題名:私のMacintosh

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日付:2001/4/21


25章:Mac OS X製品版

電源切れの恐怖とともに正月休みはなんとか無事に開けた。そのうち私は

「バッテリ充電を示す稲妻表示」

は外部電源ユニットを触ったときについたり消えたりすることに気がついた。ひょっとするとこれは本体の故障ではなく、この電源ユニットの故障ではないか?

そう考えるとあれこれ実験をする。どうやらこの予感はあたっているようだ。となれば話は簡単。別売り電源ユニットを買うとこれが実に快調である。かくして私のMacintoshライフには平穏が戻ってきた。

とはいっても少しは教訓を学ばなくては再び天誅が下るであろう。今回のトラブルで懲りたので、Fire Wire接続の外付けハードドライブを購入した。容量は80GBである。10年前Stanfordにいって

「アメリカならやすいぞ」

と思い購入した外付けハードの容量は80MBだった。当時はこれでも大きいと思えた物だが今や半分の値段で1000倍の容量のディスクが手に入る。これを使って、2400内蔵の4GBHDを丸ごとバックアップしてやろうという魂胆である。

さて、家に3台あるMacintoshのうち、Fire Wire接続ができるのはTwin PowerMacの片割れ、G4@350MHzだけである。さっそく接続してみるとあのSCSIの

「SCSI ID」

と、太くてコネクタの種類がたくさんあるケーブルから逃れられたのが何よりもありがたい。

さて、4GBのバックアップに80GBはオーバースペックではないかと言われればその通り。他にももくろみがあったのである。

Power+SEXのPowerBook G4発表の陰にかくれてはいたが、Appleが無料のMP3プレーヤー、iTuneをリリースしていた。それまでにもちょこちょこMP3を使っていた私だが、このソフトは実に気にいった。なんと言っても使いやすいのである。iTuneを発表するとき

「今までにもMP3プレーヤーはたくさんあるけど、どれもToo Complexだ」

とCEOは言った。一枚のウィンドウにぱらぱらと文字やらボタンが並んでいるiTuneは最初ちょっと奇異な感じをうけたものだが、使ってみると実にご機嫌である。

そしてあれこれの音楽をMP3化していると、このソフトでCDを別の方法で楽しむことができることに気がついた。私の部屋にあるCDプレーヤーは3枚までのCDを入れてとっかえひっかえすることができる。しかし高々3枚だ。それに比べてMP3にして80GB使おうと思えばハードディスクの宣伝文句によれば

「100万曲も夢ではない」

のである。おまけにアーティスト、アルバムも自由に選べるとなればこれはJuke Boxに近い感覚ではなかろうか。CDをそのままかけていた時は、その入れ換えの面倒さから一枚のCDを聞くとそのまま聞き続ける傾向があったのだが、このMP3に切り替えてからは実に快適。Beatlesを聞いたり、Bachを聞いたりクリック一つで切り替えである。特に気に入ったのはRockと区分される曲のミュージシャンごちゃまぜRandom順序演奏である。まるでお気に入りの曲を集めた有線放送かくだらないしゃべりのはいらないラジオを聞いているようだ。これはごきげん。ジャンルをはずしてRandom演奏させるとBachの後にBon Joviが来て、その後にBB King & Eric Clapton, こんどはマタイ受難曲などともうこれはWonderfulとしかいいようのないすばらしさ。

 

さて、そんな日にMac World Expo Tokyoが行われた。行くのは2年ぶりである。2年前ものすごく混んでおり、かつ会場前には長蛇の列ができていたことを覚えていたので今回は早くいくことにした。確かに早くついたのだが、開場10時半の2時間前についてしまったのはやりすぎだった。一体私は何時に家をでたのだろう。

チケットが売り出され列ができはじめたのは10時頃であっただろうか。ただぼんやりと待っていると(これは私が大変得意な事の一つだが)そのうち開場となった。目指すのはAppleブースである。

