東北の夏祭り

日付:1999/8/8

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花笠祭り

目の前にいるのは年のいった男性の集団である。集団の先頭にはプラカードを持った人間がたっている。見れば「市議会」とある。なるほど。祭りの先頭は議員さん達か。

先ほどコンビニの前にたむろしていた高校生の集団は二人ずつの組になって、途中にはいっている。妙に派手な衣装をきているからあやしげなグループでも形成しているのかと思ったが、花笠祭りの進行に協力する感心な高校生だったようだ。

まだしばらく始まりそうにないので、そこらへんにいる観客や、出演者の皆様を観察する。観客のほうはみんな腰をおろしてリラックスしている。私のすぐ前にいるのは若い女性の二人連れだ。あれやこれやみながらこの人達はどうして今日来ているのかな、などと考える。前の二人は見たところ結構Attractiveなので、何故女性同士できているのだろう、とか、そこらへんに出没している浴衣すがたのカップルとかを眺めて「これはどちらがどちらを口説いたのだろう」と考えてみたりする。また家族連れもいたりする。

次に出演者を見てみる。議員さんたちは三々五々立ち話をしている。そのグループ形成の仕方からお互いの関係とか見て取れるかな、と思ったがそうもいかないようだ。支援者か親戚か家族かしらないが、観客の家族とにこやかに話している人もいる。或一人は透明のビニール袋を持ってそこらへんに落ちている空き缶を拾い集めていた。これがスタントプレーなのか、あるいは地道な活動なのかなんとも判断がしがたい。しかしなんともこれは市議会議員どのの行動とみればなんとなく納得できるという気がする。たとえばどんなに公共心に富んだ人であっても山笠祭りでおどりながらビニール袋をもって空き缶を集めないにちがいない。

さてそのうちアナウンスが始まった。その声ははるか彼方から響いてくる。ということはたぶん中央の席はあの人混みの彼方にあるのだろう。

アナウンスをしている人たちが何者かしれないが、あれやこれやとしゃべっている。最初はちょっと音楽を流した。すると反射的に路の上にいる出演者達が踊り出す。なるほどかのように踊るのであるか、と思ってはいるがまもなく音楽は終わった。出演者達は「なんだこれは」といった感じである。アナウンスは「さあ。みなさん踊り方をおぼえましたかー」とかやっている。どうも観客の乗りはわるいようで、今ひとつ盛り上がっていない様子がそのアナウンサーの声から聞き取れる。そのうち「一体何故彼らはこのようにだらだらとわけのわからないことをしゃべっているのだろう」と思ったが、そのうち彼らは必死に6時半までの時間をもたせているのだ、ということに気がついた。最初はちょっといらついたが、それに気がつくと一気にアナウンスをしている二人に親しみがわいた。盛り上がらない観客を前になんとか時間をもたせるためにしゃべっているのは、おそらく1分が1時間にも思える苦行であろう。

そのうち「外国からのお客様も出演してくださいます」と言った。と思ったらちょっと訛のある日本語が響いてきた。もっともこの女性が何者であるかすっかり忘れてしまった。ただ何年も参加している、と言っていたのは覚えている。

「あと一分です。。ではみなさんもご一緒にカウントダウンしましょう。」という言葉で盛り上がらないカウントダウンが始まった。この数字が0になった後かその前か覚えていないが、誰か偉い人の挨拶があった。いつものことながらしゃべっている人には全く気の毒なことだと思うが、この挨拶を誰が聞いているのだろうと思う。実際そこらへんで先ほどからFalse Alertに踊らされていた参加者達には「さっさと踊らせろ」という殺気が感じられるのは私の思い過ごしだったのだろうか?その後には英語のアナウンスが響いた。さっきの「外国からの参加者」が訳しているのだと思う。英語のアナウンスは短くてよかった。

さて、いよいよお祭りの始まりである。アナウンスは「陸上自衛隊の音楽隊のみなさんです」とか言っているがその音楽の片鱗すらもここでは聞くことができない。しかしそんなことはどうでもよい。目の前からは人が続々と歩いていく。そして時々横の通りからは車がはいってくる。車には太鼓が乗っていてどんどんと叩く。最初の車がまさに出発しようとするときふたりの女性が車の上に上がった。彼女たちは非常に丁寧に車の上にいる男性達に挨拶をしている。そしていきなり上の着物を脱ぐと太鼓を叩きだした。思うに彼女たちはプロフェッショナルの太鼓たたきなのだろうか?

