題名:Java Diary-44章

五郎の入り口に戻る

日付:2004/1/21

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GLBrowser-Part5(Ver X)

さて、自分で試験をしているといろいろ面白いことに気がつく。従来検索エンジンというものは

「目的とする情報に素早くたどり着く」

ための手段であったはずだ。であるから最初は内容を特定できるような言葉で検索をしてみる。(「大坪五郎」とか)ところが使っているうちに「いいかげんな言葉で検索をしたほうが楽しい」ということに気がつく。たとえば「花火」で検索すると画面の右側に花火がばんばん花開くことになる。それはそれで楽しいのだが、それよりは

「大会」

で検索してみる。すると「花火」という言葉もでてくるが、甲子園関連とおぼしき言葉もでてくる。きれいな花火に浴衣の女性も美しいが、なんとなく甲子園のほうもみてみたいではないか。

などと考えながら真っ白な頭でつんつん検索する。疲れているときは最初に入力する単語を考えることすら面倒になる。そのうち目につくもの何でも放り込むようになる。机、椅子。パソコン画面の隣でつけっぱなしのTVに写った何か。それでも運が良ければ

「をを。世の中にはこんなものがあったか」

というものが見つかる。もっと面倒になると単にテンキーをいくつかたたくだけになる。それでも時々面白い結果がでてくる。

などとやっていると「そろそろグループの人間にこれを見せていいかもしれない」と思い出す。ところがいざやろう、と思うとなかなか勇気が出ない。いつも一緒に働いている仲間だし、そんなに罵倒されることもないと思うのだが

「大坪さん、そんなの作ってたんですか。似たようなの昔からありますよ。つまんないから誰も使ってないけど」

と言われるのが一番恐ろしい。だったら多大な時間(といってもほとんどは通勤電車の中にいる時間だが)を費やす前にお伺いを立てればいいものを、なんとなく秘密にしたがるのが私に山ほどある欠点のうちの一つである。

しかしついには腹を決めた。10月最後の週だったかと思ったがとある会議室にグループの人間を集め

「こんなもの作ってみましたぁ」

と披露したのである。

幸いにも一笑に付されることはなかった。「これ、だいぶ前にはやりましたよね」と言われることもなかった。一番最近グループに加わった男が

「これスクリーンセーバーにできませんかね」

と言う。ををそれは良いアイディアだと思ったが、後で考えてみたらこれほどネットワークに負荷をかけるスクリーンセーバーもないことであろう。会社の人間全員がこれを使い出したらネットワーク管理者は発狂するに違いない。

もしこれと類似するシステムを知っていたり、あるいは見かけたりしたら是非教えてくれ。「そんなのもうあるよ」と言われることを一番怖れているのだ、と言ってその場はお開きとなった。なぜそんなに「もうあるよ」を怖れていたか。これを社外に発表する事に決めていたからである。

ここで話はほぼ一年前にさかのぼる。どうやってそれを見つけたのかわからないがネットで情報をごそごそ漁っているうちWISSなるワークショップが泊まり込みで行われる事を知った。表紙に書いてある能書きを読めば、なんだか業務に関連しそうな(というのは表向きの理由で、本当のところは私が興味を持っている)分野の内容らしい。それがどのようなものか、どんな発表がなされるのか全く知らぬまま勢いだけで参加申し込みをする。

案内に従い飛行機で函館に着く。人の後についててくてく歩いていくとWISSご一行様用のバスが来ているようだ。もちろん知った人など誰もいない。こういう状況はそれほどComfortableとは言えないが、何度も経験したことでもある。ぼんやりとバスの座席に座っていると、髪を金色に染め、ヘッドマウントディスプレイ(目の前につける小さなディスプレイのこと)をつけた男性が乗り込んで来た。展示会とか記事とかでそういう機器をつけた人は見たことがあったし、米軍のヘリコプターの搭乗員もつけていた気がするが、ここはバスの中である。なんだこれは。あの人は一体何者なのか。声こそださねど心から動揺する。次の瞬間驚愕しているのは私だけで周りは何の反応もしていないことに気がつき更に驚く。私はどこに来てしまったのか。行く先に大いなる不安を抱えたままバスはひた走る。

会場に着くと案内があったのか無かったのかもよくわからないまま、とにかくある部屋に通される。見れば床に電源ケーブルがはい回っている。そのうち席が埋まり出すのだが、特にアナウンスがあったわけでもないのにほとんど全ての人がノートパソコンを机の上に広げ出す。私もいつも持ち歩いているiBookを広げる。ほどなく発表が始まった。

