題名:喇叭

五郎の入り口に戻る

日付:2001/9/16


喇叭-どうかRappaと発音してください

かしむかしその者が穴に、長い長い穴に落ちた。ばらく死んだように身動き一つしなかったが、やがて目をあける。計な問題が生じなければよいが、既にしてこの状況は快適とは言い難い、などとつぶやきながら周りを見回すと、時計を見ながらウサギが走り去って行ったような気もする。サギはウサギなのだが、顔だけが丸子雌犬とはこれいかに、と頭をひねっているうちにふと目覚める。全に覚醒していたと思っていたが、あれは夢だったかと思いながら見回すと、大勢の楽器に取り囲まれていることに気がつく。ーっとなどと言っている間にあの男が-そう、あの男だ-これは喇叭だ、と言い放ち、続いて周りの楽器は皆この者を喇叭だと言い出す。んでもない、そんなはずはない、と思うのだが、かといって自分が何者であるか解らないから大人しくそう呼ばれるままとなっていた。

れから長い年月が過ぎたわけではないのだが、いつしか喇叭-その者はすでに自分をそれだと思っている-にも楽器の友達が出来た。きあうようになったクラリネットとフルートは時々喇叭の地で出会ったが喇叭はいつも彼らを手厚くもてなした。 

ラリネットとフルートが集まって恩に報いようと相談し

屈はともあれ、我々木管楽器は皆胴体に穴が開いているのだがこの喇叭だけにはそれがない。重なもてなしに報いるため、ためしにその穴を開けてみよう」と一日に一つずつ穴をあけていったが、七日立つと喇叭は死にそうになった。々と続く苦しみの中、喇叭はただつぶやき続ける。

ぜ、きみ達がこんなことをするのかわからない。......が破壊され...子供みたいに.....存在しなくなってしまう。...い出す、この世界での私の最初の先生はあの男で...私に昔話を教えてくれた、、、昔話、、、童話、、、、寓話、、、、芥川龍之介の河童、、、、河童、、、、かっぱ、、、、喇叭。

ぎれとぎれの意識の中で喇叭が最後に観たのは視界の中に回り続けるたくさんの雛菊であった。

き声が、、鶏だろうかなどと思い目覚めてみると、その者はまぎれもなく河童である。ったい河童が喇叭となった夢を見たのか、それとも喇叭が河童となった夢を見ているのだろうか。童と喇叭にはきっと区別があるのだろうがそれがどうしたと言うのだ。んうんうなって考えたところでそこに共通するのは音の響きだけ。っときの、その思いつきだけでこの文をしたためたというのか、あの男は。

クでもない、どうしようも無い奴、という河童のため息は時を経る間に消えてしまい、この話がどのように残るのか散らばっていくのか誰が知るともない。き世はいつしか流れていき、それもこれも昔の物語。


赤ずきんちゃんオーバードライブ」40000ヒット記念に開催された「おはなし雑文企画 」参加作品である。掲示板において募集された縛りから最終的に選定されたのは

1.登場キャラクター5人限定で、昔話や童話のパロディ。

2.「むかしむかし」で始まり、「それから長い年月が」をあいだにはさみ、「めでたしめでたし」で終わる。

3.あなたの地元について文頭作文。

これに対する回答は

1.その者、ウサギ、クラリネット、フルート、あの男の5人を登場させ、古典の中の寓話をなぞる

2.については、語の指定がなかった「めでたしめでたし」のかわりに昔話らしい(と自分に言い聞かせた)結語を。

3.についてはかなり苦しいのだが

「蒸し羊羹とそっくり、てぇなこぉと無いか ういろう」

とした。今は横浜に住み渋谷に通勤する私だが、未だ地元と言えば名古屋と答える。そして青柳、それに大須ういろうをかなり愛しているのでもある。蒸し羊羹と同一視するなど許容されるべき事柄ではない。

と書き上げたもののやましいことは二つある。一つは荘子の中の有名な寓話(しかも二つを適当にくっつけたもの)をはたして「昔話、童話」としてよいものかどうか。もう一つは

「句点で区切られた一文の頭の文字を拾ってできる短い文章で、地元の名産品でも土地柄でも有名人でもなんでもいいから、それについて語ってください」と

いう縛りを文字通り解釈し、つぶやきを一部文頭作文の対象外にしていることである。

正直言えばこれはかなり心に曇りを感じる点である。だから控えめに参加することとした。

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注釈