今日はEXPOの3日目。一日目の基調講演では少なくとも3種類の新製品の登場が噂されたあげく、でたのは「まず間違いない」と衆目の一致するところだった新型iMacである。CD-R/Wの搭載はだれもが予想したとおり。誰も予想できなかったのはその色である。なんとFlower Powerと称する花柄とブルーダルメシアンと称する青い逆水玉なのである。色のバリエーションを増やしたり減らしたりしてきたiMacが柄物になるとは誰が予想しただろうか。

さて、最初は仰天したものの、しばらく写真をみていたら「おお。このFlower Powerとはなかなかいいではないか」と思いだした。しかし本当のところは実物を見なければわからない。それに加えてPowerBook G4もとうとう自分で触ってあれこれ確かめてみることができそうではないか。そう思いてけてけとApple ブースに駆け寄る。一番近くのPowerBook G4にさわってあれこれやってみようとする。

するといきなり後ろから話しかけられた。どうやら今回Apple ブースにあるMacintoshにはすべてデジタルビデオカメラが接続されており、iMovieというやつで簡単にビデオができます、というところをアピールしたいらしい。自分の間抜けな顔が映画になるのは面白いが、しかし私はこのPowerBookのキータッチを確かめたいのだ。しばらくすると私はこの場所を離れた。

すると次はAppleブースでプレゼンが始まる。最初はMac OS Xである。仕事でWindowsばかり使っている身にはそれらの画面が実にご機嫌にうつる。特にMac OS Xは見慣れてしまうといつものMac OS 9の画面が貧弱に見えてくるから不思議だ。リリースがされる日が楽しみである。デモを観ながら久しぶりに「登場を待ってわくわくする」気持ちを感じていた。

さて、と思い会場を回る。とはいっても特にお目当てのものがあるわけではない。心なしか人通りも少ないように思える。やたらと混んでいて行動が困難だったという記憶があるのだが、すいすい歩ける。入場者数が減りつつあるのだろうか。そのせいかどうか知らないが、何者がしれない恰好をした女性の一団が少ないのはありがたい限りだ。この前ここに来てから、2度ほど同じ場所で展示する側に回った。だからパンフレットを差し出されるとどうにも弱い。まだプロと思われる女性が配っていればいいのだが、その会社の従業員とおぼしき方に差し出されるとどうしても受け取ってしまう。受け取らなくても「結構です」と何度も言うことになる。

一回りするとApple ブースに戻る。親切にiMovieを説明してくれる係員がいないところを狙ってPowerBook G4を使ってみる。キータッチについてはあれこれ悪い噂もあったのだが、私が触る限りでは好調だ。ただしいつもは小さい2400のキーに慣れているので調整に時間がかかるが。

などとやっているとだんだんこの機械が気に入ってくる。性能も良好。大きさも危惧したほど大きくない。ああ。危うい。7月になり、Mac OS Xがプリインストールされるようになったら衝動的に買ってしまいそうだ。今出回っている数は極端に少なく、おまけに初期ロット特有のトラブルもいくつか報告されているが、それが落ち着いたころに

「購入に関して諸般の事情を注視しつつ慎重に検討する」

こととしよう。大丈夫だよ。2400ちゃん。私は君をお払い箱にしようなどと考えてはいないからね。

さて、新しい柄物iMacもたくさん並んでいる。こうして実物を目にすると花柄よりも逆水玉のほうが良いような気がする。あまり大きな声では言えないのだが、私はこの柄物が結構気に入っていて、アパートに一台設置してMP3ジュークボックスマシンとして使ってみようかなどとあれこれ考えていたのだが。さて、大抵のマシンにはiTuneがインストールされ実行されている。ここで私は今まで使ったことがなかったiTuneの機能を試してみることにした。ラジオチューナという奴である。世の中にはMP3の形式でインターネット上でラジオをやっている曲もあるらしい。しかしそれらを聞きっぱなしにして電話代を貢ぐほど私はNTTを愛していない(正直言えば嫌っているのだが)だからこれまで試した事がなかったのだが、ここでなら試し放題。ちゃんとヘッドホンまで設置されているのだ。

そう思って聞いてみるとこれがご機嫌である。紛う方無きアメリカのラジオ放送が良好な音質で聞ける。いつの日か私が常時接続環境に移行したら、日長こうした物ばかり聞いているかもしれない。

