日付:2001/3/26
私は暇だったのである。そして季節は春になり、とても快適な気候となっていたのである。これが真冬であれば喜んで一日中寝転がっているところであるが、こんな快適な日に寝ているとどうも気が滅入っていけない。何かしなくては。土曜日はいつも通勤電車の窓から観ていて「あの巨大な寺院は一体なんなのか」と思っていたところにいってみた。最初はなにやらあやしげな新興宗教かと思っていたのだが、曹洞宗とやらの総持寺という由緒正しいお寺だった。近づくにつれ、その建物の巨大さに驚く。一番メインと思われる建物に入る。畳敷きの広間が広がっており、はるかかなたにはあれこれのものがある。何かはさっぱりわからないが、想像だけは広がる。誰かの名前を書いたものではなかろうか。おそらく収めた金に応じてあそこに名前が乗るのだろうが、本当に自分の名前が書いてあるかどうかなんて誰にも解る物か。そんなことを思っていると坊主頭の青年が一人歩いてくる。その足つきはなんだか妙であり、ひょっとすると畳のヘリをふまない、とかそういうルールでもあるかと思えば平気で踏んで歩いている。すすすすすと歩き手をあげる。その姿は体操の床運動を彷彿とさせ、そのうち宙返りでもしてくれるかと思ったが、対角線上に端まで歩いていってもそのままである。
しばらく椅子に座ってその光景を眺める。目の前には賽銭箱がおいてある。そこに書いているのは「浄財」とかいう言葉だ。ここに金を放り込むとそれが浄められるということか。あの坊主頭の生活費になるとお金はきれいになるのか。私は普段はあまり細かい事を言わずに金を放り込むのだが、どうにも気がそげてしまってただ眺めただけであった。
その後寺の中をふらふら歩く。墓場があり、そこに「裕ちゃんの墓」なる看板と矢印がついている。石原裕次郎の骨がここにあるのだろうかと思いしばらく歩いてみるが見つからない。ふと気がつくと比較的新しい墓石にずいぶんとたくさんの名前が彫ってある。しばらく立って見つめる。どうやらテニアン島を永住の地と定めた一家が米軍の侵攻により一気に亡くなってしまったらしい。7人の子供。両親それに祖父母が同日に亡くなっている。
さらに歩くと後醍醐天皇のなんとか、という場所がある。さらに歩いていくと大きな菊の御紋章がついた門がある。天皇は神さまなのだが、とりあえず寺にいる。何か理由があるのだろうがそんな細かい事は言わないのが日本のいいところだ。
さて、日曜日である。この日も暇である。しかし何をやるかはなんとなく決めていた。昨日寺から出た後、インターネット喫茶であれこれのサイトをあさってみた。元はといえば「何でこんな場所に巨大な寺があるのか」を調べようと思ったのである。そこからどう話がずれたのか気がついたら日本にあまた存在している「秘宝館」なるものの情報をあさっていた。思えば今をさること20年前、大学の入試が終わってから合格発表の間に行った四国の宇和島で観たのが初めての「秘宝館」であったか。「未成年お断り」だったのだが当時私は18だった。ばれないだろうかとどきどきしながら入場券を買ったことを思い出す。正規の入場料は結構高かったのだが、年がら年中「特別割引」だった。思うにそこは結構な偏屈物が経営していたのではなかろうか。
さて、そんなことを考えながらサイトを渡り歩く。あるサイトでは全国にあまた存在している秘宝館の点数付けがしてある。そこで100点がついているのが熱海秘宝館だ。熱海と言えば、ここから割と近く。ちょっと行ってみるか。
というわけで新幹線さ乗って熱海についてみたわけだ。これは一体なんなのか、と思うくらい人がたくさんいる。さて、と思い駅にある地図を観ると秘宝館がちゃんと乗っている。どうやら熱海城の近くでここから結構ありそうだから、タクシーでも乗ろうかとふと考えたがタクシー乗り場には長い長い列ができている。しょうがない歩いてみるか。
そう思い熱海城とおぼしき方向に歩き出す。なぜだかずっと下り坂である。適当に歩いているので結構裏道のような所を通る。基本的にはホテル街の谷間の道だ。先日NHKで「熱海のホテルに廃業するものが相次いでいる」とかいう番組を見た。こうして歩いてみると確かにそのとおりだ。ビルの屋上に大きな看板があるのだが、その文字はもう消えていたり、あるいは半分廃墟となっていたり。通っていたのが裏通りだから、はやらないのだろうかと思っていたがメインの通りに面し、海がよく見えるような場所でもつぶれたところがある。朝だからなんとも思わないが、夜にここを通ったりするとお化け屋敷以上に恐ろしいかもしれない。