さて太鼓の音に合わせて議員さんたちのお通りである。その後に続くのは山形市役所だ。一番先頭にちょっとちがった感じの浴衣をきた女子達、そのうしろにおじさんと女性職員と思われる方が続く。おじさんたちの顔を見ているといかにも役所だか会社の上役、という感じをしている。何がどうと言われてもこまるのだが、、、アナウンスを聞いていると助役とかなんとかいうタイトルが聞こえてくる。その助役殿達はふれふれと踊りながら歩いていく。

 

さて山形市役所といっても若い女の子の髪の毛は6割方茶色にそまっている。私にはあの髪の毛の色を染めることの価値が今ひとつわからないが、別に他人の髪の毛だから好きな色に染めればよろしい。その中にひとりだけ、浴衣だかはっぴだかを半分はだけた格好で着ている女の子が居た。よくよく考えてみれば車の上で太鼓を叩いている女性達は両方はだけていて、上半身はさらしだけなのだが、何故かこの半分だけはだけている女性はめだっていた。周りがみんなきちんと着ている人ばかりだったからだろうか。ふと彼女は普段もああやって目立っていて、ちょっとうるさ方から「目立ちたがり屋」とかなんとか目を付けられているのかな、とか思ったりする。

ふとみれば男性のおじさんの中にも髪を色々な色に染めている人たちもいる。お祭りってのはちょっと羽目を外したことができる場所でもあるに違いない。ちなみによく見ると男性でも顔を白く塗って頬紅とか口紅の類を塗ったひとがいる。そう考えてみると彼らが来ている浴衣もなんとなく女性の浴衣っぽい。ここらへんの所以についてはよくわからない。

さて、市役所の人たちを見るだけでかのように私はいろいろ考えて見ていた。無責任な見物人のすることだからまことに勝手な想像だが、こうした無害な想像というのもそんなに悪いものでもないだろう。こうした想像は学生の時ではできなかったものではないかと考えたりする。会社にはいってもうすぐ15年。人間関係とか楽しいことばかりではなかったが、以前とは違った物の見方(それが正しいかどうかは別として)もするようにはなったようだ。

同じお役所関係でいうと、この後「山形県庁花形愛好会」というのが通った。ちょっと不思議に思ったのは、山形市役所はそのままの名前で出席なのに、県庁のほうは「愛好会」がついていることだ。県庁といえば県全体をみなくてはならない立場だから全員出席というわけにいかない、ということだろうか。あるいは全員出席に反対する一派がいるとか、そういう理由があり愛好会としているのだろうか、などとまたもや妙な事を考える。そう思ってみると今ひとつ市役所の方々よりも元気がないようである。私の前に居た女性の二人連れは友達がこの県庁愛好会の中にいるようで、手をふって、写真などとっていた。

さて、その次にはミス山形だか花笠だかの女性達がのった車が続く。遠目にみただけだがこの女性たちが妙にきれいなので私はびっくりしてしまった。最初彼女たちはこうしたミスコンテストを専門的にやっている女性なのかな、と思った。いつかTVでやっていたがこうしたコンテストを求めて日本中を渡り歩いている女性がいるとかいないとか。ところが後日花笠祭りのホームページを見るとそうではないようである。彼女たちはれっきとした山形県出身、この近辺居住の女性なのであった。4人のうち3人までは大学生だ。考えてみればおうしたミス花笠という重要な役だから地元出身の女性でなければ応募できるわけもないか。何故ミスが4人もいるのかな、、、と思って彼女たちがかけているたすきを注意深く見てみたが、別に「準」の文字がついた女性もいないようだ。などと妙な事を考えている間に彼女たちは視界から去っていった。

