自らを否定することができる経営者

2012-04-10 06:53

世の中には100円ショップという素晴らしいものがある、と知ったのは最近のことである。それからなんでも

「これは100円ショップに行けば安く手に入るに違いない」

と思うようになった。

先日その中の一つ、ダイソー社長のインタビューを読んだ。

でも、私の「進化」は「常識の範囲内の進化」に過ぎなかったんです。進化というのは、大きく自分を否定して、「このままじゃ生きられない」と心底感じて、完全に変わっていくことを指すんですね。

 キリンの首が進化の過程で長くなったのも、そうですよね。そうしなければ生き延びられなかったからでしょう?。大創産業の社員たちに、「このままではつぶれるかも分からん」という危機的な状態から自己否定、過去否定をしてもらい、変革を起こしてもらった。

 つまりは、急成長してきたセリアや、キャンドゥのおかげでまた「つぶれるかもしれない」と思えた。その危機感があったから持ち直すことが出来た。本当にありがたいことです。もうやめようかと思ったけれど、生きててよかった。大創産業という船が、ずるずると沈みかけたところでした。世の中の例でいくと、そのまま沈むのが常ですから。

via: 矢野博丈社長が語る「選ぶ面倒臭さが、波のように押し寄せてきた」:日経ビジネスDigital

以前にも書いたことがあるが、社長インタビューというのはほとんどの場合「俺はこうして成功した」の自慢話で全く面白くない。しかしダイソーの社長はどうも違うようだ。この社長ほど自分の限界を率直に語り、そしてそれを認めた上で語る人は珍しい。

これは塩野七生の「ローマ人の物語」からの受け売りだが、リーダーとは、「部下」たちに「私たちががんばらなければ」と思わせることができなくてはならない。そのやり方は様々だ。

最近子供のためにかった「漫画日本の歴史」を読み返している。それを読めば、暴君であった織田信長の家臣にいかに有能な人間が集まっていたかを知ることができる。あるいは同じく「暴君」であるSteve Jobsのもとに集まった人間もとびきり優秀である。

I asked him again about his tendency to be rough on people. "Look at the results," he replied. "These are all smart people I work with, and any of them could get a top job at another place if they were truly feeling brutalized. But they don't."

via: The Real Leadership Lessons of Steve Jobs - Harvard Business Review

Steve Jobsが語った通り、彼らの誰もがどこにいってもトップの地位を極めることができる人たちだ。しかし彼らは「暴君」Jobsのもとで働くことを選んだ。そしてJobsが去った今でもAppleの株価は上昇を続けている。

経営者にはいくつもの才能が必要だろうが、「自分より優秀な人間を雇い、かつ働き続けてもらう才能」というのはそのうちの重要なものの一つではなかろうか。

ダイソーの社長は、Steve Jobsとは全く違った形でその才能を発揮する人なのだと思う。この人のインタビューを読んでいると、

「じゃあちょっとダイソーに応募してみるか」

と考えたくなる。しかしどう考えても雇ってくれるとは思えないので、今は社長のこの言葉を胸に、日々の業務に邁進しよう。

日本人は人間、健康で文化的な生活できる権利があると当たり前のように思っているけれど、それは思い込みで、頑張った者に与えられるご褒美に過ぎません。以前から良く言いますが、そうした思い込みにとらわれるのは、恵まれる不幸せとでも言うのでしょうか。私の場合は、若い頃に恵まれなかったからこそ、今日があるのだろうと思っています。

via: 矢野博丈社長が語る「選ぶ面倒臭さが、波のように押し寄せてきた」:日経ビジネスDigital

ここだけ抜き出すと紋切り型の説教にしか聞こえない。しかし全文を通してみると「なるほど」と思わせるのはこの社長の力だと思う。