渋谷neo散歩に参加したよ

2021-03-15 09:51

デイリーポータルで知って、渋谷neo散歩というイベントに参加してきた。出無精の私だが、さすがに一年も外部のイベントにでないと「なんでもいいから参加」という気持ちになる。

東京カルチャーカルチャーという場所で行われる。宮下公園の近くと思ってぷらぷら行ったのだが、その宮下公園がすっかり変わっているのに驚いた。前に来たのは多分同じビルにはいっている映画館に来た時だと思うが、とにかくごそっと変わった。ルイ・ヴィトンなんぞが存在している。あのホームレスの家はどこに。

などと驚いているうち、イベントが始まる。まずは様々な散歩の楽しみ方についてマニアの方5名からレクチャーがある。先日書いた本で、「自分が何かを好きなのは第一歩、次にそれを他人に伝えられるようにしないと」と書いたばかり。なるほどなあ、と自分であれこれ考える。

そのうち「サイバー」なるキーワードが浮かび上がってくる。ただ電飾があるだけではない。値段を示す看板もサイバー。さてサイバーとはなんでしょう。

議論を聞いていて以下のようなものではなかろうかと考えだした。例えば渋谷は再開発の真っ最中。再開発の完成予想図というのはとても美しく隙がないものなのだろう。そしてこのあと外を歩くことになるのだが、確かに新しい渋谷の街には全く隙がない。植物があっても、それはそこに存在するために植えられているもの。「邪魔な」電線は地下に埋められている。

しかし

人間の社会、そして現実世界はそんなに美しく隙がなく単純なものではない。人間が意図しないちょっとしたひび割れにも植物が生える。電線と電柱は街の風景に重ねると想いもかけぬ躍動感をもたらす。街のネオンはそれが昼にあると間抜けに見えるがそれも街の風景。やむおえず手書きで書いた文字はえもしれぬ味わいを醸し出すし、最新のものに全てが一度に置き換わるわけでもなく、かならず古いものと新しいものは共存する。

こうした「あるべき単純な理想図」と「現実世界」が混在し共存し、思わぬ美しさ、愛おしさを醸し出すことを「サイバー」と呼ぶのではなかろうか。などとずっと考え続ける。

ふと思う。これがオンラインイベントで家から参加していたら、きっと今頃何か他のことをやりだし、耳だけ半分こちらに向けているだろう。確かにそれは快適ではあるのだが、集中力にかける。そしてこうやってサイバーの定義について思いを巡らすこともないのだろうな、と。

などと考えているうち、チームごとに散歩にいきましょうということになる。私が所属したチームは「チームはぐれもの」四人で仲良く歩き出す。私がトイレに行っている間に行き先を検討していてくれたらしく、渋谷川にいくことになる。途中でチームの方と話していて「A4の張り紙はサイバーだ」ということに気が付く。誰かが言っていた言葉を私なりに理解するとこうなる。本来建物とか都市の設計は自然に導線が作られることを意図している。しかし現実は往々にしてその通りになっていない。そうした場合に立派な看板や張り紙ではなく簡単にプリンタで出力できるA4用紙が使われることになる。つまりA4の張り紙は「サイバー」そのものなのだ。なるほど、これは面白い。

そう思って歩き出すとさっそく見つかる。サイバーな張り紙が。

サイバー張り紙

この張り紙は実にサイバーだ。まずそもそもここに座って欲しいと建築家は思っていなかっただろうが、場所としてはまさに「座って欲しい」と言わんばかり。そしてそこに張り紙をしたのはいいが、一番肝心な文字が消えてしまっている。よくみると「すわらないで」という文字を赤で印刷したようなのだが、赤い文字が一番最初に流れてしまっている。お散歩が終わったあとのプレゼンで私はこの写真を前に「この残念さがいとおしいと思いませんか?」と聴衆に訴えることになる。

さて、そこからてくてくチームは進む。気になったものを全部書いているといつまでたっても終わらないのであと2点に絞る。新しい渋谷には電柱がないが、古い渋谷にはある。そしてこの電柱はどうだろう。

サイバー電柱

一体何をどうしたら一本の電柱にこれだけリング(というか留め具?)のようなものが設置されうるのか。私は歓喜してこの電柱に周りをぐるぐるまわり、あるいはほとんど電柱にだきつかんばかりの体勢で写真を撮り続ける。知らない人が見たら完全に頭のおかしい人である。

そして最後は同じチームの方に教えてもらった実にびっくりな看板。

巨大看板

大学の教養学部が近くだったこともあり、渋谷は比較的馴染みの街だった。合わせれば十年近く近くで勤務していたこともある。なのにこの巨大なビル上の看板には全く気がつかなかった。しかしそう知ってみれば見逃すはずがないほど巨大な看板。これは本当に驚いた。ビル自体はとても古い。つまり渋谷が新しくなろうが、なんだろうがこの看板は昔からずっと存在していたのだ。誰にも知られずに。これこそサイバーではなかろうか。

などと驚きにみちた時間はあっというまにすぎ、チームで元の会場に戻る。そのあとはチームごとに5枚写真を選んでプレゼン。私は「この残念さがいとおしくないですか」と連呼する。

各チームからの発表も行われる。皆よく気がついたなあと思うものばかり。各チームは独立に写真を選んだのに全く被る気配がない。見方をちゃんともてば、渋谷はサイバーな魅力あふれている。

新たな発見と春暖かい日差しの中での渋谷散歩。ご満悦のうち私は会場を後にする。