A❤︎アート思考とは何か/何でないか

2021-08-24 07:29

今今年3月に公開した本の改訂版を書いている。「これは私が勝手にまとめたアート思考です」と書くのが面倒になり、A❤︎アート思考という名前を使うことにした。でもってA❤︎とは何かを追記しているのだ。

さて

A❤︎とは何か?Armedハート。つまり武装した心。A❤︎アート思考ではなによりもサービス、製品の中心にある❤︎を重視する。これが❤︎であって、ロジックやデータでないところに注意してほしい。

「私は何を心から主張したいか」

が必要なのだ。

しかしそれを晒すだけでは昭和の読書感想文「本を読んで思ったことを書きなさい」である。「おもしろーい」「つまらなーい」ではただの小学生の戯言。それを受け取り手の❤︎に響くようにしなければならない。そのために必要なのが武装。すべての技法とか方法論とかマーケティングストラテジーとかはこの武装に該当する。大ヒットするサービス、製品にはこの❤︎とArmが備わっている、というのが私の主張だ。

さて

世の中には武装は立派で金もかかっているのだが、❤︎が存在しない、あるいは存在しても、それが自己顕示欲でしかない例がものすごくたくさんある。先日その「実例」を見つけた。製作に関わった人たちはほとんど私が知っている人なので、躊躇う面もあるのだが、正直かつ考えて感想を書くことが彼らと彼女たちへの敬意を表すことだと考える。この映像を見てほしい。


私が以前勤めていた会社が公開した動画である。これにはたっぷりと説明文書がついており

LIFULLはコーポレートメッセージ「あらゆるLIFEを、FULLに。」のもと、既成概念の枠を超え、多様な人の、多様な生き方をサポートしたいという想いから「しなきゃ、なんてない。」というメッセージの発信や、様々な社会課題解決に取り組んでいます。
LIFULL公式Twitterでは「しなきゃ、なんてない。」をテーマに、おなじみの3つの童話「桃太郎」「かぐや姫」「3匹のこぶた」をLIFULLオリジナル版としてリメイクし2021年7月15日(木)より公開。Twitterユーザーの人気投票を行い、この度、投票数1位となった『地球を守るために立ち上がるかぐや姫』を、「進撃の巨人」などの声優を担当する人気声優・梶 裕貴さんに一人4役を朗読頂き、Twitter上で朗読動画を公開しました。
 今回動画で公開された『地球を守るために立ち上がるかぐや姫』はかぐや姫がずっと地球にいられるように、本人や老夫婦、求婚者たち一人一人が様々な環境改善に取り組んでいくストーリーとなっています。お花の流通ロスや規格外廃棄を削減し、花き産業への貢献を目指す「LIFULL FLOWER」(※1)や食べることが地球のためになる、そして新たな食材の可能性を探るためのサスティナブルなプロジェクト「地球料理 -Earth Cuisine-」(※2)などを手がけるLIFULLらしい作品とも言えます。

引用元:【LIFULL童話】地球を守るために立ち上がるかぐや姫(朗読:梶裕貴) - YouTube

なのだそうな。

さて

この動画を前述のA❤︎の観点から考えてみよう。

まずこの動画はどのように武装しているだろうか?有名な(多分)声優を使い、Twitterで人気投票1位となったかぐや姫という日本人に馴染みの深い題材を使っている。それを現代の課題にアレンジすることでただ「地球環境を考えよう!」と叫ぶより、受け取り手の心に響くメッセージにした、、と誰かが説明したのだと推測する。

問題は

「本人や老夫婦、求婚者たち一人一人が様々な環境改善に取り組んでいく」

と確かにセリフで述べられている。しかしそれらが全く受け取り手の心に響くことはない。かぐや姫を口説こうとした男どもがいきなりいい人になって地球環境の改善に取り組み始める。はあそうですか。なぜそうするのかを受け取り手にわからせようとするストーリー上の工夫が全くないことに驚く。まとめよう

Arm:武装は何か?

・有名な声優

・日本人に親しみやすい昔話のアレンジ

・地球環境について考えましょうという言葉

Arm:武装で欠けているものは?

・受け取り手の心を動かし、考えてもらうためのストーリー

結果は明白である。この文章を書いている時点で、前掲した動画の再生回数は5日間で677回。イイネは71である。LIFULLの社員数は国内だけでも1000名を超えているのだが。

私はこの動画に関わったであろう人たちを知っている。彼らと彼女たちが「この動画で受け取りてに❤︎が伝わる」と思ったとは考えられない。ではこれらのArmは何を届けようとしているのか?この動画の奥底にある❤︎はなんなのか?

ESGだのSDGだの振りかざす人間の90%は信用できない、というのが私の経験則である。(ちなみに私はスタージョンの黙示を信じている。全てのものの90%はクズなのだ)なぜならほとんどの人にとってESGだのSDGだのが掲げる課題は現実感を伴っていないから。しかるにそれを声高に主張する人間というのは地球環境よりも

「こんなに地球環境についている私って素敵!かっこいい!」

と主張してる場合が多い。心から地球環境を案じ、それを解決するために実効性のある行動をしている1割の人を攻撃する意図はさらさらない。やるなら真面目にやれ、というのが私の主張だ。

そう考えれば、この動画の奥底にある❤︎が理解できる気がする。

「こんなに地球環境について考える我が社って素敵!」

この動画から聞こえているのはこの❤︎。そう考えれば、この動画に受け取り手の心を掴むための工夫が何一つないのも理解できる。そもそもそれを目標にしていないのだ。やりたいことは自らの姿を「地球環境」という言葉で飾ることなのだから。

さて

前にも書いたが私はこの動画に関わったであろう人々の一部を知っている。私がここに書いたようなことは当然理解しているはずだ。

ではなぜこのような動画が公開されたのか。おそらくそこにはこの動画以上に興味深い物語があると思うのだが。