題名:Java Diary-64章

五郎の入り口に戻る

日付:2005/7/30

目次に戻る


Goromi-TV Part2

ゴールデンウィークが後半に入ろうという5/6日。見慣れないアドレスからメールが届いている事を知る。読めばPMからの採択を告げるメールだ。私が当初申請したものより額が多くなっている。なんでも最終報告書とかまとめる必要があるから本人の人件費を追加してくれたのだそうな。

それを読み私はさっそく返事を書く。

「ご連絡&採択ありがとうございます。うれしさとともに身が引き締まる思いです。期間内に所期の成果をおさめられるよう努力いたします。」

今読み返してもその時の緊張感がよみがえってくる。これまでこの文章に書いていたような事は、「通勤電車プロジェクト」だった。只でやっていると言えば聞こえが良いが、できなくても誰にも文句は言われない、という点で無責任でもあった。しかし今度はそうはいかない。お上のお金をくださーい、と言ったら「金やるからやってみろ」と言われたようなものだ。本当にやらねばならん。

しかし私は頭のどこかで「まだ本当に書類をもらうまではわかるものか」と思っていた。先日の面接の最後に「PMが採択してもIPAでけられることがある。それも一回ではない」という言葉を聞いていたからだ。これはたぶんPMが採択した、ということで最終決定ではなかろう。そうだそうだ。紙に書かれた物を観るまで信用するもんか。

などとつぶやいているうち、5/13には「6月に合宿やります。日程の都合を教えて下さい」というメールが届く。ううむ、やはり通ったのだろうか。しかし紙観るまではなあ。とはいうものの日程の確保はしなければ。ぶつぶつ、といっているうちに5/18「合宿の日取りが決まりました」と連絡がある。日程表を観れば一人40分開発計画をしゃべることになっている。ううむ、40分も何を喋ればいいのか。

そうこうしているうちINTERACTというカンファレンスに出していた論文に対して"We are sorry to inform you .."というメールが届く。いつものことながら落第メールは受け取って楽しくない。読んでいるうち自分が何の取り柄もない芋虫のような気がしてくる。(私は芋虫が嫌いだし、何かで読んだからこの表現を使うのだが、芋虫にしてみれば「うるせえ」ということかもしれん。)しかし今回幸運だったのは時期が重なったおかげで「一勝一敗」と自分に言い聞かせることができたことだ。さあ、涙を拭いて合宿の準備をしよう。物を作ろう。

とはいうものの合宿でどのようなコメントがでるか解らないからいたずらに作ればいいというものではない。というわけで一部の試作をする。

実はこの時期Mac OS X 10.4のQuartz Composerというものに大変興味を引かれていた。簡単に説明するとブロックの間を線でつなぐだけでかっこいい絵ができるのである。ブロックをもってくる。すると画面上で立方体が回り出す。別のブロックをもってきて、ふたつの間に線をつなぐと立方体の各面に写真が貼られる。別のブロックを使えば面の上で映画が始まる。

これは面白い、というわけで「上下にスクロールする動画及びそのタイトル」というを作り始めた。うーん、うーんと悩むことしばらく。下から上にムービーが動き出す。しかしそれを観ただけで

「Goromで静止画をスクロールさせているのを単純に動画にしただけではだめだ」

という事に気がつく。画面の下から出てきて上に消えるまでの時間はたいそう短く、その間に動画を出したところで何のことだかわからないのだ。同じ映像を繰り返し表示しているとそのうち様子が分かるようになるが、

「一瞥して内容を把握する」

とはとてもいかない。

まあせっかくやったのだから合宿での40分説明に含めようではないか。そう考えながら合計三つのムービーを同時にスクロールできるようにする。しかしそもそもどんな説明すればいいのか、とぶつぶついいながら説明資料を作る。その過程であれこれ調べるうちGoromiに似たようなサイトを見つけた。新刊書を探すためのインタフェースなのだが、言葉を入れるとそれに関連したキーワードが円形に配置される。誰でも考えることは似たようなことであるか、と思うが大きな違いがあることにも気が付く。キーワードだけ観ていてもどんな内容が該当しているのかわからないのだ。そう思うとGoromiで一番新しい点というのは、キーワードとそれに関連する情報が一度に表示されるところだったのかもしれんなぁ。

