題名:オウム真理教が攻撃された日

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日付:1997/12/30


オウム真理教が攻撃された日

1995年の3月22日といってもほとんどの人は覚えていないだろう。私もなにも覚えていない。たった3年ほど前のことなのに人の記憶が薄れるのは早いものだ。。私はこの日の中日新聞の夕刊をとっておいた。

このころオウム真理教と日本政府の間の戦いが行われていた時期だった。もっとも正直なところ皆それほど戦いの片方の相手に自信があったわけではない。。。いまでこそオウム真理教が極悪の犯罪者集団と化していたことは知っている。(あるいは知っていたが忘れてしまっている)

地下鉄であるとか公共の人が集まる場所に毒ガスをまく。。。毒ガスを手に入れるのはそんなに難しいことではない。人があつまる場所にそれを持ち込むのもそんなに難しいことではない。しかし未だかってこのような犯罪を実際に実行に移した個人あるいは団体はいない。

いかな犯罪者あるいはテロリスト集団であってもある程度その犯罪の目的を考慮して、どんな手段でもとっているわけではない、ということをこの事実は示唆しているように思える。

公共の場所に毒ガスをまけば確かに多数の人間を殺傷することができる。。。しかしその結果としてなにを得るのだろう?そしてなにを失うのだろう?世界各国にあまたいる犯罪者及び集団は(これも一種驚くべきことだが)このトレードオフを考慮して未だかってこのような犯罪を行わなかった。

しかしその恐るべき犯罪が行われた。日本の真ん中でだ。私はこの日たまたま風邪をひいて寝ていた。そしてその日一日の報道がどのようだったかを覚えている。

そしてこの日の捜査は日本政府の反撃だった。その表向きの理由は全く別の容疑だったが。。。

おそらく私の知らないところではこの捜査の合法性についての論議も行われていたのだろう。

専門的な論議は別として、それからオウムの捜査が進むに従って彼らに対して肩を持つような、あるいは慎重であろうとする論調は世の中から基本的には消えていった。

傍目で見ていても彼らが何らかの形で関与していることは明白であった。しかしその日に中日新聞がどのように報道したかは記憶しておく価値がある。

新聞は事実を報道するのが使命だと聞いている。Detroitでよく見たTVニュースのキャッチフレーズは"We report, You decide"であった。

その日の夕刊も一見事実を報道しているようだった。しかしながら「識者の意見」欄に新聞社の「意図」が明白に現れていた。

あたりまえのことであるが、新聞社はいかなる意見を持った「識者」でも選択することができる。(たいていの場合世の中にはありとあらゆる意見をもった権威がいる。。その意見が世の中でもてはやされているかどうかは別問題であるが)

従って「識者」の意見がある一定の方向を示していればそれはそれを「選択、掲載」した新聞社の意見と見なしても間違いないであろう。

(以下中日新聞1995年3月22日夕刊より引用)

結びつきでるか疑問:推理作家小林久三氏の話

坂本事件やサリン事件などオウム真理教の名がとりざたされた事件のほとんどが未解決で、今回の強制捜査は警察が威信をかけて動いたのだろう。が、どこまで個々の事件とオウムとの直接的な結びつきがでてくるのか疑問が残る。私自身、坂本さん失踪事件を6年間おっかけているが、オウムかどうかという点では疑問を持っている。怪しげな事件が起きる度に、オウムの名が取りざたされてきたが、疑いがあるのと犯人であるというのは違う次元。宗教的対立の中でのオウムつぶしという見方もできるのではないか。冷静に見ていかないと危険だと思う。

 

「サリン」念願の捜索:板倉宏日大教授(刑法)の話

オウム真理教に対する今回の一斉捜索は、全国25カ所にも及んでおり、地下鉄サリン殺傷事件を念頭に置いているとしか思えない。捜査方法を見ても、機動隊員まで動員、警官も防毒マスクで”完全武装”している。東京での拉致事件に関する監禁容疑での捜索としてはやりすぎだが、警察当局は「サリン」解明にまで発展させようとしているのは間違いないと思う。

 

教祖不在が影響も:島田裕巳日本女子大助教授

オウム真理教の修行や出家による共同生活という独特のシステムは外部にわかりにくい。麻原教祖は体調が悪いので、最近、表にでていない。教祖の不在が組織に影響を与えていることも考えられる。

 

証拠のない宗教弾圧:宗教の自由を守る立場の中京大学社会学部の池田昭教授(宗教社会学専攻)

警察は熊本県・波野村のオウム真理教施設でもでっち上げの捜査をしており、今回の一斉捜索も証拠、裏取りのない茶番劇だ。サリンの残留物質が検出されたと言うが、製造方法は専門書に掲載されており、大学院生なら十分に作れる。しかも製造装置が発見されていないでしょう。警察は幻想的な新宗教は悪の集団と見るケースがあり、宗教の弾圧だ。

 

捜査に懐疑的(実質的には反対か)1,冷静な分析1,わけがわからないがオウムに同情的な意見1,それに強硬な反対意見1である。

当然のことながら新聞社はこういう論調の「識者の意見」を掲載したことは全く忘れてしまったかのようだ。そうだとも彼らには立派な理由がある「その問題に詳しい方に意見を求めたところ帰ってきた返答を公正に報道した」だけなのだからなんの問題があるのだろう?