さて、そんなことを考えていると熱海城が前方に見えてきた。麓に大きく「秘宝館」と書いた看板が見える。そこが秘宝館かと思えばそこはロープウェーの乗り場で、チケット売場に行けばちゃんと
「ロープウェー往復+秘宝館入場券セット」
を売っている。まだ朝の10時半だからひょっとするとまだ営業していないのではなかろうか、と思っていたのだがチケット売場にはおじさんの団体がパンフレットなど観ながら楽しそうに話している。
そのおじさん達を観ると○○重工で働いていたとき、労働組合でご一緒したおじさん達を思い出す。なんかの大会で温泉街に行ったとき、一緒にあやしげな踊り子さんのいるところとかに行ったなあ。きっとこのおじさんたちも会社の慰安旅行とか何かの団体なのではなかろうか。秘宝館といえば確かにこうしたおじさん達が行くようなところかもしれない。
さて、そんなことを考えながらロープウェーで上に上がる。降りるとそこは結構な展望台だ。「TVでおなじみの米に何かを書くなんとか」という誰もしらないおじさんが実演をやっている。そんなのは気にせず歩いていく。展望台があり、そこから観る熱海はとにかく隙間という隙間にビルが建っている。ホテルだかマンションだから知らないのだがとにかく人が住むような建物だ。こんだけ立っていてはつまるところ供給過剰なのではなかろうか。廃業続出も宜なるかなと思う。
さて、目指す秘宝館は3階とのこと。階段をしこたま上ると入り口に着く。いきなり入場券売場に長い列ができていて驚く。さらに私の前には男女混合の団体がいて驚く。最初に観たのはおそら私より10以上年上の女性達だったが、どうみても20代と思える男女混合の団体も存在している。
さて、このサイトの品位を保つため、あまり細かい記述はしない。私がここで書きたいのは、女性客の反応である。あるコーナーでは「3D画像」とかいって壁に明いた穴から中を観るとくだらない数十秒のストーリーが見えるようになっている。実にくだらないのだが、男は馬鹿だから次のストーリーのタイトルが見えると
「ひょっとすると次はスケベで面白いのではないか」
とまた壁にへばりついてみてしまう。その点女性は厳しい。「くだらないわ」といって同じグループの男性が動き出すのを待っている。その女性の前に腰をかがめ尻をつきだして壁を除いている男性の列は結構間抜けだ。
またあるコーナーでは亀にのった浦島太郎は実は女性だったという寸劇のようなもの(でてくるのは人形だが)が演じられる。そのあと延々と女性同士のちょっとエロチックなシーン(こちらは実写)が続く。私はある男女いりまじった団体と観ていた。彼らは見たところ20代。目の前で演じられるシーンは女性同士だし、身体的な接触はほとんどない。しかしやはり同じグループの視線など意識して恥ずかしいのだろうか
「なんだかちょっとお化粧が古くない」
「こんな仕事いやよね」
「こんな馬鹿馬鹿しいこと考えること自体おもしろいわよね」
「朝からみるもんじゃないわ」
とか照れ隠しの女性の声高な発言が相次ぐ。そうした発言が2巡位し、ネタがつきたところで幸いにして場面が転換。再び人形がでてくる。行きには浦島太郎がまたがる亀の首がちゃんと立っていたのが、帰りの亀の首は中折れである。女性が一人
「あれ亀の首がまがってる。どうしてぇー?」
と心からの疑問を発する。ええい、小娘。君にはこの落ちがわからんのか、それとも見え透いたかまととぶりはやめんか、と同行していた男性は心の中でつっこんだにちがいないのだが、誰も口に出してはいない。
さて、そうこうしているともう出口である。ここはかように男女が明るくきゃらきゃらいいながら回るような場所なのだなと思う。出口近くに二つ部屋があり、一つの部屋の中では一寸法師がお姫様相手に一生懸命頑張る、というやつをやっている。こちらには人がいるのだが、もう一つの部屋、すなわち普通のエロビデオを流している部屋には人がいない。面白い落ちでもあるかと思いしばらく観ていたがこんな部屋に中年男性が一人座っている光景というのは鬼気迫る物であろう、と思い出ることにした。
