楽天テクノロジーカンファレンス2012で発表してきたよ

2012-10-22 06:47

というわけで先週の土曜日は楽天テクノロジーカンファレンスだった。

楽天技術研究所が主体になって年に一度イベントをやっていることは知っていたが参加したことはなかった。過去2年くらいは「学会の派生系」のようなイメージだったのだけどね。

今年は広報ページからして英語である。私はライトニングトーク(4分のプレゼン)に申し込んだのだが、これも英語でやれ、とのこと。去年のライトニングトークのUstreamをみると、最初の2枚だけ英語であと日本語とかやっていたようだが、今年はそんなことはあるまい。

最初申し込むと「申し込多数の場合はCompetitionをやって発表者を決めます」と書いてある。そもそもそんなにたくさん申し込みあるんだろうか。英語だし、と思っていること一週間。「おめでとう。Competitionに通ったよ」と通知が来る。これって定型文なのか、本当にCompetitionをやったのか。まあそんなことは気にしないことにしよう。

これまでは、論文を出してもらって査読とかやっていたようだが、今年はそもそも一般発表がない。(ライトニングトークを除いて)最初から招待した人に講演をしてもらうようだ。

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というわけで11時過ぎに楽天につく。いたるところに、ピンクのシャツを来た人がたっており、誘導してくれる。実に親切だ。本日こうした運営側のホスピタリティには率直に感動した。

一番最初のプログラムは「カフェテリアでのランチ」丁度私が入ったところからオープンだったようだ。魚のから揚げのようなものを頼んだ。その後から来た人たちが食べるのを見ていたが、皆一様に

「スマホを取り出し写真をとってから食べる」

をやっていたのが笑えた。

それからセッション開始の12時までは少し間がある。ぼんやりと座る。この日はカフェテリアに隣接した部屋でのセッションを聞いていた。以下感想をずらずらと。


(その1)Exploring User Wish Through Mindmapping (Kenji Hiranabe)

マインドマップを用いて、ユーザの曖昧な願望を視覚化しようという話。前置きが長い。いきなり自分が得意なScrum(開発手法の一種?)について延々熱弁を振るいだす。自分でも
「なんでScrumについて話してるんだ」
と言い、時間が無くなったと言い訳が始まる。当たり前だ。
人間は言葉よりイメージを覚えるのが得意なので、Mind mapでイメージ的に視覚化するとよい、という話を半分くらいしていた。結局Mind Mapについて何が言いたかったのかポイントは解らずじまい。

英語で話す事にはなれているようだが、多分彼の話は日本語で聞いてもわけがわからないと思う。何かに対する熱意があることだけはよくわかった。それが何かは知らないが。

これが終わったところで、楽天CEO三木谷氏の講演がある。「皆様、4Fにおいでください」と呼びかけがある。そりゃCEOの講演があるのに、参加者が他の場所で屯していては困るわな。

あまり聞く気はなかったのだが、促されるまま4Fに向かう。ちなみにエレベーターには全て楽天社員が乗っており、何階にまいります、とアナウンスしてくれる。いや、すばらしい。

三木谷氏の講演は途中から聞いた。前に何かの記事で「三木谷氏自信あまり英語はうまくない」と聞いたことがあったのだが、発音はなかなかきれいだった。しかしプレゼンとして観た時に平板であったことは否めない。

この日私が「楽天」から受けた印象というのは、三木谷氏のスピーチによるものではないく、このカンファレンスを作りあげた楽天社員一人一人のホスピタリティから受けた物が大きい。このことはまた後で(以下略)

というわけで講演を聞くと13Fに戻る。

(その2)Design Thinking Jeff Patton
現行のAgile processには欠けているものが多くある、と主張。Agileプロセスを使って、プロダクトをリリースしているのに、「失敗続き」と士気が落ちているチームがあった。何が問題か?以下列挙。

・Understand the problem before solve them. そもそも何の問題を解こうとしているのか、それを考えずに開発にかかってしまうことが多い。
これはありそうな話だ。それScrumだ、やれRuby on railsだ、とか「手段」に入れ込む人は多いが、問題を理解しないことには、開発しても意味が無い。

・Safety is not success
ノードストロームではウォーターフォール式にチェックを厳格に行った。その結果、全てのinnovationが消えてしまった。
ウォーターフォール式の開発がうまくいかない、ということは誰もが知っている。しかしいつまでもそれがなくならないことについて考える必要がある。つまりメリットがあるわけだ。
ウォーターフローの利点は、個人にとって「安全」であること。うまく行かなかった時に、「自分じゃない誰か」を非難できる。ソフトウェアの開発が遅れたのは、仕様が出るのが遅れたからだ、とか、無茶苦茶な仕様がでてきたからだ、と非難できる。しかし製品を作るには向いていない。

