インタラクション2012にいったよ(その1)

2012-03-19 07:44

というわけで今年も行きました。去年とおなじで午後一番にはインタラクティブセッションがある。それが終わり一般講演が始まるのを待っているといやな予感がする。そういえば去年も同じ時間帯に同じ場所に座っていた。幸いにも今年は何も起こらなかった。

去年の感想をものすごく短く言えば

・面白くなかった一般講演
・カオスで面白かったインタラクティブセッション

今年も同じ位短く言うと

・面白かった一般講演。特に最初のセッション。
・インタラクティブセッションは件数が減った。その分質が上がったかと言えばそういう感じしないし。。結果として(量)×(質)で質が変わらず、量が減った分全般的な面白さが減った。。ただし所用により「最も良い発表が集まった」3日目を観ていないので、そのため物足りないと思ったのかもしれん。

とかなんとか言っているが、去年と比較しても新しい試みをしていることは私のようなチンピラ参加者にも伝わってきた。来年は私も何か出したいものだが。

というわけで、一般講演、インタラクティブ発表含めて感想をだらだらと。

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Songle: ユーザが誤り訂正により貢献可能な能動的音楽鑑賞サービス

オープニングに論文賞の講演を持ってくる、というのは良いアイディアだと思う。特に去年の一件目が「出落ち」のような議論を呼ぶ発表だっただけに。

産総研後藤さんの発表。誰かと話していて気がついたのだが、後藤さんの研究発表を聞くのは久しぶりのような気がする。TVとか他の場面ではよくお目にかかっているのだが。

私がくだくだしく書くより、ある方のTweetを引用しよう。

songleの意義「世界初のwebサービスによりユーザの役に立つ」「音が機械技術の存在自体への認知度の向上」 「音楽理解技術の性の王への理解を促す」 これはアツすぎる!まさにVisionだ!

インタラクション2012オープニング~一般講演発表1まとめ - Togetter から引用

@masatakagoto 先生のsongle発表におけるデジタル賛歌は、すごい人間賛歌、進化の賛歌、未来への賛歌でもある これはアツい

インタラクション2012オープニング~一般講演発表1まとめ - Togetter から引用

後藤さんの提示したVisionに比較すると、まるでなってないビジョンは世の中に氾濫している。そういうのを提唱していい気になっている人間は是非後藤さんの講演を聴くべきだと思う。

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虚偽情報フィードバックを用いた生体情報の制御システム
拡張満腹感:拡張現実感を利用した食品の見た目の操作による満腹感のコントロール

この2件は凄かった。(とまとめてしまうのも失礼と思うが)両方とも「人間へのフィードバックを操作することにより、人間の生態反応を変化させる」研究である。

体温計が「平熱っすよ」と値を示し続けたら人間の体温はどう反応するのか。手に持ったクッキーを実物より大きく見せたら、人間が食べる量を抑制することが可能なのか。

結果が大変興味深いだけでなく、色々な議論を巻き起こす研究である。こうした議論こそがインタラクションというイベントの有意義な点ではなかろうか。

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握力・体温・感触を伝える遠隔握手用ロボットハンド

箱からロボットの手がにょきっと出ている。でもって私がそれを握ると、少し遅れて手を握ってくれる。

確かに手はあったかいし、手を握るその力は自然である。しかし問題はこちらが握ってから握り返してくれるまでのタイムラグだ。これが人間を相手にしたときとは異なり不自然に長い。

考えてみれば、人間が握手をする際にはお互い「予測」をして手を動かし始めるのだと思う。それを取り入れるのは難しかろうが、自然な反応を目指すとすればそれを避けては通れないと思う。

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senseObject: 日常生活の中のものの利用を契機としたスマートフォンの自動操作

日常生活では通信をわざわざ行うのは大変だから、自動的に情報とれるようにしてあれこれしましょう、という御話。例えば自転車の車輪が動き始めたら位置と時間をサーバーに送るようにするとか。

こういう研究は「やればできる」ことは解っているので、「これは面白い」というアプリケーションを考えるか、「こんなすごい方法があったか」というセンサーを考えるとかなんらか特長が欲しいところだ。私の考えでは「アプリ勝負」かとも思うが。

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鉄道移動を支援するためのインタラクティブデザインツールの開発

これは期待が高まる研究。現在「乗り換え検索」の類いのサービスは世の中にたくさんある。問題はそれが「検索の結果示された一つの解」だけを示していることだ。ところが

「一本遅らせたらどうなるのか」

といった代替手段の検討が全然行えないことである。私のような珍スポットマニアには切実な問題だが

「一日3本しか無い路線」

ということを知らないで乗り換え検索を行うと「あれ、出発時間を1時間変えたのに到着時間が変わらないぞ」と頭を捻ったりすることになる。

こうした問題を解決するために、一次元のリストで結果を兵頭するのではなく時刻表を検討する際に使う「ダイア図」で結果を表示してやろうという試み。これがあれば、ユーザはもっといろいろな代替手段を検討できると思う。現地到着を2分遅らせれば、出発は1時間後でもいい、なんてことはよくあるが、そうした情報も読み取れるかもしれない。

まだ実装は始まったばかりのようだが是非実用化してほしい研究。

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絵本作成支援システム「ミラクリ」
ブラウザ上で容易に絵本を作ることができるシステム。関連研究(というか製品)としては、「ピッケのつくるえほん」がある。(私も愛用してます)

