WiiとiPhoneに関する 考察

two battles2006年の暮れから2007年の初めにかけて、消 費者の財布と時間をめぐる興味深い二つの戦いがありました。ひとつは11月に相次いで発表された次世代ゲーム機、PS3とWiiの年末商戦(日本での事情 しかとりあげないのでXBOX360は除きます)
もうひとつは米国で開催された二つの展示会-CESとMac World Expoです。
Wiiまず次世代ゲーム機の年末商戦から説明します。ここで主 役となったWiiとPS3は全く異なったアピールの仕方をしました。
任天堂岩田社長が行ったプレゼンのあるスライドには
「Wii のある新しい生活」
という文字がならんでいます。ハードやソフトではなく「生活」をアピールしているわけです。またCM等ではゲーム の画面より、それを楽しげにプレイしている人たちを写しました。
ps3それと対照的だったのがPS3です。「はじめての PS3」というサイトの「できること」というボタンをクリックするとこのような画面がでてきます。並んでいる文字を読むと「Cell, RSX, HDTV,BDドライブ,HDDドライブ、ネットワーク対応」などなど。PS3がいかに「すばらしいハード」であるかを強調して言います。
結果このように大変対照的なアピールをされた両機種 でしたが、年末商戦では明暗がはっきりしました。
今(07年1月23日)でも多くの家電量販店でこのような光景を見ることができ ます。PS3は入荷しており在庫も存在する。しかしWiiとDSは完売で次回入荷も未定。

もちろんこれは 2006年末の状況であり、もう少し長い目で見たときにどちらが勝者になるかは誰にもわかりません。しかし両機種がそろった最初の年末商戦を制したのは Wiiでした。

もちろんソニーもこうした状況を野放しにしていたわけではなく、年が明けてからしばらくたって (1月16日)「国内生産出荷台数100万台達成」なるニュースリリースをだしました。しかしここで使われている「生産出荷台数」という「農業などの第一 次産業で使われていたが、近年ソニーも使用している」(Wikipediaよ り)指標も含めどちらかといえば笑いのネタとなったような印象を受けます。(参 考

CESvsMacWordさて、それではもうひとつの興味深い戦いを見てみま しょう。1月になってLas VegasでCESなる展示会が行われました。出展社数は2700にのぼり、技術的に売りとなるべきキーワードには事欠きません。

少 し遅れて(日程は重なっていますが)San FransiscoではMac World Expoが行われました。こちらの出展社数は400となっていますが、実質的にApple1社+399社と考えてもいいでしょう。

さ てCESの基調講演は7日にBill Gatesが行いました。その二日後、Apple CEOのSteve Jobsが基調講演を行いました。(この二つの公演はいずれもオンラインで見ることができます)
TheDay..そ してこの日はあるブログのタイトルを引用すれば
全世界の家電メーカーが力を 合わせてもApple1社に勝てなかった日」となったのです。
TheDay..なぜそう なったのでしょう?CESでは何が行われたのか?ここでは、日 経ビジネスオンラインの記事から引用しましょう。
 
「IT(情報技術)が変える私たちの生活の未来を見てもらい たいと思います」。終盤になってゲイツ会長が発した言葉に観客は固唾をのんだが、米シアトル の本社に4年以上前から展示してあるIT化された住宅での生活の様子を実演しただけ。後半には席を立つ参加者も続出したほどだった。

ま た盛り上がりにかけたCESに関して、松下電器の幹部は次のように驚くほど率直に語っています。

「技術革新が消 費者ニーズを追い越してしまった。結局のところ、勝ち組は、最先端の技術を使わず、消費者のニーズをソフトや使いやすさで汲み取った米アップルコンピュー タと任天堂だけだった」
TheDay..こ こでこの松下電器の幹部が語っていることは、(おそらく意識しているのでしょうが)イノベーションのジレンマに絵に描いたように家電メーカーがはまったこ とを示しています。

この図はLife is Beautifulか ら引用したものです。黒い線がCustomerの要求。これに対して、「顧客の声に耳を傾ける」メーカーは声のでかいパワーユーザの声ばかり聞いているう ちに、Customerの要求ラインを飛び越した性能を持った製品を作ってしまう。そして機能的にははるかに劣るが小さかったり安価だったりする製品に市 場を奪われてしまうことを示しています。

左側の図がゲーム機に関して書いた図。果たしてPS3, XBOX360の処理能力は必要なものだったのか?

