感情が理性を超えるとき

2012-04-27 07:18

去年の3月11日以来、「政府」「東京電力」とながつけば全てが隠蔽であり、捏造、という意見がまかり通るようになった。

ちゃんとしたソースを出せなくて恐縮だが、去年の夏、関東地方では電力事情が逼迫していた。日毎に供給可能量と、使用料のグラフが示されていた。その「供給可能量は不正確だ」としてNHKの全国ニュースでもやっていたように思う。

かくのごとく「正義の味方」は「悪」を叩き続ける。しかし「正義の味方」の側の隠蔽には知らんぷりだ。

再生可能エネルギーによる電力の買取価格を検討している経済産業省の「調達価格等算定委員会」は、2012年度の住宅用太陽光発電による余剰電力の買取価格を2011年度と同じ、1キロワット時あたり42円、買取期間10年とする方針であることを明らかにした。また太陽光発電所など10kW以上の非住宅用太陽光発電は1キロワット時あたり42円、風力発電は同23.1円で買取期間はいずれも20年、地熱発電は同27.3円、買取期間15年とした。

via: 再生可能エネルギーの買取価格の原案提示 経産省 | レスポンス (社会、行政のニュース)

経産省はどんな計算でこの値を出してきたのかはわからない。ソフトバンクの正義の味方、孫社長の意見とも合致していることは確かだ。

孫さんは以下のように語っています。

「(買取価格は)ヨーロッパの平均でも58円だということであります」

via: 蹴茶: 孫さんが触れたくない事実 2009年のFITを引用する理由 [2012.4.26]

そしてこの主張は最近の急激な情勢変化には目をつぶっている。

ドイツ 屋根 13.5ct 14.4円 1000kw~10MWまで グラフに手書きしてますが
地上13.5ct14.4円1000kw~10MWまで4/1にも引き下げられてます

via: 蹴茶: 孫さんが触れたくない事実 2009年のFITを引用する理由 [2012.4.26]

不思議な事だが、こうした「隠蔽」にはメディアは声を上げないようだ。
きっとこのニュースは多くの人の感情にアピールするということなのだろう。人間は所詮感情の生き物。昭和16年に採算のない「開戦論」が支持されたのと同じく、今は採算のない「エネルギーの転換」が支持される時代だ。

その結果昭和20年に日本は焼け野原となった。そしてこの政策の結果は

再生可能エネルギーの高額強制買い取り案がそのまま導入され、ボロもうけの機会を逃すまいと国の内外から寄生虫業者どもが集まってきて際限なく買い取りが行われるようになると、一般家庭の電気料金は何割も上がることになる。

via: 再生可能エネルギー強制買い取りによる負担をどう避けるか: 無指向な嗜好

ということになるだろう。仕方がない。それが「世論」であり「民意」というものだ。
太陽光発電をいくら増設したところで、安定した電力の供給はできない。つまり火力のかわりにも原子力の代わりにもならない。(安価な電力貯蔵技術が開発されれば別だが)しかしそうした事実には目をつぶり

「ススメ一億火の玉だ」

となるのはまあ我が国のお家芸だな。この状況を乗り切る唯一の手段は「濡れ手で粟をつかむ側」に回ることである。海外では暴落している太陽光発電パネルを高値で日本に売りつける。あるいは自分でメガソーラーを作ってもよい。おそらく孫社長は、そうした線を狙っているのだろう。

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我が国の事を書いていると気が滅入るので、隣国について書こう。北朝鮮は「衛星打ち上げ」を予告し、管制センターを公開までした。(誰もそれが管制センターだとは思っていないが)

今まで北朝鮮の「衛星打ち上げ」は成功したことがない。なのに今度は自転速度が使える東向きではなく、発射方向を南に変えた。エンジニアとしてみれば基地外沙汰である。しかし彼の国でも感情は理性を凌駕しているのだろう。

その「ロケット」だが既存の「労働」ミサイル4本を束ね一段目とする。そのうえに2段目を括りつけた代物だ。これらの「ミサイル」は旧ソ連の弾道ミサイルを元としたものが多い。とはいえ、

「一から設計するのと、改造するのは全く別物」

という工学の原理はここでも生きている。射程を伸ばそう。じゃあ火薬をもっと詰めよう、とやると空中でバラバラになるわけだ。湾岸戦争の時に使われたスカッドは、やたら空中でバラバラになり、それ故迎撃が難しかったと聞いている。

一度も成功したことがないロケットをさらに難条件で打ち上げる。全ては確率の問題だからもちろん成功することだってありえただろう。しかし予想通りロケットは空中分解した。

北朝鮮内部で何が起こっているかは誰にもわからない。しかし元ミサイル技術者としては、北朝鮮で担当しているエンジニアの身に同情せずにはいられない。

新しく「第一書記」の座についたとっちゃん坊やが演説する姿を見た。体をゆらし、落ち着かないその姿に国民の崇拝を集めることは難しかろう。普通に考えればだ。

1992年のことだ。潜在脅威として北朝鮮の弾道ミサイルを挙げたところ、外務省から

「北朝鮮はいつまで持つのかねえ」

という意見をもらった。不思議なことだが、そこから20年たった今も北朝鮮は北朝鮮のままである。

しかしおそらくこの20年間に内部では変化があったのだろう。つまり「最高指導者」を形骸化し、本当の権力は別のところに移されたのだ。それ故第一書記がどんな状態であれ、体制にはなんの影響もない。(ように見える。今のところは)

軍事パレードで雄々しく更新した「弾道ミサイルに見える何か」だが

According to Markus Schiller and Robert Schmucker--of Schmucker Technologies, a NATO advisor--"there's no doubt that these missiles were mock-up." Not only that, but they say that this is proof that North Korea is very far away from having a ICBM. According to them, was just "a dog and pony show."

via: Confirmed: Those North Korean Communist Assclowns Are Pathetic

"Dog and Pony show"なのだそうな。引用記事にあるように、国民が飢えで死んでいる時、貴重な予算を模型に費やす国を笑うことはできる。

しかし我が国もそれより「少しマシ」な状態でしかない。20年後日本全土に国民の貴重な財産(電力料金を通じて徴収された)で構築された多数の太陽光発電施設が作られるだろう。そしてそれらは電力事情の改善には何の役にもたたないだろう。

そしてそれは「政府と東京電力の犯罪」として糾弾されるのだろうな。