WISS2011に行ってきたよ(その2)

2011-12-06 07:29

というわけで、WISS2011の感想の続きである。

「ベストペーパー賞」と「発表賞」をダブルで受賞したのは、

「動画の極限的な高速鑑賞のためのシステムの開発と評価(栗原一貴)」

だった。
ナイトセッションでは、この技術を応用して「プリキュアオールスターズを30分に短縮して見よう!」が開催された。プリキュアオールスターズ3は私も娘も大好きな作品だ。

冒頭から超高速で話が流れる。字幕があるところは少し早め、そうでないところはもっと早めで飛ばしていく。

しかし途中まで観たところで私は席をたった。

私がこの映画を大好きな理由は、マンネリ化していたプリキュアオールスターズというシリーズに新風を吹き込んだところにある。

「しばらく見ない間にずいぶん増えたな」

という悪役のセリフがあったとおり、今や累積したプリキュアは21人もいる。変身シーンだけでやたらと時間がかかる。しかしその間セリフは流れ続けているからこのシステムではだらだら感は拭えない。

この映画をみて気がついたのだが、情熱的で、紋切り型のセリフばかり言う赤、知的で冷静な青、おとぼけキャラの黄色、という色分けがされているのだな。それが一つのチームで戦っているわけだが、この映画ではそれを「赤チーム」「青チーム」「黄色チーム」にわけてしまった。何がおこったか?

結果として「誰も先陣をきって敵に突っ込まないので、お見合いしているうちにふっとばされる青チーム」とか「敵の作戦にそのままのってしまう黄色チーム」とか実におもしろい場面がいくつもでてくる。そうか。マンネリにならざるを得ない設定でもこんな方法があったか。

ちなみに私の娘が好きなのは、黄色チームが「カラオケ対決」や「勉強対決」で敵を打ち負かすところ。私が好きなのは、そうした「マンネリ打破の想像力」を感じさせるところ。

しかし

高速動画鑑賞では、それらの要素は全部そげ落ちていた。確かに「全体のあらすじ」をたどることはできる。しかし黄色チームが相手の挑発にそのままのって「てへっ」とかやったところは聞き取れない。そりゃ「無駄なシーン」だから高速で再生だよね。

観終わった後、私はこんな光景を思い浮かべた。「アマデウス」をこの「技術」を使ってみて「ああ、アマデウス見ましたよ」と言い放つ人間。「ミッション:8ミニッツ」で何の変哲もない風景の中、電車がシカゴに向かうシーン。あそこを高速ですっとばして「ああ、ミッション:8ミニッツ見ましたよ」と言い放つ人間。

何気ない光景こそが輝く生の瞬間なのだ。そのことを教えてくれた映画を「ああ、見ましたよ」と簡単に言い放つ人間。そうした人間を量産する研究の成果を使って、私が心底面白いと思った映画を「プリキュア30分で見たよ」とみんなが笑っているのだ。


最後の全体議論でも、この「高速動画鑑賞」は大人気だった。国会中継にこれを応用したい、というのはいいだろう。しかし単に

「高速動画鑑賞と要約技術で、時間の短縮を!」

と主張している提言には正直うんざりした。そこまで時間を短縮して何がしたいのだろう?「観たことがある映画リスト」にチェックマークをつけることが目的なのだろうか?

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今回のWISSのテーマは「多様な価値観」。いろいろな価値観があり、それを認めることが大事、という理解だ。先程の論文を読めばわかるが、執筆者は「映画をこのような方法で鑑賞していいものか」と自問自答したうえで、「それでも価値がある」と判断しているのだ。それと異なる意見があれば堂々とそれを述べればよい。そして私はそのチャンスを与えられていたのだ。

自分の中で消化できない情報などいくら集めても意味が無い。

「情報過多」

が問題なのではなく

「情報を過多に無駄にしている」

のが問題なのだ。私はプレゼンでそう主張したつもりだった。しかし私のプレゼンに対する感想というのは概ね

「プレゼンはおもしろいが何を言っているかわからない」

というものだった。プレゼンはウケをとるためのものではなく、相手にメッセージを伝えるためのもの。であれば、私のプレゼンは0点である。

180名のうちまあ30人は他のことをしていた(寝てるとか)と想定しよう。150名×0.33時間だから50時間・人の時間を私は無駄にさせてしまった。

それを思うといたたまれない気持ちになる。天橋立から身を投げて死んでしまおうか。あるいは日本海側を鳥取砂丘まで走って行き、穴蔵を作ってそこに身を潜め余生を過ごそうか、と考えていた。

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それを思いとどまったのは、単に度胸がないからである。まあ済んでしまったものは仕方がない。今度人前で喋る機会があれば、その時間を無駄にしないように努力しよう。私は年寄りだから先が短い。身を投げたり、隠遁している暇はないのだ。

信じられないことに現在、大ブレーク中の愛菜ちゃんもオーディションには落ちまくった過去があるという。その数は実に50~60回にも上る。
 こんなに落ちてしまったら自分には才能がないのではないか、と本人も親も挫けてしまいそうだ。だが、彼女の長所は、東京のオーディションに落ちたときに悔し涙にくれながらも、大阪への帰りの新幹線の中できっちりと反省会を行う点にあった。母親とどこが悪かったのかをきちんと分析し、今度はこういうふうに取り組んでみようと失敗を糧に、それをバネに変える力を持っていたのだ。

via: 「芦田愛菜」大ブレークの秘密は天性10%、努力90% - PRESIDENT - プレジデント

涙にくれるのはいいが、反省をきちんとし、そこから立ち上がらなくてはマルマルモリモリなどと歌う資格はない。