宮崎氏の引退

2013-09-02 06:33

本家から引用。
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風立ちぬ(2013/8/18)

今日の一言:遺言にしましょう。

あるところで聞いたのだが、老いると他人との対話が難しくなり、自分語りばかりになる人がいるのだそうな。宮崎某も72。というわけで観客は、彼がぶつぶつつぶやき続けるのを金をだして聞かされることになる。

この映画には頻繁に「夢」の場面が現れる。夢だからイタリアの伯爵と友達になるのも、空想上の飛行機に乗るのも自由自在。では現実があるかと言われればそれもどうも怪しい。全編が宮崎氏の夢といったようにぼんやりしている。関東大震災、銀行の取り付け騒ぎなど当時の様子が描かれてはいるが、それは夢の中のできごとのようにどこか実感が無い。

飛行機の擬音を全て人の声で作り上げるのはまあ趣味の範疇でいいだろう。しかし演技を生業としない人間に主役の声をやらせるのは行き過ぎ。「観客」というものがこの監督の頭から抜け落ちていることを示している。もはや彼にとって映画とは自分だけが楽しければいいものなのだな。宮崎某はこの映画の試写をみて「自分の映画をみて泣いたのは初めて」といった。そりゃあんただけは面白いんだろうね。

大震災の中、綺麗なお嬢様と美しい女中を助ける。大学で好きな飛行機の勉強をし、本場のドイツで学び世界を観て帰る。そのあと飛行機の設計をまかされる。綺麗なお嬢様とは劇的な再会をし(なぜお嬢様は一回目気がつかず、2回目に泣きそうになるのか?)、プロポーズすると即座にYesが帰ってくる。しかし彼女は不治の病に冒されていた。そして自分に美しい顔だけをみせて去って行くのだった。

これが中学2年生の夢でなくてなんだというのだ。もともとジブリでの宮崎氏の作品は、彼が全て一人で考え、誰もチェックしないものだそうな。だから彼が独り語りを始めればそれを止めることは誰にもできない。プロデューサーはできた映画を売るだけ。

千と千尋の頃からそうだったが、宮崎氏の「夢」を描く力には驚嘆させられた。たとえばポニョでは見事に「悪夢」を映像化してみせた。しかしもはや彼には驚きの映像、観て驚く「夢」を作る気力は残っていないらしい。4分の予告編でも使われていた「紙飛行機を飛ばす」シーンだけは素晴らしい。そこに才能の残光はある。しかし全体としてこの平凡な夢を観ろ。これを遺言とし、これ以降作品を作るべきではないと思う。

などという映画に真面目に突っ込むのは何だが、戦前の三菱重工が野原の中のほったて小屋のように見えるのはまあ目をつぶろう。しかし入社6−7年目の社員があんな高級ホテルで休暇を取るなんて設定には我慢がならん。三菱重工のサラリーマンが観る「夢」としてなら納得できるけどね。
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メイキングで、宮崎氏が主役の「声優」を決める場面を観た。その様子から

「ああ、この人たちは、宮崎氏が言い出したら止めることはできないんだな」

とおもった。宮崎氏以外その起用に反対しているのだが、誰も言い出すこともできず、うにょうにょ口を濁すだけ。

彼も最後にやりたい放題やって満足だったと思う。少なくとも自分は泣いたようだしね。老い方というのはいろいろあると思うが、こうやって自分一人に閉じた夢の中に引きこもっていく老い方もあるのだな。

最新作『風立ちぬ』が大ヒット中の宮崎駿監督(72)が"引退"を表明した。

via: 宮崎駿監督、引退表明 6日に東京で会見へ (オリコン) - Yahoo!ニュース