製品開発における「ユーザニーズ」の捉え方

2011-11-15 07:36

というわけでEvernoteに溜め込んだ情報をめくってみるわけだ。すると「製品開発におけるユーザニーズの捉え方」についていくつかの考え方があることに気がつく。

まずはこんな考え方。

成功したスタートアップの多くは創業者自身の問題を解決しようとして始められたのだという話を前にした。あるいはこんな法則があるのかもしれない。問題をいかに良く理解しているかに比例して富は得られるものであり、そして人が一番良く理解している問題というのは、自分自身の問題なのだ。

via: スタートアップを殺す18の誤り

これは一番単純、かつうまくいけば強力だ。「自分がほしい物を作る」というやり方。ユーザニーズは自分に聞いてみれば良い。スティーブジョブスが行うフォーカスグループとは、彼の大脳の左半分と右半分の会話である、と誰かが書いていた。Appleは一般言われているフォーカスグループは使わない。彼ら自身が「最高」と思える製品を作る。この考え方の延長線上にあるのだと思う。

しかしいつもこのような製品があるわけではない。

もちろん自分以外のユーザのためのものを作ることはできる。私たちはそうした。しかし危険な領域に足を踏み入れているということを自覚している必要がある。それは実質的には計器飛行しているようなものなのだ。だから、(a) いつものように自分の直感に頼れるとは思わずに意識的にやり方を変え、(b) その計器をよく見る必要がある。

via: スタートアップを殺す18の誤り

自分は使わないが、これを使うユーザがいるだろう、という想定の元に物を作るやり方。この場合もちろんなんらかの想定(もちろんその際グループインタビューをしてもかまわない)からスタートするのだが、コンスタントにフィードバックを受けることが必要だ。具体例を挙げよう。

東証一部上場企業の中でいま最も成長著しいのがソーシャルゲームの二大巨頭だ。しかも海外進出やら、球団買収やらで連日のようにその名前を聞く機会がある。もちろん世間の評価としては賛否両論あるが、どちらかの就職説明会に参加したとおぼわしき人物が、「就活の説明会にて」と題して次のような書き込みを行っている。

 @super_naomixさんが紹介した。

 「▼▼の説明員『この中でわが社のゲームをやったことがある方はいますか?』誰も手を挙げず説明員『そうですよねー。うちのゲームは高学歴の方はほとんどやりませんから』」

via: 【きょうの名言】うちのゲームは高学歴の方はやりません | YUCASEE MEDIA(ゆかしメディア) | 最上級を刺激する総合情報サイト | 1

モバゲー内にあるソーシャルゲームの多くは、イベントのルールをユーザーの反応を見ながらより「ユーザーが楽しめる」方向に何度もチューニングを行っている。これまではアクセス状況などを見てああでもない、こうでもないと試行錯誤を繰り返し、どういうイベントの作りがいいのかをつかんできた。データマイニングを活用して分析が高度化していくことで、おおざっぱな数値指標だけでなく、詳細な因果関係を把握しながら、仮説検証を繰り返せるようになる。

via: 2100万会員モバゲータウンはデータマイニングの宝の山/Tech総研

自分では絶対に使わないサービスを成功させるためには、このような「データマイニングで宝の山を掘り当てる」ことが必要になる(著者は一つ目の引用が真偽さだからぬものであることを承知しています。しかし誰も「まさかあの会社がそんなことを言う訳はない」とはいわんわな)

------------
ここまでは成功例である。次はよくある失敗例。

危険なのは、何気ないユーザの一言を真に受けてしまうことや、一担当者の意見が必要以上にものごとをおおげさにしてしまうような現象である。 これを防ぐには、デザイナーが正しいとはどういうことなのかを判断しなければならない。依頼主や消費者から矛盾する指摘を叩きつけられたときにはひるむことなくこれは正しい判断であると突っぱねられるような強い意志がなければならない。 そうでないとできあがったときに、いろいろな要素は取り入れたけれども、整合性はないといった結末になりかねない。

ソーシャル・イノベーション・デザイン p237

作る側のマインドが貧しいと、消費者に合わせるあらゆるものを揃えたと言って、迎合するようになる。携帯電話が象徴的で、いまはインタラクションの意味を履き違えて、壁紙を豊富に揃えるなどして本質を見失い、サブカルチャーの部分だけが発展している状況にある。これは日本の文化の偏った部分であり、コマーシャルとしてのデザイン活用に過ぎない。デザインとして機能していないに等しい。


ソーシャル・イノベーション・デザイン p238

ユーザーニーズに応えましたよ、と形だけ整え、現実には思考を放棄している。いや、私もサラリーマンですから「担当者のご意見」を聞かないとどうなるかは知っているんですけどね。

上記の例+「ユーザにほしい物を聞く」という他にも必敗パターンとして「機能・性能で他社をうわまわる」というやつがある。

オサイフないから買わない
防水ないから買わない
ワンセグないから買わない
着うたないから買わない
もっと色んな機能が欲しい

みんなこう言う
だからメーカーもそれに答えようとしてきた
ユーザビリティを蔑ろにしてでも

でも売れてるのはiPhone
消費者は適当なことばかりいうが
本当に自分の欲しい物が分かってる人間なんてそういない
本当に必要な物は何か、これを真剣に考えているメーカーが今日本にあるだろうか

via: 暇人\(^o^)/速報 : 日本のメーカーだって本気出せば「iPhone」を超えるスマホ出せると思うねん - ライブドアブログ

これは「機能性能を伸ばすこと=ユーザニーズに応えること」が成立する幸せな時期においてのみ成立する。イノベーションのジレンマで言えば、機能・性能の直線がユーザーニーズを追い越すまでの間だ。

---
最後は議論の遡上にも登らない「スローガン」

新ドコモ宣言として掲げるビジョンは以下の4つだ。

  1. ブランドを磨きなおし、お客さまとの絆を深めます。
  2. お客さまの声をしっかり受け止め、その期待を上回る会社に変わります。

via: 「手のひらに、明日をのせて」──ドコモ、赤い新ロゴで"新ドコモ宣言" - ITmedia +D モバイル

コンサルタントに高い金払えば誰でもできるから、「確実性」ということではNo.1だ。しかし実効性とは相関がない。