透明なインタフェースという幻想

2012-11-02 07:00

ここ数日で、UIに関して理解に苦しむ2つの文章を見かけた。ここで「理解に苦しむ」というのは主張に同意できない、という意味ではない。文字通り「何を言っているかわからない」というものである。

だから私がここで書くことは、それぞれの著者にとって「心外」であるに違いない。しかし内容理解できないんだからいかんともしがたい。

その1.

ユーザー・インターフェイスが透明で、経験されないならば、何が経験されるのか。情報・コンテンツが経験される。透明なユーザー・インターフェイスは、情報・コンテンツへの操作をまったく邪魔しない。情報・コンテンツそのものが純粋に経験される。

via: ユーザー・インターフェイスの進化の本質

という文章を読んで考えた。

地図が地図として役に立つのは、その情報の豊かさからではなくて、むしろ街に備わっている無限の情報が適度に抜け落ちているからである。「街の情報の全てを地図には盛り込まない」という知性がある。同様に「目の前にある全ての情報を己の内には取り込まない」ということも、ひとつの知性なのだ。

via: Twitter / shingoemoto: 地図が地図として役に立つのは、その情報の豊かさからで ...

前にも書いたが、ここではUIではなく、「ModelとViewにわける」ことの意味を強調したい。Modelとは地図会社がもっているすべての情報を含むもの。Viewとは地図だ。

ViewをなくしてModelをそのままぶつけるとユーザは混乱してしまう。つまりViewを別個に定義して情報を狭めてやる必要がある。

さてこのViewがユーザに相対するわけだけど、それは「情報・コンテンツそのものが純粋に経験される」ことになっているのだろうか?これは「情報・コンテンツ」の定義に依存するだろう。私はViewはUIであると考える。だからインタフェースが透明化する、などというのは幻想に過ぎない。

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その2

ちなみに、ATMの並んでしまうことを解決するには、たとえば

  1. わかりやすくて素早い動作のATMをつくる
  2. 必ず複数台設置する

ことで銀行の預金・引出ことのUXは向上するでしょう。

via: 観察と記述 | 動いている世界をそのままに。

ふむふむ。でもって

追記:並ぶのが悪くない場合もあります。いつもまったく並ばないラーメン屋と、並ぶラーメン屋は、後者のほうが「わくわく」がありますね

via: 観察と記述 | 動いている世界をそのままに。

をを。なるほど。それで、と思って先を読み進めると

ユーザ体験そのものは主観で、扱いようがないで、体験の原因のことをここではUXと考えます。人を笑顔にすることがUXなど言われるかもしれませんが、UIから出発したUXは、製品やサービス作りをよりメタに捉えようとする、あくまで製品サービスの設計論であって、現状では笑顔自体や心象の話を直接設計する方法論ではないと私は思っています。

via: 観察と記述 | 動いている世界をそのままに。

これは、、どうなんでしょうね。主観でとらえどころがないから対象にしない、と言っているように読める。

まあそれも一つの割り切り方と思うけど、なんだか変な気がする。「本当の問題」は何かを見極めるのが大切だ、と説いているけど、「本当の問題」か否かを決めるのはユーザの主観でしかないと思うんだけどね。

ATMで並ぶことを解決するには、、と問題を始めているがこれは「ユーザにとってATMは並ばず、素早く使いたいに違いない」という前提がある。これはどこから来たんだろうね?

ユーザの主観を勝手に推測しているに過ぎない、と私には思えるのだが。

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「主観は計測できないから扱わない」というのは、日本マクドナルドがレジにあるメニューをなくしたのと同じロジックだ。

顧客が求めているのは、いかに早く商品やサービスを提供できるかというスピード感であり、従来のようにレジでメニュー見ながら商品を注文する形では後ろに並ぶ顧客のフラストレーションをためてしまう、というのが会社側の判断だ。

via: メニュー撤去にマクドナルド原田社長が反論 | 企業戦略 | 投資・経済・ビジネスの東洋経済オンライン

つまりこういうことだ。実験した結果、メニューをなくしたほうがユーザは注文を速くすることがわかりました。同じ時間で多数のユーザをさばくことが可能になり、売上が向上しました。(これは計測可能)そして待ち時間が減少しました(これも計測可能)待ち時間が減少したのだから、UXは向上しました。(これは計測不可能)

渡邊氏の論法でいけば、日本マクドナルドはすばらしいUX設計をしたことになる。しかし話はそんなに単純なのだろうか?そして「UXは主観で扱いようがない」というだけでそれに目をそらしていいものだろうか?

原田社長はそう主張しているようだ。

「今日現在コールセンターへのクレームはゼロ」(原田社長)

via: メニュー撤去にマクドナルド原田社長が反論 | 企業戦略 | 投資・経済・ビジネスの東洋経済オンライン

コールセンターへのクレームもカウントできるもんね。計測できる指標で「問題ない」となっているんだから問題ないんだよ!まあこれも一つのビジネス判断のやり方だわな。