・Velocity is not value
目的はソフトウェアを作ることではない。目的は世界を変えることだ。クズのようなソフトを素早くリリースしても何にもならない。

・Balanced team not clietn-vendor
Value, Usability, Feasibilityを理解できる人間がチームとして働くことが必要。またお互いの概念を共通化した上で、議論することが必要。視覚化が重要。概念を視覚化、共通化しないうえで議論をしても時間の無駄

・Deliberate discovery ...(読み取れませんでした)
ユーザと同じ環境に行き、ユーザがどのようにシステムを使うか学び、それをチームで共有する。

というわけでしめくくりに

"With design thinking, team fails often. But at the end, it is better."
このデザイン思考を用いると、チームはより多く失敗刷る。しかし最終的な結果はよくなる

とのこと。

映画MatrixでBlue pillとRed Pillを選べという場面がある。Red pill(現実)に直面するべきだ。

この日一番おもしろかった講演。この話を聞いて「なんだ、当たり前のことじゃないか」と思うなら、あなたはまだMatrixにつながれている可能性が高い。

特に「スピードは価値ではない」という主張は、楽天が「スピードスピードスピード」を社是にしていることを考えると「そんなこと言っていいのか」と心配にもなるが真実でもある。これについては後に再度触れる。

(その3)How to resolve Conflict - Rumiko Seya
紛争地域で、紛争が終了した後に兵士達に職を探したりして、紛争無しで暮らせるするようにするサポートをする組織で働いているとのこと。
元少年兵士達に何がしたいか、と聞くとほぼ全員が学校に行きたいと答える。しかし学校に行ったことがない少年をいきなり学校に行かせることはできない。だからまず職業訓練をして、金をためた上で学校に行く事を指導する。

少年兵士というシステムはまさしく「悪魔の兵器」だ。子供は平気で死ぬとか人殺しとかを口にする。(自分もそうだった)それが何を意味するかがわかっていないからだ。その子供たちに武器を持たせ、多くの人を殺しそしてその人間の将来をも奪う。(書きながら気がついたが、これはAK47などの自動火器によって可能になったシステムでもあるな)

というわけで大変興味深い内容のはずなのだが、プレゼンテーションとしては改良の余地が多々あると感じる。一番問題なのは「受取り手がどう反応するか」について考えた形跡があまり見えないことだ。Me factorが強すぎる。

こういう話しを、聞き取り手に構えさせず、しかしまじめに伝えるのは難しいと思う。しかしそれにチャレンジしてほしかったなあとも思う。

このあとライトニングトークの会場である4Fに降りる。例によって

「ああ、俺は何をしてるんだ。こんなことをせずに子どもと遊んでいればよかったじゃないか」

と後悔の念にさいなまれる。

しばしの後ライトニングトークの時間となる。PCをかかえて前に行く。今回使うのは「本邦初公開」のプレゼンシステムGozenである。もっともそんなことを気にしているのは世界広しと言えども私だけである。何が問題かといえば、このソフトを長時間立ち上げておいたことがないことにようやく気がついたからだ。つまりプレゼンのあまり前にソフトを立ち上げあると、本番の時に動かないかもしれないのだ(理由は省略)

などと不安を抱えながら、案内された座席に座る。

順番がだんだん近づいてくる。前の人が発表をしている最中に、次の人は前に案内され、自分のPCを使う場合は既に接続をしておく。いや、ここらへんのサポートは実に素晴らしい。昼ごろに接続確認をやったのだが、専門の人がついており、本体とのミラーリングでやるのか、2nd ディスプレイとして使うのか、その場合の解像度は、とかちゃんと打ち合わせ済みである。

制限時間は4分。超過するとドラがなる仕組みである。いつも思うのだが、こういうとき余裕で時間オーバーする人ってどういう準備をしてるんだろうね。4分だから、10分もあれば2回は練習ができるし、どれだけ時間がかかるかもわかるだろうに。