右側の図が「映像記録メディア」に関するものです。


iPhone一方 San FransiscoのMac World ExpoではiPhoneが発表されました。(発表されたのはiPhoneだけではありませんでしたが)

この情 報機器はそれから賛否両方を含めて大きな話題をさらうことになりました。そしてそれが意味するものについてもいろいろな意見があります。

そ の中で私が一番印象に残ったものはこ の文章です。日本人の中にはこのNuclear Warという言葉に拒否反応を示す人もいると思いますし、私もそうした感情を共有しています。しかしそうした点を差し引いてもこれは的確な比喩だと思いま す。その理由については後述します。

さて、iPhoneは多くの人に「買いたい」と思わせるものでしたが、大変 「ケチのつけやすい」製品でもあります。その理由についても後述しますが、まずはその「批判」に耳を傾けましょう。
criticメール のヘビーユーザが多い日本でまず聞こえてきたのは、文字入力の想定される不便さに対する批判でした。タッチスクリーンはフィードバックがないため、文字入 力がしにくい。

したがってメールが携帯電話の主な用途である日本では受け入れられないだろう、というものです。 また「高度な携帯」全盛の日本では絵文字がないとだめ、GPSは便利だからこれがないものは考えられない。ゲームがない、といった批判もなされました。

ま た「何も新しいものはない。こんなものすぐほかのメーカーが真似するだろう」というコメントもありました。

ここ で指摘された点はいずれももっともなものです。確かに日本市場にiPhoneが登場する際にその普及の妨げになるかもしれません。

私 は将来について正確な見通しを持てるという自信を持ったことはほとんどありません。ここではこれらの批判に対して私が注目しているいくつかの事実について 述べます。
Factsま ず「○○で成功したものはない」という言葉に対しては私は反射的に身構えます。もっと正直に言えばスルーします。そういう批判は初代iMacが発表された ときに「ディスプレイ一体型のPCで成功したものはない」という形で散々聞かされたからです。それは正しいかもしれないし、正しくないかもしれない。しか し過去に成功例がないという事実は将来の成功を否定する証拠にはならないと考えています。

次にAppleが iPhoneで使っているタッチパネルはあ る記事を信じればAppleがiPhoneの登場より前に独自に開発したものです。その使用感についてはいずれ明らかになるでしょう。

ま たこれは私の想像ですが、POBoxを開発した増井氏がAppleに転職したのはこのiPhoneの日本語入力ソフトを開発するためだったのではなかろう かと。真相はわれわれにはわかりませんが、英語版の文字入力を見ただけでも文字入力ソフトにもかなり注力していることが見て取れます。

ま た2008年のAppleのシェア目標が1%であることを考えれば、「万人を満足させる」携帯を目指していない、と考えることもできます。私の個人的な願 望としては「絵文字が打ち込めない」という理由で購入を控える人が多く出たほうが私の手に入りやすいのではないかと。

ま た最後の「こんなのすぐできる。」という点については二つの点を指摘しておきたいと思います。
Comparisonコ ピーはお手の物と言われ続けた日本メーカーに果たしてiPhoneが作れるでしょうか?これに関して書かれたすばらしいブログがあります。ここに 書かれていることを全文引用したいくらいですが、さすがにそれははばかられます。ここでは要約で説明します。

仮 に日本企業に勤めるデザイナーがiPhoneを提案したらどうなるか、という思考実験をされています。いろいろな部署がそれぞれの立場から製品に備えられ るべき要求を出してきます。カバーをつけろ、カメラを強調してくれ、ねじは汎用品にしろ等。そしてその「衆知」をデザイナーが高い次元でまとめあげる。

す ると何ができるか?ここにあるCLIEのような製品ができあがります。確かに持っている機能はiPhoneと同等かもしれない。各部署の意見も的確に反映 されているかもしれない。しかし製品としてみたときどちらが消費者に「買いたい!」と思わせるでしょう?

衆知を 集めることは確かに重要で「やるべきこと」「やらなければならないこと」を洗い出すことができます。しかしそうした方法で絶対にできないのが「やらないこ と決める」ことです。「やらないことを決める」ことは前述のように「ケチをつけやすい」ことにもつながる。しかしそうでなければ美しい製品はできない。私の考えではWiiとiPhoneが見事な製品であるのにはある共通した理由があります。
Winnersそ れは任天堂、Apple両者に明確なビジョンを持ちそれを製品に反映さえるだけの力量をもったトップがいることです。

彼 らは二人ともプレゼンが巧みなことでも知られています。
これは彼らが持っているビジョンの明確さ、それを社内に浸透させ、製品の方向 性を決め、「やらないことを決める」力と無関係だとは思えません。

彼らのプレゼンをオンラインで見るたび、私は 言葉に力がこもっているのを感じます。そして商業的な成功は別として彼らが自分が語っている製品を愛し、そのよさをわかってもらいたい、という気持ちが伝 わってきます。
Loosersそ の対極にいるのがかつては時代の寵児だった企業のトップたるこの人たちです。これは大変有名な写真で、復活の象徴としてウォークマンを持って見せたところ まではよかったのですが、3人中二人が上下逆さまに持っています。

彼らは本当にこの製品に愛と自信を持っている のでしょうか?それが聞き手に伝わるでしょうか?