「ミラクリ」は誰もが好きなキャラクターを登録して絵を作ることができる。逆にピッケは自由度をうまく制限している。

この「自由度」というやつは曲者で、自由度が高ければよい、という単純な話ではない。制限された自由度の中でも人間は十分に想像力を発揮しうるのだ。このように「自由度」に対して、異なるアプローチをとっている二つの試みがどのような結果になるのか興味深い。

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Kuroko:話者シルエットを活用するプレゼンツール

プレゼンに話している人間のシルエットを取り込もう、というシステム。いや、これに関して妙に熱く演説してしまった。反省しております。

というのは、私も同じ問題意識にたった物を作り始めているからであり、、12月にお披露目を目指しているが、こればかりは幸運に恵まれる必要がある。約束できるのは努力までだ。

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StepNavi: 歩行速度ナビゲーションシステムの開発

スマートフォンのナビが、予定時間と、現在の移動速度を検知して「もっと早くいけ」とか「ゆっくりでもいいよ」とか提示してくれるシステム。

問題は「歩いている人間がそうちょこちょこ画面を見てくれるか」ということ。視覚ではなく、音楽を用いる試みとして、寺田さんのウェアラブル環境のためのルールベースBGMプレーヤについてがある。というか安村先生、この研究知っているはずなのだが。

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なぞり動作で文章を動的に表示するソフトウェア「Yu bi Yomu」

文章というのは読む方向が決まっている。しかしそれをインタラクティブにすることはできないか?ユーザが自分が考える順番に提示させてもいいのではないか?

デモしていたのはiPadアプリ。ユーザが画面をなぞるとその下にある文字が一定時間表示され、消える。これを使うとユーザが好きな順番で、文章を読むことができる。

一番面白かったのが、このインタフェース用にかかれた詩。いろんな方向から画面をなぞるといろんな読み方ができる。文章というものを再定義するような新しい可能性を感じさせてくれる素晴らしい試み。

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家計簿を「思考の道具」とするインタラクションデザイン

これは非常に興味深い試み。通常家計簿というのは、表形式で入力され、そのままの形で閲覧する。

しかし項目を2次元に配置したらどうなるか?各項目の金額の大きさを長方形の面積に対応させる。すると、何が膨大な支出になっているか一目瞭然。

さらに面白いのは、いろいろなユーザに使ってもらうと、並べ方が人によって全く異なる、という点だ。つまり本来ユーザは支出をいろいろな軸で認識しているのだが、既存の家計簿インタフェースはそれを全部表に押し込めてしまっている。

この研究を見るとそうした問題点が浮き彫りになる。

例えば、「標準的」な家計簿からどこが逸脱しているか、それを示すのに最も適切な「ビュー」を用いてシステムが指摘するようなことができないだろうか、とかいろいろ発展も考えられる。是非今後深化させていってほしい研究。


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タブレット型デバイスによる協調購買インターフェースの提案

遠隔地にいるユーザ同士が、iPadを使ってあれこれ楽天の商品を閲覧して、、という試み。

そもそも複数の人でショッピングをする時の楽しみとはなんだろう?ある美大の卒業展示で「ショッピングの楽しみは、友達との会話」という発言を聞いて私は驚愕した。

しかしこのインタフェースにはそうした直接的なコミュニケーションの要素は全く入っていない。デモをみていても「ああ、つながるのね」ということしかわからない、何を目指しているのかわからないシステムだった。

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2つの学会発表録画を同時視聴するためのシステム

最近の学会では、話しを聞いている参加者が、チャットをすることが広く行われている。そのログを用いて、「盛り上がっているところ」を検知する。そして二つの学会の動画を同時に流した場合でも、その「盛り上がっている」ところを見逃さないように時間をずらしたり、あれこれする、というものだ。

そもそも二つの学会を同時に見たいなどとは、、とは問わないことにする。一番の問題は「チャットのログから学会の盛り上がった場所を検知できる」という仮定だ。

なぜこれが問題か?例えばこうだ。

・そもそも学会発表が盛り上がったときにチャットの発言が多くなるものなのか?画面を食い入るように見つめていては、チャットができない。

・逆に、「どうしようもない退屈な発表」のときはチャットの好チャンス。皆で下を向いてチャットに熱中する。その際前の発表について語られることもあれば、全く関係ない話題で盛り上がることもある。(たいてい「失礼だよ」と誰かに怒られる)

・ちなみに発表する側からみると、この「発表中のチャット」というのはあまり愉快なものではない。こちらは一生懸命アイコンタクトを取ろうとしているのに、みんな下を向いてしまうからだ。

というわけでそもそも「学会のもりあがりとチャット量」の間には相関があるのか、時間遅れがあるのか、はてまた逆相関があるのかが分からない。そこを「チャットが多いときは盛り上がってます」と断言されても素直に「そうですか」と納得はできない。

そこで提案しておいたのは「被験者にボタンを持たせておき、学会発表のビデオを見せる。盛り上がっていると思ったところでボタンを押してもらう。そうして"盛り上がり"とチャット量のデータの関係をみては」
という検証方法だった。

この「被験者にボタンを持たせる」というのは、米国の大統領選のディベートで行われているし、コメディ番組の事前評価でも行われている。ユーザは手のボタンを押せばいいので、下を向いたりする(つまり画面から目をそらす)必要がない。

そうして前提条件を検証しておけば、この研究にも意義がでてくると思うのだが。

ちなみにこの「重要な前提を全く検証せずにとにかくがんばっている」研究は二日目にもいくつか出くわすことになる。