というわけでとうとう私の前の人になる。PCを接続するとあとは運を天に任せるしかない。前の人のプレゼンを見ていると、ああ、こういうのが受けるんだろうなと思う。

というわけで拍手とともに前の人がおしまい。PCをもってよたよたと演台に立つ。

Hi, My name is Goro Otsubo

と練習通りしゃべる。私のプレゼンは、日本語訳が画面に表示されるので親切とも言えるし、(自分で言うか)アドリブが効かないとも言える。

途中何度か言葉を間違えたが、基本的には練習通りいった。笑いを取ろうとしたところでもちゃんと笑いが起こったし。会場を見渡すが、ちゃんと顔をあげて聞いてくれているようだ。

聞く方にとっては、たった4分であるが、しゃべる方にとっては永遠とも言えるほど長い時間だ。しかし何事にも終わりは来る。Thanks,といい演台を降りる。

すべての発表が終わると、Rakuten awardの表彰。しかし私は一人でぼんやりしたい気分である。13Fに行こうとかと思ったが、Beer Bashの準備でいけないようだ。仕方がないから1Fに降りる。

英語を話す白人二人が同じエレベータに乗っている。こちらを見ると

「ああ、あの不動産のなんとかを発表していたね」と話しかけてくれた。Yesその通りです。あれはおもしろいねえと言ってくれる。デザインも開発も自分でやったのか?と問われるので「そのとおり。まあ一人プロジェクトだね」と答える。

この時、今日英語で発表をした意義が初めて実感できたと思う。こういうふうに「あれは面白かったよ」と声をかけてくれる日本人は滅多にいない。いたとしても、お互い顔を知っている場合が多い。(そもそもお前の話がつまらんのではないか、という可能性もあるが無視する)

英語でしゃべることにより、そうした英語圏の人にも聞いてもらい反応をもらうことができたわけだ。これは大きな収穫だった。

さて1Fでしばしぼんやりした後、13Fに戻る。人がたくさんいて大混雑である。とりあえず何か食べるものを、ということでおとなしく列に並ぶ。皿に目一杯食料をとると、座る場所を探す。ここで思いもかけず知り合いにあうことができた。座ると話しながらひたすら食べる。

そのうちAwardの発表がある。ライトニングトークをした人は前へ、と言われるので前に行く。ここで別の発表者から「あれはおもしろかったよ」と声をかけてもらえた(これも英語圏の人だった)

そしてライトニングトーク賞の発表。なるほどこういうのが賞をとるんだなあと思う。それが終わると脱兎のごとくエレベータを駆け下りる。このあとまだ予定があるのだ。

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感想を一言で言えば「大変興味深く面白かった」と答える。もちろんいくつか改善の余地はあるだろうが、この楽天のイベントがあれこれ試行錯誤を繰り返しながら、おもしろい形に進化したことは率直にすばらしいと思う。

また運営に携わった人たちの気遣い、心配りにも感動した。この熱意は「会社の仕事」だからではなく「自分たちのイベント」といった意識を持たないとでてこないものだと思う。

そうした社員達の工夫、気持ちを考えながら手にとった「Kobo」を眺める。

社外からライトニングトークに参加した人には、全員Koboがプレゼントされたのだな。でもって箱を開けるところから「噂通り」困難に直面する。画面が頻繁にフラッシュすることとか、タッチの悪さは、電子ペーパーだから問わないことにするが。

このKoboをめぐる騒動で、三木谷氏の言動はどう控えめに見てもほめられたものではなかった。

――対応を終えた後もインターネット上での騒ぎが収まっていない。

三木谷:
時間の問題じゃないでしょうか。
実際に騒いでいる人の数を数えると、まずたいしたことないと思いますよ。
騒いでいるのはせいぜい2000~3000人でしょう。
致命的な問題があった訳でもないし、コンテンツの売り上げは「超」がつくほど順調ですし。
反省すべき点がゼロとは決して言いません。
しかし、問題点にきちんとスピーディに対応できたし、これは大成功だったと思います。

via: 楽天三木谷社長がkobo騒動について語る「騒いでいるのはせいぜい2000~3000人でしょう。致命的な問題があった訳でもない」:ハムスター速報

テクノロジーカンファレンスに参加した人はほぼ間違いなく楽天という企業に好印象を持ったと思うが、それを台無しにするトップが存在するというのもまた事実である。

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などということはさておき、こうした発表の機会を与えていただいたことについて深く感謝したいと思う。イベント自体、招待講演ばかりだったわけで、同じ演台に私のようなチンピラが立つことなど夢にも思わないわけだが、別枠であってもいろいろな人にプレゼンをさせてもらえたのは、得難い経験だった。

来年は、、どうなるんでしょうね。