ビジョンのある会社

2016-04-14 07:05

私のサラリーマンとしての最大の欠陥は場所と場合をわきまえない発言である。とはいえ今働いている会社の人はここを読んでいないだろうから書いてしまおう。ちなみに会社の機密に「普通に」ひっかかることは書きませんよ。

ビジョナリーカンパニーという本がある。私が読んだのは10年以上前かな。ストックデールの逆説とかいくつか印象的な点があった。そこで「すばらしい例」としてあげられているある会社の名前が頭に残っていた。

さて、それからリーマンブラザーズが破綻したりあれこれあって2016年。リマンショックの裏側を描いたドキュメンタリーを夢中になって読んでいる。その中に「あれ、どこかで聞いたことがある?」という会社がでてくることに気がついた。ファニーメイである。

よもや、と思って会社の貸し出し本棚に行ってみる。実はこの本棚は「貸し出し」と「寄贈書」の二つに分かれている。寄贈書の方は、ちょっというと「買ったけど読まない本」のすて場所のようになっている。そこに「ビジョナリーカンパニ−2」が2冊も存在していた。そういえば、私が今働いている会社はビジョンを大切にしているのであったな。この本がマネージャーの課題図書になっていたのかどうかは知らん。

さて

今朝読んだのは米国版住専、ファニーメイが破綻し連邦政府が介入する場面だった。そのファニーメイはビジョナリーカンパニ−2でこうかかれている。

ファニーメイの経済を支えているのは、住宅ローンの債務不履行リスクを判断する能力がどの機関よりも高いことである。この理解に基づいて、民間金融機関が貸し付けた住宅ローンを買い取り、元利返済を保障した証券にまとめ、リスクに見合ったスプレッドを上乗せして金融市場で売却する。この事業についての深い理解に基づいた単純で、賢明で、正しい分母であり、明白ではない分母である。

ビジョナリーカンパニー2 P167

国民すべてが住宅を所有できるようにする目標に向けて、同社が重要な役割を果たしている点が、ファニーメイにとって情熱の源泉となっている

ビジョナリーカンパニー2 P177

「国民すべてが住宅を所有できるようにする」

それは美しい理想なのだが、じゃあ住宅ローンは誰が支払ってくれるのか?大丈夫。住宅は絶対値上がりするから売ればいいんだよ。全部が不良債権化することはありえないから、

「腐った魚や野菜は混ぜてスープにすれば、また売れる」

というのがリーマンショックの本質だった。スープはより広い顧客に売られ、腐った素材についたボツリヌス菌が毒素を吐き出し始めたところで大勢の人が食中毒になる。そうしたマルチ商法まがいの手法をこれだけ持ち上げたらそりゃビジョナリーカンパニー3でまるまる一章言い訳に費やすのも頷けるというもの。というかこのくだりはここ数週間で出会った最も愉快な文章だった。

というわけで

このビジョナリーカンパニーという本はまるまる「なぜビジネス書はあてにならないか」のケーススタディの材料になりうると思うのだ。いまそうした目で読み返してみると、いくつかの言葉が思い当たる。

平均への回帰、がその一つ。彼らが調査した期間は確かに優秀な株価をもっていたかもしれないが、少し範囲を広げただけでそれらはすべて平均(以下)に回帰してしまっている。つまりそれは単なる「突発事項」だったのかもしれない。

もうひとつは

この本の著者が経営者にインタビューし、その言葉を真に受けているという点。経営者が自社について語る言葉がどの程度真実かは、自分が働いている会社の社長の言葉を思い出せば想像がつくというもの。というか人間が自分を評価する言葉ほどあてにならないものはない。この点に関しては別に私が語るまでもない。韓非子は「人の言葉を聞き、行動を観察しそのギャップに着目すべきだ」と書いている。不幸にしてビジョナリーカンパニーの著者は「国民全員が住宅を持てるようにする」という言葉の本当の意味について深く考えなかったようだ。

不幸なことにこうした「知恵」は「失敗した後」にしか思い出さないんだよね。