内容は「インタラクティブ・ソフトウェア・システム」という会議名を反映して非常に幅広いものである。発表内容もExcitingだが、私を驚かせたのはその発表スタイルであった。正面には発表者のプレゼンテーションが映し出される。それは普通というかあたりまえなのだが、もう一枚の画面には参加者が行っているチャットの画面が表示されている。つまり発表の間参加者は黙って聞いているのではなく、パソコンで活発に会話しているわけだ。画面はもう一枚あり、そこには参加者の反応がリアルタイム投票で示される。参加者は誰でもあるページにアクセスし、良い、悪いのボタンを何回でも押すことで反応を示すことができるのだ。こんな発表会というのは産まれて初めて見た。

発表が一通り終わるとデモがある。液晶画面に押しボタンを表示することはいまやすっかり当たり前になったが(駅の自動販売機や、銀行のATMなど)これは本物のボタンに比べると「押した」という感触が得られないのが問題だ。それを解決するため、液晶ディスプレイの前面にもう一枚ガラスを起き、それを押し込む動作に合わせて前後にがっこんがっこん動かしてみました、という発表があった。説明だけ聞いていると「ふーん」と思うのだが、実際に液晶ディスプレイ前面に設置された板が動く様子がビデオで示されると場内爆笑となる。これは良い意味での感嘆を示す爆笑だ。そのディスプレイもデモ展示されていたが、人だかりができており、なかなか近づけない。私は気が短いたちなのでさっさと諦め他の展示を見る。私は発表を黙って聞いているよりも、こうして実際に開発した人と会話できるデモの方を好んでいる。あれこれ質問したり感心したり。そのうち

「これくらいのデモならがんばれば私でもなんとかなるのでは」

と考え出す。もちろん「これはどうやってもかなわない」と思うような発表もあるのだが、「これならSiteBrowserと五十歩百歩では」と思うようなものもある。

さてその晩にはOUISSが開催される。これは「お蔵入りになったユーザーインタフェース救済シンポジウム」と称し、没になった研究やアイディアを発表しあう、というものらしい。その道では有名なある若手の研究者は「スクリーンセーバーセーバー」を発表した。パソコンを使っていてふと手を休めると、いつのまにかスクリーンセーバーが起動してしまう。場合によってはスクリーンセーバーを解除するためにパスワードを入力しなければならない。これはとても面倒だ。(ふむふむ:みんなの反応)

というわけでスクリーンセーバーが起動するのを防ぐためのシステムを開発した。マウスの下に携帯電話を置いておき、携帯電話にJavaアプリを搭載、一定時間ごとに振動させる。これによりマウスを少し動かしたのと同じ効果が得られ、スクリーンセーバーが起動しなくなる。

そして最後のスライドでは説明を聞いていた全員が心の中で何十回とつっこんだ解決策-スクリーンセーバーを起動しないようにする-が示され、このアイディアがお蔵入りしたことが発表される。場内大爆笑である。なんでもこの人は実際にJavaアプリまで作成したとのこと。ああ、この才能と労力のどうしようもない無駄遣い。おじさんは感動してしまいます。

翌日も同じような調子で発表があり、デモがある。先ほど書いた「前後に動くディスプレイ」の他にも日立デザイン本部からは面白い発表がいくつかなされていたが、そのうちの一人に夕食の時話を聞くことができた。よく、ああいう新しくて面白い(つまり商売につながるかどうかさっぱりわからないもの)を会社で作らせてくれるなあ、と思っていたのだが、なんとほとんど手弁当でやっているのだそうだ。つまり本業をちゃんとこなしながら、自分の時間を使い、ハードも小遣いで買ってしまい(大きな物-たとえば前述した前後するディスプレイ-はどうはいかないのだそうだが)周りの人間に協力してもらって評価試験をやる。

こうした話を聞き私は心底感動する。そこまでして自分が考えた物を形にし、発表しようと言うのか。そして(会社への報告書には書かなかったが)心中密かに決心したのである。

「来年はこの場所で何か発表してやるぞ」

と。

というわけで今年のWISSである。デモの発表申し込みページはだいぶ前にオープンされた。一番上に発表枠の残り件数が表示される。「出だし好調」とのことで、いきなり残り15件とかなる。さて、どうする。発表申し込みはしたが物ができない、などという恥ずかしいことは避けたい。ではどこで「これを発表する」という踏ん切りがつくのだろう。発表するのはいいが

「そんなものありふれてるよ。知らないの?」

と馬鹿にされないだろうか。うだうだと迷うこと数日。ついに思い切る。ええい、とにかく申し込んでしまえ。だめだったら「すいません。キャンセルです」とメールをだせばなんとかなるだろう。少なくとも不戦敗はいやだ。するとまもなく

「デモ申し込み受け付けました」というメールが届く。さあ困った。本当に申し込んでしまった。どうしよう。

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注釈