そうこうしているうちに月があらたまり6月となる。昼頃メールをチェックすると

【ご連絡】未踏事業の採択と契約説明会と技術交流会について

なる題名のメールが届いている。ご採択おめでとうございます、ということでURLが書いてある。そこに飛んでみればなんだかものすごい量の書類を作成しなければならぬらしい。やはりお金をもらうからにはこれくらいしなければ、と解ってはいるが面倒は面倒だ。そこには

「採択通知日(決定日)は、5月26日ですが、IPA内の事務処理手続きの関係で、各採択者の皆様には昨日(5/31)採択通知(書面)を郵送させていただきました。」

と書いてある。ということは、5/6に採択のメールを受け取ってから3週間何が行われていたのだろう。その間にどこかに消えることもあり得たのだろうか。

いいや、こんなメールが信用できるものか。紙にかかれたものを観るまで信用しないぞ、とつぶやいていると6/2に採択通知が届いた。私はこうした通知に関して一つの経験則を持っている。それが薄っぺらい場合は不合格、厚ければ合格、というやつだ。しかしこれはやたらと薄っぺらい。考えれば昔であればこの通知に同封されたであろう各種書類は、今やサイト上で配布されるということなのだろう。

さて、どうやら本当に採択されたようだ。となるとちゃんと物を作らなくてはならない。どこから手をつけたものかと思っているうち、もう一通封筒が届く。今回二人のPMに申請をしていたのだが、もう一人のPMからの不合格通知だ。正確な文面は覚えていないが

「重要な問題を指摘しているが、より経験と実績のある研究者が多く取り組んでおり、学会等でも発表されているので不採択とする」

要するに「問題設定は悪くないけどあんたみたいな素人の出る幕じゃないよ」ということなのだろう。それは事実なので心に留めておくとして、直接ぶつかるような関連研究があるのなら是非教えて欲しいと思ったのだが、不幸にしてこのReviewプロセスは一方向なのであった。

しかし今更ながらこうした「専門家」がJudgeするシステムというのはReviewerとの相性であることを痛感する。一定のルールの下相手と殴り合ったり点を取り合ったりする競技と違い、なんだかんだと理屈を付けてみたところで、相手の心に響かなければアウトだ。もちろんこちらの力が及んでいない場合もあるが、相手の想像力が欠けている場合だってあり得る。そうしてみると3人のPMにまで応募でき、かつ合議制でないこの未踏ソフトの仕組みというのはうまくできているということなのだろう。

さて、そんな感慨はさておき書類をあれこれつくらなくてはならない。まずは「承諾書」これは採択者が所属している組織から「未踏ソフトで開発した成果は開発者のものよん」という承諾を得るための書類だ。会社でそのための決裁書を回すとCongratulationという言葉とともにあっさり許可が取れた。こういうところが中小企業に勤める利点の一つだ。私が最初に務めた会社であれば、この許可を得るのにまず3ヶ月は要しただろうし、それでも許可が得られるかどうかはわからない。

その他に「登録票」というものもあり、両方ともとっとと送ってしまう。さて、次には「プロジェクト管理組織」というものを決めなくてはならない。これは経費とか契約書とかそういう面倒な書類手続きを分担してくれて開発者の負担を軽減するものだ、、なのだそうな。最初は「自分が務めている会社に頼めばいいや」と思っていたが書類の量を観て考えを変えた。この書類をいちいち理解して作成するのは弊社の総務部門(二人しかない)の手には余ることだろうし、あれこれ説明したあげく、結局自分でやることになりかねない。おまけに一度経験したことが次に生かされるわけでもあるまい。であれば既に未踏ソフトの管理組織をした経験があるところに頼んだ方がよかろう、ということでPMのサポート組織もしているNTT出版にお願いすることにする。

などとあれこれやっているうちに合宿の日が近づいてきた。

前の章 | 次の章


注釈