社員の声を聞こう

2016-07-13 06:57

社員の声、お客様の声にしっかり耳を傾ける。これは結構簡単なことで、自分で決めた社員、あるいはお客様の方に向かって首を傾げればよい。

と書きたくなるくらいに基本的に経営者というのは社員とかお客様(B to Cだが)の声に耳を傾けたりはしない。声などに耳を傾ける必要はないが、行動は見なくてはならない、というのはまともな意見。いや、そんなことはない。十分に耳を傾けております、と断言できるようなら大企業で出世する見込みがある。

再発防止策の中の「従業員の意識改革」という項目の中で、「従業員からも忌憚(きたん)ない意見を募るため従業員アンケートを実施しました。今後、当該アンケート結果の分析を進め、企業風土改革の参考にして参ります」と記述されている。

引用元:「イエスマンばかり昇進する」は東芝だけの問題か | 東芝問題リポート | 編集部 | 毎日新聞「経済プレミア」

という決意表明がある。このアンケートで本音を書くのは若者かかつての私のようなダメサラリーマンだ。一番いいのは

「世間の逆風にも負けず、ますます社業を発展させて行きましょう!私も微力ながら死力を尽くします!」

と書くこと。なぜか。アンケートは「社員の本当の気持ち」を知るために行うのではなく、「会社が言って欲しいことを社員の口から言ってもらう」ために実施するからだ。つまり

資料には、「従業員意識調査で寄せられた意見は、社長をはじめ、経営幹部と共有しています」と書かれ、「代表的な意見に対してお答えします」とし、「第1回掲載」として五つのQ&Aが掲載されている。

 「もっと外部の人材を経営に参画させてはどうか」という意見に対し、「昨年9月から全取締役11人中7人が社外取締役になっています。社外取締役は重要な意思決定に参画いただいています……」といった当たり前の説明が書かれている。

引用元:「イエスマンばかり昇進する」は東芝だけの問題か | 東芝問題リポート | 編集部 | 毎日新聞「経済プレミア」

会社はちょっとした不運に見舞われただけで何も悪くない、というのを確認するためにアンケートを実施する。もちろん十分に社員の声にも耳を傾けているから安心して欲しい、と。

この「当たり前の説明」を聞いてかつてDocomoがやっていたこれを思い出した。

 ドコモでは、これからもお客さま一人ひとりの声や想いを聴いて、それに対して新しいアイデアを考え、実際にお客さまにお届けする商品やサービス―“Answer”を通じて、「ドコモのあなた」との絆をよりいっそう深めていきたいと考えております。

引用元:ドコモ通信 vol.38 | 企業情報 | NTTドコモ

Docomo2.0とともに「docomoはお客様の意見に(すでに)十分耳を傾けております」と言いたいがためのAnswerなのだ。

こうしたメンタリティの根底には「会社は常に正しい」という公理が存在している。公理とは議論の出発点になるもので、証明の必要がない。つまりこれ自体に文句を言っても無駄である。

サラリーマン人生も終盤にかかってきた今になってようやくこういう事実に気がつく。というわけで会社のアンケートにはいつもそうしたスタンスで臨んでいる。そのほうが何事も平和に収まる。