空前(そして多分)絶後の占い経験


会社の福利厚生の一環として「ある街の店を借り切りいろいろな体験をできるようにする催し」が行われた。街バルというらしい。会社のイベントだから、参加費は無料である。(考えようによっては給料から一律に引かれているわけだが)

数日前に体験一覧のリストが公開された。「マッチョとメガネの喫茶店」とか謎の文字が並んでいる。なんだこれはと思いながら眺めるうち「占い」という文字に目が止まった。


幼いころから占いには興味があった。街に座っている占い師をみて「ああいうのっておもしろそう」と母に言う。なんたって自分の将来を教えてもらえるというのだ。僕はどんな学校にいってどんな人と結婚してどんな仕事をするんだろう。すると母は「いやなこと言われるから、やらないほうがいいよ」といった。なぜ母はそう答えたのだろう。


大きくなって自分でお金を使えるようになった。だからその気になれば自分で占ってもらうこともできる。しかし結構高いし母の言葉もひっかかる。というわけで興味はあるが自腹でやる気はない。そこにこの街バルの企画。まあぴったり。


というわけで応募した。定員を大幅に上回る希望者がいたようだが、幸運にもくじ引きで当選。当日うきうきと指定された店に行く。一人あたりの「占い時間」は14分とのこと。しばらくご飯など食べながら自分の番を待つ。


そのうち担当の人に名前を呼ばれる。占いエリアの近くでしばらく座る。占い師さんは8名いるのだが、空いた順番に案内されるらしく相手を選ぶことはできない。自分が聞きたいことが決まっており、占って欲しい人が決まっている人もいるのだろう。私はとにかく体験することが目的。誰でもいいやと思っていたので問題はない。

しばらくするとブースに案内される。後で知ったのだが、私を担当してくれたのは「人生開花スピリチュアルセラピスト」の人であった。そうと知っていたら自己紹介に書かれていた「オーラ波動鑑定」を頼んだのに。

座ると、まず生年月日を西暦で聞かれる。それを告げると相手はなにやら電卓で数字をうっている。その間にも「どんな話をしましょうか」と聞かれる。「そうですね。今後の仕事について聞きたいです」と答える。


彼女がパタパタ電卓を叩いた結果私は「7の人」ということになる。好奇心が強く、外交的というより内向的。そんなことが書いてあったかな。そうはいっても、計算の過程を知らないから本当に生年月日を元に計算した結果そうなったのか、ぱっと見で「こいつはこれで行こう」と考えたのかは定かではない。


次にタロットカード?をずらりと並べられ「2枚選んでください」と言われる。裏返すと絵が書いてある。


一枚目に書かれている絵を見る。少女が自分の手にのった蝶々に何か話しかけており、奥のほうには藁でできた家がある。手前にある木にはなにやらあやしげな狼がへばりついている。

もう一枚のカードには月をバックになにやら塔のようなものが描かれている。でもってさっきの狼が木にへばりついている。これをみてどう感じますか。と聞かれる。


そうですね。ぺらぺらとカードに書かれている絵について描写した後に「とても穏やかな感じがします」と答える。ここで自分の不安を狼さんに投影してあれこれしゃべればいいのかもしれないが、まあなんというか狼さんにも事情があるだろう。へばりつきたければへばりつけばよい。

もう一枚先方が選んだカードを見せられる。剣がずらりとならんだ向こう側に誰かがいる。その前にトカゲだか竜のようなやつが2匹いる。


「これも穏やかな絵ですね。竜も脅しているように見えないし。この人は何か理由があってここにいるんでしょう。出たければ剣を倒してでればよい」

私は別にひねくれた気持ちではなくそう思った。しかし後で多少反省した。多分「この人は竜に脅され、この剣の柵の中に閉じ込められているんです」とか言った方がセラピスト的に都合がよかったのではなかろうか。

好奇心が旺盛な方のようですから(7の人だからか。じゃあタロットはなんだったのだ)自分の興味にあった仕事がいいと思いますと言われる。少しは自分の場所がないと疲れちゃいますよねと言われる。そりゃそうだ。

あと資格をとってみるのはいかがですか?と言われる。資格ねえ。関係する資格というと、、博士号か。今から博士号取ろうたってそう簡単にはいかんだろうし。博士号とったから給料が上がるわけでもあるまいし。

今の会社との関係は?とか今の仕事は自分にあってますか?とか聞かれるが「概ね良好です」としか答えようがない。かくして不得要領の間に時間が過ぎる。

最後にその人が主催している「セラピスト拡大チーム”愛の女神”」の宣伝チラシを渡される。妙齢の女性が何人も写っているから


「みなさんこれ専業でされてるんですか?」


と聞くと概ね兼業とのこと。そこで「そうか。こういう働き方もあってるかもしれませんよ」と言われる。兼業で稼げということか。多分この「兼業はどうですか」がこの日聞けた一番有益なアドバイスだったと思う。

というところで私の時間はおしまい。礼を言ってその場を立ち去る。振り返って考える。この占いに金払うより、転職コンサルタントと話したほうが有意義ではなかろうか。しかも転職コンサルタントなら無料だし。後日知ったのだがこの人が当日の様子を自身のブログに書いていた。「ある会社のイベントで占いさせていただきました」ということで、


--(引用ここから)--


わたしの鑑定では

涙される方もあり、笑顔満載の方もあり


--(引用ここまで)--


ということなので、きっと他の社員は感動したのだろう。私のような人間は占いは向かないということなんだろうか。

いずれにせよ子供の頃からの課題だった「占いを一度経験してみる」という目的は達成されたことになる。街バルで企画してくれた方達には感謝の言葉しかない。ありがとうございました。


注釈