ロープウェーで折ながら考える。なんだこれは。これが100点の秘宝館ならあとの秘宝館はどんなものだ。俺はこんなものを観るためにわざわざ熱海まで来たのか。しかしここまで来る途中にもう一カ所訪問すべき場所をみつけていた。なぜか中年のおばさんがパンツを見せている(ロープウェーの中で一緒になった子供は「尻見せおばさん」と言っていたが)看板がそこら中に張り出されている「奇妙な町一丁目」である。
ロープウェーを降りてそちらの方にとぼとぼと歩いていく。しかしそのうち妙な事に気がつく。向こうから歩いてくるのは家族連れではないか。この先にあるのは秘宝館系のお色気系統ではないのか。
さて入り口に着くと、いきなり立っているのは中国兵馬俑のおじさんを彩色したような人形2体セットである。その後ろには壁からティラノサウウルが首をつきだしている。母親が娘の顔をその口につっこんで記念写真を撮ろうとしている。なんなだこれは。
とにかく入場券を買って入る。いきなりでてくるのがちょっと古い時代の街並みだ。床屋があり、TVでは白黒の映像が映っている。それはいいのだが、なぜか床屋で髪を切る方も切られる方も立ったままだ。
これはなんだろうと思うととにかくしばらくそうした街並みが続く。三畳一間の茶の間にはおやじが新聞を読んでいる。星一徹がひっくり返してやまなかったちゃぶ台もあり、家族連れの親父が子供に「あれはちゃぶ台って言うんだよ」と説明している。
なるほど、ここはレトロな街並みの再現なのか、と思えば急に広いところにでる。そこにはメリーゴーランドがあるのだが、乗っているのは全く脈絡のない衣装をきたマネキンの類だ。いったいここはなんなのか。
あるコーナーにはひたすらフィギュア人形のたぐいが展示されている。別のコーナーにはマニアが集めるであろう何かの人形が展示されている。しばらく歩いていくと今度は昆虫の標本が展示されており懐かしの昆虫館のようだ。さらに歩いていくと今度は真面目な「人類の進化」のような説明とともにアウステラロなんとか、とかゴリラとかの頭蓋骨とそれが進化の上でどのように分岐してきたかの説明が書いてある。なるほど、真面目な展示かと思えばクロマニヨン人の斜め上にあるのが「エイリアン(あの映画に出てくるやつ)の頭骨」である辺りがどうも真面目なのか狂っているのかわからなくなるのだが。
しかしなんだか面白いことは間違いない。昭和20年以降のファッションをならべたマネキンが立っているコーナーがあるがそこは若い女性にも人気だ。昔の巨大サングラスとかパンタロンルックなど「あらかわいいじゃない」とかなんとか言いながら観ている。
別のコーナーでは牛だかなんだかに「美少女」がまたがっているということになっているのだが、その美少女はやたらと顔が横に長い。隣には亀がおり、その亀の背中が割れて女性が出てくる。それが普通の女性ではなく、腹がでて顔が前後に長くStar Warsにでてくる異星人を彷彿とさせるような容貌だ。歩きながら考える。オタクの頭の中を展示して見せ物になるとこんな形なのだろうか。脈絡がなく妙に凝っておりそれぞれの展示は真面目なのだがでたらめであることに違いはない。出口近くには吉本興業の売店がある。となるとここは吉本経営なのだろうか。とにかく謎に満ちている。まあPerformance/Price ratioが秘宝館よりいいのは確かだ。
ふらふらと出ると「バスがでております」とかいうアナウンスが聞こえてくる。どうやら目の前にある遊覧船の船着き場から熱海駅行きのバスがあるらしい。行きは下りだったが帰りは長い長いのぼりのなるはずだ。急いで歩くとなんとか間に合った。
バスはやはりらくちんだ。外を眺めがらぼんやりとする。バス通り沿いであってもいくつかのホテルは閉鎖されており、中には建物自体を壊しつつあるところもある。その光景を見ながら考える。この熱海というのはつまるところなんなのか。やたら滅多ら人がいる。新しく豪華なホテルと廃墟が渾然一体となって建っており、秘宝館がありわけのわからない施設がある。おそらく熱海観光協会が意図したところではないだろうが、異様な印象を与える場所になっていることだけは確かだ。
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注釈