人工知能詐欺師が黙して語らないこと

2018-10-04 07:27

そろそろ第3次人工知能ブームにも陰りが見えて来た。2次と違うところは実際に使われる成果がたくさんでたことである。特に画像処理の分野における進歩は目覚ましい。具体的にはiPhone Xsのカメラ機能。購入予定の人間にとっては「人工知能様ありがとう」というところである。

しかし少し前の「なんでもディープラーニングで解決だあ!」といった熱狂的な言説は聞かれなくなってきている。それとともに人工知能詐欺師もおとなしくなったように思う。ディープラーニングはすばらしい成果を残したが、いかんせんコンピュータの内部で閉じた処理にすぎない。そもそもそれで十分なのか?という問いが建てられそうではない、という意見が述べられたのはおそらく数十年前である。

そうした点に関しては、多くの人工知能詐欺師は何も述べない。しかしその問題が非常にコンパクトにまとまっていたので、ここに引用したい。

初期の研究者たちはコンピュータに膨大な知識と高度な推論能力を与えてインテリジェントな機械を生み出そうとした.しかしこの方向は行き詰まった.著者たちはそれはソフトとハードを別にするデカルトの心身二元論的なアプローチだったからだと説明する.世界は複雑で,現実に何が起こるかをこのようなアプローチで判断するのは困難なのだ*3.さらにこのアプローチでは行動に移る前にすべての結果が計算できていることが前提になる(だからこそ最適行動を選べる).そしてやはりそれは膨大な計算量が必要になる.
ここで生まれたのが「知能の具現化」という新しいロボット工学のアプローチ(包摂アプローチ)になる.まず限られた情報の元に決断し,行動しながらリアルタイムで情報を収集してフィードバックすればいいのだ.
そしてヒトの知性のデザインもこの包摂アプローチに近いことがわかってきた.

引用元:書評 「知ってるつもり」 - shorebird 進化心理学中心の書評など

「行動しながらリアルタイムで情報を収集しフィードバックする」今実用化が目指されている自動運転よりももっとプリミティブな試みが一時なされていて、しかもそれはあたかも生きているかのように動いた。

私が人工知能詐欺師と「初恋に浮かれた童貞少年」のボーダーラインにいると思っている松尾氏の言説によれば、ディープラーニングを使えばあと数年以内には言語処理が可能になり、言葉の壁がなくなるのだそうな。(このPDFのp22参照のこと。今は2018年だからそろそろ研究レベルではできてるはずだ)

それは本当だろうか?

「人間のように文章を理解する」「人間のように会話する」ためには実世界のモデル化、およびそれに伴う頭の中でのシミュレーションがかかせない。それには実際に身体を持ち、実世界とあらゆる方法でインタラクションしながら学ぶ以外に方法がないと私は考えている。悪名高い

「僕はウナギだ」

という発言(@うなぎ屋での注文をとられたとき)をちゃんと解釈し、I am eel.などではない訳文を出力しようと思えば、それ以外に方法がないように思うのだ。

しかし人工知能詐欺師は絶対それには言及しない。そして「ディープラーニングに投資すれば日本の未来は大丈夫です」と宣伝し続ける。

これが人工知能研究にとって初めての挫折であれば、こうした行為も理解できる。しかし挫折は3度目であり、2度目の挫折の時に十分な反省も提案もなされている。それを知ってか知らずしてか「ディープラーニングでなんでも解決だあ」と叫び続けるのは詐欺師に近い、と私は考えている。