外交的解決

2012-08-16 06:51

世界中何処をみても、隣国というのは仲が悪い。概ねお互いを罵り合うのだが、隣国は隣国だ。お互い依存しあっていることも間違いない。

というわけで、いろいろ事情はあるのだろうが、韓国の大統領がここ数日はりきっている。

私は、日本には(国賓としては)行っていない。シャトル外交はするが。日本の国会で私の思うままにしたい話をさせてくれるなら、(国賓訪問を)しよう。(天皇も)韓国を訪問したいならば、独立運動をして亡くなられた方々のもとを訪ね、心から謝罪すればいい。何か月も悩んで「痛惜の念」などという言葉一つを見つけて来るくらいなら、来る必要はない。

via: 被害者は忘れず、ただ許すだけ...李大統領 : 国際 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)

実際には、もっと過激な表現が使われていたようだ。

李大統領は現場で日王が「ひざまずいて」謝らなければならないという表現を使ったことが分かったが、その後、大統領府が公開した発言録からは抜けていたことが確認された。

via: 【マジキチ】李明博大統領「天皇は土下座せよ」と発言していたことが明らかに!!!!!:暇つぶしニュース

さて、韓国国内向けにはこれでいいのだが、問題は日本である。竹島云々はまあお約束だからしょうがないなあと思う人もこの発言には反応せざるを得ない。というわけで両国の外務官僚の出番である。

この発言に対し外務大臣は以下のように抗議すると述べた。

玄葉大臣は、「天皇陛下の訪問要請を日本側から取り上げたことはない」と述べ、李大統領の発言について、外交ルートを通じて韓国側に抗議したことを明らかにしました。

via: 李大統領の「天皇謝罪」発言に玄葉外務大臣が反論

この抗議を聞いて「?」と思った人はいないだろうか。論点がずれている。もともとは大統領の発言に対して、日本人が不快感を持ったところが問題だったはずなのだが、抗議しているのは

「誰も日本から天皇陛下の韓国訪問を要請したことはない」

という点なのだ。


翌朝、なぜここで「ずれた抗議」をしたのかがわかった。

【ソウル=中川孝之】韓国の李明博(イミョンバク)大統領が14日に天皇陛下の訪韓に謝罪が必要と発言した問題で、韓国の大統領府は同日午後、「(天皇陛下が)韓国を訪問したがっている」とする李大統領の発言を訂正した。

 大統領府関係者によると、李大統領は実際は、「(天皇陛下が)韓国を訪問したいならば」と仮定の話と述べており、「独立運動をして亡くなられた方々のもとを訪ね、心から謝罪すればいい」と発言していた。

 発言を代表取材した韓国記者が、誤った発言内容を大統領府が運営する取材記者団専用サイトに掲載してしまったという。記者が誤りに気付き、発言内容を差し替えた。

via: 陛下、訪問したがっている...李大統領発言を訂正 (読売新聞) - Yahoo!ニュース

つまるところ、それは「記者が誤って掲載してしまったもので、もう修正しました」ということにする。こうすると何が起こるか。

韓国国内では「大統領が日本に対して"当然"の発言をした」という印象が残り、日本国内では「あれは誤報だった。もう修正された」という印象が残る。お互い言っていることはちぐはぐなのだが、なんとなく幕引きができるわけだ。

このように、話しをどうでもいいところにすり替え、どうでいいいが故に簡単にお互いが一致できる点を見出す、というのはおそらく外交上の基本技術なのだろう。

これは、米国の偵察機が中国の戦闘機と接触した時にも実感したことだ(誰もそんな事件覚えてないでしょ?)

米国の偵察機が中国軍機と接触した事件は「米国が書簡を渡し、謝罪したと中国側がうけとめた」ことにより解決をみた。朝NHKでこのニュースを聞いたとき

「米国が申し訳なく思う」

とかなんとかいう表現を使っていた。何だこれは?と思い原文を観てみればこのようである

Please convey to the Chinese people and to the family of pilot Wang Wei that we are very sorry for their loss.

Although the full picture of what transpired is still unclear, according to our information, our severely crippled aircraft made an emergency landing after following international emergency procedures. We are very sorry the entering of China's airspace and the landing did not have verbal clearance, but very pleased the crew landed safely.

確かにSorryという文字が2カ所にでてくる。しかし最初のSorryは

「パイロットが行方不明になったことに対する悲しみの意」であり次のSorryは

「国際的な緊急時の手続きに従って緊急着陸を試みたが、口頭での許可を得ないうちに中国の領空にはいり、着陸した事について」

である。両方ともまあ論議のないところであり、普通「謝罪」という文字から想像する内容とはかけ離れている。あの口を極めた非難の言葉、行方不明になったパイロットの妻からBushにあてた「あなたは卑怯者だ」という手紙。これが全てこの的はずれなSorryで解決。中国人はメンツに何よりもこだわると聞くことがある。私はそれについて自分の体験から語ることはできないが、このやりとりを観ると、なるほどそうかもしれない、と思えてくる。2度もSorryがでてくる文章をださせたのだから、メンツは守られた。十分謝ったことにしてやろう、というわけか。

via: Clinton

まあこうやって双方がなんとなくの満足感とともにうやむやになれば、そのうち人は忘れてしまう。これが長年の「外交慣習」で培われた技術というものなのだろう。こうしたテクニックはどこかで仕えるかもしれないから学んでおきたいものだ。

あともう一つ覚えておくべき言葉を引用しておく。

次の二つの事は、絶対に軽視してはならない。

第一は、忍耐と寛容を持ってすれば、人間の敵意といえでも溶解できるなどと、思ってはならない。

第二は、報酬や援助を与えれば、敵対関係すらも好転させうると、思ってはいけない。

via: Clinton

マキャベリの言葉だ。