身勝手な妄想全開"

だと"いや、きっと何かワナがあるのだ。"とでも思いたくなる。しかしそのまま話は続く。落ち着け。時をかける少女でも最初は"帰ろうか"と思ったではないか。この作品もいつかは面白くなるかもしれない。しかしそれはいつだ。

話の筋は平たく言えば

"マトリックス-日本の高校生妄想バージョン"

である。(元のマトリックスは米国の高校生妄想バージョンね)

"ハックすれば世界中なんでも支配下における"

ネットの存在は映画のお約束だから突っ込まないが。しかしマトリックス リローデッドで見せられたような"そう来たか"という驚きはこの映画には一切存在しない。主人公達が帰 省した先には一族郎党が集まっている。登場人物が多過ぎ、誰も彼も印象に残らない紋切り型の人間としか見る事ができない。仮想世界での"戦闘"は単なる 3DCGの画像であり、今さらこんなもので誰が驚くのだ。誰が手に汗にぎるのだ。クライマックス、ヒロインが仮想世界でかっこよく変身する。制作者よ、観 客はこれ見て喜ぶと思ってるのか?

映画の後半は、さまざまな要素がばらばらになり始める。おそらく制作者もここらへん作っていて楽しくなかったに違いない。とにかく映画を終わらせよう。見せ場を作ろう、という意図が見え見えだ。

いいんだよ、高校生の妄想でも。でも金はらってるんだから何か面白いもんみせろよ。

っていうかあれだな。前作時をかける少女がなぜあんなに支持されたか制作者もわかっていなかったということか。それは一発屋の宿命でもある。キャラクターの顔は体つきは前作と同じだが、どこにも心がこもっていない。ここにあるのは形式だけだ。


なんだかんだあった後、映画は男子高校生の妄想とともに平和な幕切れを迎える。(その世界ではキスをするのはいつも女の子から)エンドロールが終わるまで席に座っていたが、それは単に私の列の人間が誰もたたなかったからだ。

高 校一年のとき勝手にシンドバッドという色物としか思えないヒットを飛ばしたバンドがいた。二曲目は早口言葉とかマイナーの曲調とか一曲目そっくりだったが 酷いでき。もうこれで彼らの名前を聞く事もあるまい、と思っていたとき"いとしのエリー"で私の頭は軽くふっとばされた。そのバンドというかリーダーの名 前を子供の親になったこの歳まで聞く事になるとは想像もしなかった。

その経験にならい、この監督の作品は、もう一つだけ(それが公開されればだが)見る事にしよう。

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いや、ひどい映画であった。

2chなどでこの映画を擁護する意見を見ると

"すごい映像美"

とかいう言葉が出てくる。確かにこの映画のグラフィックスに感心できたほうが世の中に幸せのネタは多いかもしれないが、不幸にして私はそうした感性を共有していない。

先日アニメ版のだめカンタービレをみた子供が

"アニメはみんな顔が同じ"

といった。確かにそうだ。

しかしそれがなんだ?のだめカンタービレは面白いのだ。思わず笑い、感動し、2次元の紙に書かれた同じ顔の登場人物の喜び、悲しみ、苦悩を読者も共有することができる。

ちなみにこの映画で唯一心に残った絵はおばあちゃんの若き日の写真である。制作者の意図が透けて見える絵なのだが、それでも結構印象に残る。