ブースで今度はiDVDのプレゼンが始まっている。昨今のAppleには「シングルウィンドウ」という方針があるのではないかと思う。このiDVDもiTuneのように広い窓の周りにボタンがちらばっており、それを押したり、あるいは素材を窓に放り込むだけで何でもできるようになっている。Mac OS Xが最初に発表されたときもシングルウィンドウを全面に押し出していたが、これは大変不評であったらしくひっこめた。しかし最近特に父にMacintoshの使い方を教えていると思うのだ。本当にマルチウィンドウは使いやすいのだろうかと。父は「デジカメからの画像取り込み」をやるのだが、どうもうまくいかない。やることと言えば二つのウィンドウを開いてコピーをする-ファイルをドラッグする、ということなのだがこれがどうにも難しいらしい。私も教えながら

「そう言えば、この二つのウィンドウが違うディスクから開かれた物だってのを覚えて無くちゃいけない。おまけにドラッグってのもあまり簡単な操作じゃないな」

と思う。私は無意識のうちにそれをやっているのだが、言葉にするとどうにもややこしいことをやっていることに気がつく。

父が簡単に作業できるよう、シングルウィンドウのファイルコピーアプリケーションでも造ろうかと思っていた折でもあり、Appleのこの方向性にはなんだか期待をしてしまうのだが。

そんなことを考えながら私のMacintoshライフは静かにすぎていく。そうこうしていくうちに3月24日のMac OS Xリリースデートが迫ってきた。私はPublic Betaを購入しているので、その分は定価からさっぴいてくれるという。正直言えば、新しい機種にインストールされてからでいいやと思っていたのだが、値引きしてくれる、といわれると買わないとそんな気がする。それでなくてもTwin PowerMacの7500分で動いているPublic Betaは5月で時間切れになる。へれへれと考えている間にふと気がつけばApple Storeで購入手続きをしていた。しかし本当の事を言えば、Public Betaは7500で動いたが、正式版が同じマシン上で動くという保証はどこにもないのだが。しかしWorld ExpoでみたOS Xに対する愛情は私を全く理不尽な行動に走らせる。ATOKは14からOS9とMac OSXに対応である。こちらもいきなりWeb上でアップグレードの申し込みだ。まあこちらは無駄にならないからよかろう。

さて、3月24日に発売という約束は実に厳格に守られた。3月24日に配達されたのである。もっとも実家にだから私がそれを手にしたのは翌週の日曜日、○○重工時代の友達恒例の花見で帰省したときであったが。

それからはあれこれの作業が続く。なんとかかんとか古い機種にもインストールできたPublic Betaだが、OS X製品版はそう簡単にはいかない。インストーラーを立ち上げたところで

「古い機種にはインストールできませーん」

とけられてしまうのだ。しかしながらインターネットがもたらした情報面での革命というのは実にありがたい。数日後にあれこれのサイトを巡ってみると

「Mac OS Xを古い機種にインストールする方法」

というのがちゃんと公開されている。最初は

「暇な時にやってみよう」

とか思うのだが、一旦始めるとなかなかとまらない。何よりも愛している睡眠時間を少しけずってまでもあれこれの作業が続く。試行錯誤の末になんとかインストールに成功した。

しかしもう一つ超えなくてはならない壁が残っている。サポートされている機種ではないし、その上CPUアップグレードカードなんかいれているので、さらに追加の作業-2次キャッシュを有効にする-が必要となる。それをさぼっていたのだが、動作は苦痛なまでに遅い。ただでさえ遅いと言われているOS XをさらにCPUの機能を制限した形でつかっているのであたりまえだ。

ええい、と思いその「追加の作業」をやってみることにした。そのためには一度OS9で立ち上げる必要がある。立ち上がったのは懐かしいOS9の画面。こちらは確かに飛ぶように動くのだが(OS Xをしばらく使った後ではそう思える)やたらと平面的だ。

よし、やるべきことはやった。戻ろう、と思ったのだが、今度はどうやってもOS Xで立ち上がらない。本当の事を言えば最初のインストール時に一つ操作を忘れていたのである。