ではこの会社に「ビジョンを持ちそれを製品に反映させることが できるトップ」がいないか、といえばそんなことはありません。SCE会長は彼なりのビジョンを語り、そしてPS3を作り上げました。

問 題は彼の語るビジョンが決定的にひずんでいること。そのビジョンを一言で言えば「処理能力さえ上がればこの世はばら色」というものです。こうした「ビジョン」が効果的に 働く局面もあります。先ほどの「イノベーションのジレンマ」で性能が消費者の要望より下にある間は。しかし(ソニーにとっては)不幸なことにPS3でその 「ビジョン」は破綻したのです。
questionさ て、ここで質問をしてみましょう。
確かにiPhoneは見た目に面白いけど、それが組み込み部品メーカーに何の関係があるの?という 質問をしてみます。

Appleの強みはデザインとイメージ作りと、パッケージングでしょ。消費者に直接届く製品 を作っている会社には関係あるけど、OEMでカーナビ作ってるメーカーに何か関係あるのかな。。

この質問に対す る私の「最初の」答えは「関係大有り」です。ではなぜそう思うかについて説明します。そしてそれは「すぐ作れる?」という問いに対する二つ目の回答でもあ ります。
これまでこれま で「PCの世界」と「組み込み、携帯端末の世界」は別物だ、とメーカー側は思っていました。(わざと混同させるように宣伝することはありましたが) VistaやMac OS Xで新しい提案がなされたとしても

「組み込みは違うからね」

と いった態度で携帯端末は独自の道を歩んでいたのです。消費電力の要求とか制限されたUIとか電磁干渉の問題とかいろいろあるからねえ、、
これからしかし AppleはiPhoneでその「言い訳」を過去のものにしました。どの程度機能を絞っているかわかりませんが、OS Xを搭載携帯電話に搭載したのです。PCと組み込みは違う、という垣根を吹っ飛ばしてしまったのです。

たとえば iPhone上のOS XにはCore animationというアニメーション関連のAPIが搭載されています。今のカーナビでアニメーションをどうやって実現しているかを知っている身(基本 的にすべて一から作りこみです)としては、こうした機能が「OS」として再利用可能な形で提供されることに驚きを感じずにはいられません。

あ る記事にはこうあります。私も全く同感です。

「PalmもWindows Mobileも“PDA”の文化であるのはご存じのとおりだ。どちらもこれから十分に市場を取っていく有望なプラットフォームだし、当面はこちらが主流な のも変わらないだろう。しかし、iPhoneは別モノなのだ。つまり、“PDA”ではなくて“コンピュータ”(というよりもMacintosh)なのであ る。」

Jobsは「いかなる携帯よりも5年は進んでいる」と言いました。見掛けはそうかもしれません。しかし 「作り」の面からみて5年後に追いつくことができるでしょうか?
比較その1iPhone はこれまで比較的平和だった組み込み携帯端末の世界に「比較対象」として登場してきました。試みに「経常利益一兆円企業」トヨタが提供しているカーナビと比較してみましょう。

iPhoneは07年6月に発売され、価格は$499.日本円で約6万円でしょう か。

それに対してトヨタのあるナビの画面には「和の心」が満ち溢れています。和服をきた美しいエージェントが丁 寧な言葉でユーザに質問をしてくれる。リストやスクロールバーもトヨタ独自の仕様です。(ここ数年変化がありませんが)そして価格は¥321,300。も ちろんGPSやそのほかもろもろの機能があることを考えれば比較するのが間違っている、とメーカーは言うかもしれません。そうした「大人の事情」を考慮し ないユーザはこう聞くかもしれません。

「5倍も高くてこの画面?」

Imageそれぞれを イメージであらわすとiPhoneはシンプルでかっこいい男性のよう。一方「和の心」あふれるトヨタナビは「桃太郎侍」でしょうか。

桃 太郎侍のどこが悪い、と言われればどこも悪くありません。しかし組み込み、携帯端末メーカーはいつまでも桃太郎侍を作り続けるのでしょうか?

iPhone は刀や槍で戦いをしているところにいきなり投下された核爆弾のようなものです。その製品としての魅力とOS Xを組み込みの世界に持ち込むという「次元の違う作り」によって。
再び聞きますしかしカーナビを作っている人達はこの問いに 対して依然として「関係ない」と答えるでしょう。彼らは彼らの世界でちょんまげを結ったまま生きていくのです。

そ の彼らにではなく、これを読んでくれた人に向け、最後に再 び前述のブログか ら引用します。
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言葉がない、というかグゥの音もでない。誰が何といおうと、完敗である。家電メーカー の中の人達が一番良くわかっていることだろう。ポー タブルの動画・音楽プレイヤー、デジカメ、ビデオカ メラ、携帯電話PDA、カーマルチメディア、これら全ての機器群を担当する家電メーカー社員にとって、今日は眠れない夜になるはず だ。当分の間「今 君たちが開発してる機器、それってiPhoneが普 及しても売れるの?」という上層部からの責めを嬉しく思うMっ気のある人を除いては。
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あ るいはこのブログの内容にも私は深く賛同します。

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