ちなみにこの後二組の「ミス」の類が通った。何故かはしらないがミス横浜が通った。横浜と山形が姉妹都市とかそんな関係にあるのだろうか。よくわからないがとにかく彼女たちは先ほどのミス花笠よりももっと私から見れば親しみのもてる感じの容姿だった。次にはJAとともに通ったフルーツクインーンの人たち。この人達はフルーツが名前についているだけあって、いっそう親しみのもてる、というかたぶん合コンで隣に座るんだったらこっちのほうがいいな、というような女性達であった。その昔北海道に出張に行ったとき、ひょんんなきっかけから「ミスラベンダー」と知り合いになったことがある。彼女に言わせるとこの「ミスラベンダー」は町内の人気投票のようなもんだ、ということであるが、このフルーツクイーンはそのことを思い出させてくれた。

さてその後に続くのは、山形以外の土地の「山形県人会、花笠会」である。こうした団体はいくつか登場した。そのほとんどは関東地方で千葉、横浜、東京都文京区等々だが、登場するのはほとんど中年の女性である。さすがに踊りに年期が入っていて市役所の小娘達とは手つきからして違う。

 

次に通った大きな団体はJAこと農協の方々である。この方々は-特に男性の方であるが-気合いがすごかった。何がすごいか。この花笠踊りというのは途中でかけ声をだすのである。先ほどの議員先生達とか市役所の職員さん達も一応声は出していた。(ちなみに若い女性はたいていの場合口パクである)しかしこのJAの男性達はとても気合いのはいった声をだしている。さすがに農協関係者の方々である。みんな黒く日焼けして元気そうだ。

この後に通った別の元気な方々はJHすなわち日本高速道路公団の方である。この団体の男性は目に入った限りではみんなたくましく日焼けしていて、その声も大変気合いがはいっていた。男性の前を通っている女性達をみていると、そういえばJHの方と合コンをしたこともあったな、などと妙な感慨にふけってしまう。

JHの他にも私に過去の合コンを思い出させてくれた団体がもう一つあった。山形厚生看護学校横山病院のみなさんである。何故学校と病院がペアで参加しているのか今ひとつわからないが、まあそんなことはどうでもよい。看護学校の生徒さんたちはとっても元気であり、他の団体の若い女性がほとんど口パクであったのに比べてかけ声も気合いがはいっていた。中にはとてもふくよかな体型の女性も何人かいたがそれがどうしただろう。彼女たちの笑顔はとてもAttractiveだった。私が合コンでご一緒したのは看護学校の生徒さんたちではなく、看護婦さん達だが私がお会いした中では彼女たちは元気でとても感じのいい人達だった。何故かというと説明はしにくいが明るさの中にも職業上の責任感というか厳しさを感じるからであろうか。

 

企業から参加の団体もあれこれ通る。JR東日本としあわせ銀行、それに他の企業の山形支店とかの車も見た気がする。こういう夏のイベントというのは偉大なものであるが、そうした偉大な伝統が息づいている支店に配属されてしまった人というのは大変だ。私の生まれそだった名古屋では名古屋祭りというものがあり、(これはこの花笠祭りのような楽しいイベントではないが)そこでは郷土英傑行列なるものがある。いわゆる織田信長、豊臣秀吉、それに徳川家康に扮した男性がゆらゆら通っていくのである。さて殿様が3人も歩くとなればそれにはたくさんのお着きの男性やら女性が必要である。幼少のころは何の疑問もなく彼らを眺めていた私であるが、彼らがすべて名古屋にあるデパートの社員であることを知ったのは会社に入ってしばらくたってからのことである。

考えてみればこの踊りに参加している人たちの中にも別に花笠が踊りたくてこの企業に就職したわけではない人も多かろう。どの団体だったか忘れたが、ちょっと込み合あった列の中にあっても人目をひくような美人の女性がいた。彼女の顔には「何でこんなことやらなくちゃいけないのよ」という軽い不満と諦念の念が浮かんでいた。彼女は口パクすらすることなしに、黙々と手と足を動かし、一度軽くため息をついていた。彼女がどのような気持ちでこの踊りに参加しているかを想像するとき、同じ企業に生きる人間として彼女に深い同情を感じずには居られない。

ちなみに彼ら企業からの参加者は踊りのかけ声がちょっとだけ変わっていた。先ほどあげた日本道路公団もそうだが、かけ声の中にちょっとした無言部分がある。そこにJR東日本のひとは「じぇいあーる」と声がはいる。道路公団だったら「ちゅうおうどう」だし、銀行の人なら「しあわせぎん」である。さすがに企業というのは常にPRを忘れない。