あるいは義務、責任を無視して「自由」を主張する仲間として宗教法人とマスコミは仲がいいのかもしれない。「宗教の自由」「報道の自由」このお題目さえあればなんでもできると思う人たち。「自由」は「義務」と必ず一緒にいるはずだが、彼らは何に対して義務を負っているのだろう?

私のような部外者が意図を憶測すれば。。。おそらくその場でまだ決定的なことを書くわけには行かない。もしはずれていればそれからオウム真理教との関係が悪くなる。だからまああたらずさわらずで、ちょっと「権威に反抗する」態度を見せておこう、とでも思ったのではなかろうか。(当然のことながら新聞社は後にオウム批判のジャーナリストで有名を馳せた方々に意見を求めることもできたはずだ)

新聞社はこうしてなんの問題もなく生き延びる。気の毒なのはここで意見を表明してしまった「識者」の方々である。日本女子大の助教授氏はその後オウムとの関連でとても有名になる。中京大学の教授氏はその後どうしたのだろう。中京大学は全国で知名度が高いわけではない。だから彼の言動がその後全国規模でとりあげられることもなかった。そして3年たった今彼の言動を覚えている人も少なくなり、彼はまた大学で自信満々教壇に立っているのだろうか?あるいは自分の言動に対して多少は反省することがあったのだろうか

ここで一点強調しておこう。私は某教授の意見が最終的に全く間違っていたから反省するべきだと言っているのではない。あの時点までで一般の人の手にはいる情報を某教授も当然利用するべきであった、という前提のもとで、彼が公共性のあるメディア上でああいうコメントをしたことがはたして妥当なことだったかどうか?と言っているのだ。(そう考えると某女子大の助教授氏のコメントは、それなりに筋が通っているように思えてくるから不思議だ)

畏れを知らず人に頭を下げず。教授職の人がもし自分の言動を反省したすれば私が「先生」と名が付く人たちに抱いている偏見を解消する助けになるのであるが。

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注釈

オウム真理教(トピック一覧へ:彼らが最初に参議院選挙にでてきて、妙な歌をうたって踊っていたときに私はただギャグかなにかだと思って笑っていた。そしておそらくは多くのひとがそうだったのだと思う。戻る

 

中日新聞(参考文献へ:東海地区のローカル新聞であるが不思議なことに東京新聞として関東地方にも進出している。ちなみに某在名古屋球団の親会社でもある。戻る

 

このような犯罪:某欧米の評論家が「今回日本で起こった犯罪は起こってはならない犯罪なのです」と言っていたのが印象的だった。あまり日本でこういう意見は聞かなかったか。戻る

 

合法性の論議:どなたか適当なホームページをご存じの方は教えてください戻る

 

We report, You decideトピック一覧):不思議なことにこのようなキャッチフレーズを日本で聞いたことがない。日本のTVステーションのキャッチフレーズは「おうちに帰ろう」だとか意味不明のEmotionalなフレーズばかりである 本文に戻る

 

推理作家小林久三氏の話:どうして推理作家が識者なのだろう?彼の仕事は小説を書くことであって、実際の事件をおいかけることではないはずだが?なぜ日本のマスコミ(あるいはそれを見ている人たちも?)はアマチュア、部外者を尊重するのだろう?戻る

 

オウムかどうかという点では疑問を持っている:推理作家殿。まことにお気の毒でした。しかし彼はその後自分の「間違った推論」について何かコメントしたのだろうか? 本文に戻る

 

島田裕巳日本女子大助教授(トピック一覧へ):この人のコメントは全く意味が分からない。(麻原がいないから組織が悪いことをやっている、と言いたいのか?)あるいは自分の運命を悟ってわけのわからない逃げのコメントをしたのかもしれない。戻る

 

義務、責任を無視して「自由」を主張する仲間トピック一覧へ):彼らへの批判を、「自由への攻撃」にすり替える際の論法はとてもよく似ていないだろうか?自分を律することをせず、自由ばかりを主張するのは子供のやることだが、きっと彼らの世界には子供心をもった人がたくさんいるのだろう。本文に戻る

 

多少は反省:どなたかご存じの方は教えてください.。「宗教の自由を守る熱意」のあまり、思いっきりオウム真理教を必要以上に弁護してしまった彼の運命を。戻る