Iveとイーストウッドが得た悟り

2012-12-03 06:51

先日人生の特等席、という映画をみた。久しぶりのクリント・イーストウッドである。
感想は本家を見ていただくとして、見ている間ずっと疑問に思っていたのが

「イーストウッドはなぜこの映画に出たのだろう」

ということ。それを知るべくあれこれ検索すれば

Q:ロバート・ロレンツ監督はいかがでしたか?

とんでもなかった......冗談だよ! とても楽しかったよ。過去18年間、彼は製作サイドで僕と一緒に仕事をしてきたんだ。数年前に、いつか監督をやってみたいと言われ、それ以降いつもそういった機会があれば、と思っていたんだ。

via: 『人生の特等席』クリント・イーストウッド 単独インタビュー - Yahoo!映画

ということなのだな。つまり弟子というか仲間の映画に出演した、と。

でもって同じインタビュー記事からの引用。

こんなに長い間映画業界にいると、知れば知るほど、何も知らないということがわかる。観客を予想することはできない。僕は脚本にアプローチするとき、ヒットするかどうかは考えない。脚本を読んだときに感じたものを、観客にも感じてほしいと願っているけどね。観客がそれを感じなかったら、どうすることもできない。運命論者かもしれないね。でも、自分自身が気に入っていないといけない。そこがポイントだよ。「オッケー、僕は、自分でできる限りベストなものを作った」と言えないといけないんだ。

via: 『人生の特等席』クリント・イーストウッド 単独インタビュー - Yahoo!映画

周囲の期待とか、今の傾向がどうだとかそんなことは「何も知らない」「ヒットするかどうかはわからない」

ポイントは「自分のベストなものを作った」ということと「自分が感じたことを観客にも感じて欲しい」というところ。

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さてApple社のジョナサン・アイブである。

他社の大部分は、何か「他と違う」ことをしようとしていたり、新しいと思わせたりしたがっていますが、完全にゴールを間違えていると思います。製品を作るなら、それは本当の意味で「より良い」ものでなくてはいけません。それには厳しさが必要で、だからこそ僕らはそれをしたいと思うんです。より良い何かをやりとげようという、誠実で真摯な意欲を持てるんです。
普通の会社の上層部は、価格とかスケジュール、違って見えるための奇抜なマーケティングゴールなんかを気にしますが、そんなことは重要ではありません。そういうのは、製品のユーザーに対する認識の乏しい、会社都合のゴールです。

via: アップルのデザインの進め方、責任者ジョナサン・アイヴが語る : ギズモード・ジャパン

この二人の言葉に共通するのは

「自分たちが考えるベストの物を作り上げる」「競合との比較、競争などは些細なこと」

という点だ。

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おそらく多くの人にとって二人の言葉はあまりに抽象的過ぎて何のことかわからないと思う。日本の大企業の人には「マーケティング戦略がどうの」とか「ターゲットユーザ層がどうの」ということになるのかもしれない。

しかしそれは所詮「組織内の言い訳のため」のロジックだと思う。そんなことを積み重ねて良い製品、うれる製品が作れるならば、今頃ソニーは世界を制している。

もう一つこういう考え方が大企業の人に受けないのは、この方法論だと「良い製品」を作るのが完全に属人的な技術になってしまうことだ。みんな自分たちがベストの物を作ったと思ってるんだ、などという人間は何もわかってはいない。

例えばこんな言葉がある。

技術者が自分の開発している製品に愛情を注ぐことは必要なんだが、それがユーザそっちのけで自分たちだけが楽しんでいる状況になると、製品は売れなくなる。

via: 製品大好き技術者が事業を傾ける: 無指向な嗜好

これは実に正しい。「自分がユーザとしてどう思うか」ではなく「自分が作り手としてだけからどう思うか」を追い求めると「自分にとってのベスト」がゴミ製品になる。

この区別は微妙なものであり、おそらく教育で作り出すことはできない。良い製品を作る技術は属人的なもの。この事実を認めない限りどこにも行けない、、と思うのだけどね。