もう一つ企業とおぼしき団体がいた。先導する車に「ヤマザワ」なる言葉が書いてあるから何かと思った。製薬会社で似たような名前の会社があったような、、、と思っていたがどうもそうではないらしい。車についている宣伝文句を見ると「山形○○店、宮城○店、地域に広がるチェーンストア」とある。思うにこのエリア一帯に広がっているスーパーか何かの類ではなかろうか。先導する車にはなんとかいう名前の男性が立っている。ヤマザワの前のほうに立っている人たちがその男性に向かって手をふっていたことから、きっとこのヤマザワチェーンの社長かなにかだろうか、、と思っていたらそうではないらしい。どうも山形エリアで売っている民謡歌手のようだ。いずれにしてもこのヤマザワチェーンというのはおそらくあまり数は多くない地元の大手企業に違いない。となれば花笠祭りへの参加も気合いが入るというものであろう。

 

さてそろそろあたりはくらくなってきた。

 

そこにやってきたのがバンビーノ・バンビーナとかいう子供達の合唱団である。それまでにも一つ子供達の団体というのがいた。どこかの地区の子供会の類らしいのだが、ここの踊り方はちょっとすごかった。踊りの途中でくるっとまわるところがあるが、そこが唯回るのではなく、一旦しゃがんで飛び上がって回るのである。腰痛をわずらっている私でなくても「うーむ。これは子供でなくてはできない」と思わせるようなシロモノであった。実際周りからそういった声がいくつもあがり、子供達が飛び上がるたびに拍手がわいていた。しかし私はちょっと心配になった。あれはまるでスクワットを連続してやっているようなものだ。そしてここはまだパレードの入り口にすぎない。彼らははたして最後まであのすごい踊り方を続けられるのだろうか。

そしてその団体の後ろにはお母様の一団がついている。うれしそうに、心配そうに、面倒くさそうに。さらに下の子供を連れている人、あるいは写真を撮っている人いろいろである。

さてこの合唱団であるが、コスチュームが凝っていた。しかし印象的だったのはそこではない。真面目に一生懸命踊っている女の子達はひたすら前に進みすぎ前の団体にぶつかりそうになる。ちょっといい加減に踊っている女の子達は後ろのほうに遅れていく。その間を先生とおぼしき人たちが一生懸命とりしきっている。まわりからはちょっとほほえましい笑い声やほほえみが伺えるが、先生としてはたまったものではなかろう。あの団体が最後まで行ったときにどうなったかちょっと不安になってしまうが。

そのほかにも子供達はあれやこれややっていた。子供のころはどう考えても今よりも時間がはるかにゆっくりすぎたような気がする。であれば飽きるのも速いわけだ。だからそこらへんで飽きて泣いていたり「帰ろうよー」と言ったりしている子供もいる。あるいは逆に踊りにとても感心を持つ子供もいる。5mほど横にいた男の子は踊りっている人を見るとどうしても近づきたくなるようだった。彼は何度も突進を繰り返し、それを何度も母親とおぼしき女性が引き留めていた。

またある女の子は一緒に踊りたくてしょうがないようだった。アナウンスが伝えるところによれば途中と一番最後に観客の飛び入りコーナーがあるようであるが、彼女はそんなコーナーを待ってはいられない。よちよちと行列についていく。踊りの難しいところは省略するが、花笠を持ち上げる時はちゃんと頭の上に持ち上げる。そしてくるっと回るところだけはかかさない。そして私の視界にある間彼女はちょっと心配そうなうれしそうな母親につきそわれてよちよちと歩いていった。

 

さて周りも暗くなってきたし、そろそろ人間Watchingにも堪能した感じだ。そろそろ戻ろうと思って歩き出した。列の一番後ろにはどっかの空手教室の連中がいる。彼らはきっと面白い踊りを見せてくれるような気がするがそろそろ帰って寝よう。ジュースを2本ほど買って水分を補給する。ごくごくと飲みながら自分が思いもかけずご機嫌なのに気がついた。さて、明日はどこに行こうか。まあ明日考えよう。朝ご飯だけはさっきのファーストフードで食べよう。確か納豆定食があったけどどんな味かな。楽しみ楽しみ。

 

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注釈