「これをやらないとOS Xが立ち上がらないぞ」

と書いてあったのだが、なんだか立ち上がってしまったので知らないフリをしていたのである。しかし事実はやはり冷酷だ。一度OS9で立ち上がった彼は2度とOS Xで立ち上がろうとしない。

 

理論的にはまた最初からOS Xのインストールを行うべきである。しかし私は考えた。このインストールを行うのは結構やっかいな作業であるとともに、7500についている2GBのハードディスクではどうやっても狭すぎるということも明らかになっていたのである。今回のOS Xで是非使いたいと思っていた機能に「OS X開発環境」というのがある。本来であれば結構な金をとって販売すべき開発環境を、なんとOS Xにタダでつけてくれているわけだ。となれば根がコンピューターオタクの五郎ちゃんとしては是非使いたくなる。しかしOS Xのインストールすらハードディスクの容量節約の為に一部削除しなければならないような状態だったのに、開発環境のインストールなど思いもよらない状態である。

通信販売でかったこの2GBのハードディスクはまあそれなりに気に入ってはいた。しかしどうやら世の中ははるかにはるかにたくさんのハードディスク容量を必要とするようになっているようだ。どうしよう。しかし一旦頭に浮かんだ答えは消えないことを私は知っていた。 

さて、翌日はさっそくハードディスクを購入におでかけである。しかし私はここでいくつかの冷徹な事実に直面することになる。7500が使っている古いタイプのSCSIディスクはもはやほとんど製造されていないらしいのだ。一軒目の店には、SCSIのハードディスク自体を売っていなかった。次にいった店でSCSIを買ったのは良いのだが家に持って帰ってみるとどうもコネクタが違う。Wide SCSIだかなんだかいう新しい規格らしくつながりそうもない。ああ。この18GBは無駄になってしまうのか。しょうがない、とあきらめネットで情報をあさるとおそらく同じ悩みを抱えた人はたくさんいるのだろう。某ショップにはまさに「これが旧型SCSI最後のチャンス」みたいな書き方をして18GBのハードディスクを売っている。冷静に考えれば

「そこまでしてOS Xをいれてどうする」

ということなのだが、私は既にOS Xの鬼となっているのだ。使い道のないWide SCSI HDの霊になんと申し訳しよう。すすめ中年火の玉だ。というわけで迷わず画面上の購入ボタンをぐい、と押す。

 

そのHDが届くのは水曜日。帰ってみると「お届けにあがりましたが不在でした」という紙がはさんである。さっそく「今ならいますから届けてくださーい」と言う。それから実家の愛犬アイちゃんのようにおとなしく待っていた。少しでも物音がすると財布をかかえ玄関の前に座っている。まるでアイちゃんだ。しかしまてどくらせどクロネコヤマトのおじさんは来てくれない。

そのうち就寝時間であるところの9時半になる。もうこんな遅くには来ないだろう。明日電話をして文句をいってやろう。まあ文句を言えばちゃんと着くところがいいよな。アメリカでは荷物とうとううけとれなかったもんな。そう思いながらまさに布団にはいろうとした瞬間誰かがドアをノックする。

首尾良く荷物を受け取ると少しだけ考える。私が何よりも愛している睡眠時間をけずってまでインストールすべきか否か。しかしこれも答えは決まっているのだ。明日は睡眠不足に悩まされながら一日をすごすことになる。

接続は簡単に成功し、それまで頭の中でなんども考えた手順に従ってしょこしょこと作業を進める。途中時間のかかる作業があり(私はパソコンが働いているのを待つだけなのだが)さすがに待っていられないから寝ることにした。

翌朝4時に目が覚める。理論的にはまだ1時間以上寝ていられるはずだ。しかし私は自分が寝ないであろうことを知っている。ごそごそ起きるとさっそく作業だ。OS Xをインストールし始める。例によって「あと20分」とか表示がでるがこれがまったくあてにならない。インストールにはあっさり成功すると自動的というか強制的に登録情報の入力画面になる。それを入力したところで時間切れとなった。ではいってまいります、と言ってもそれを聞いてくれるのは数台のコンピュータとハエと蜘蛛とごきぶりだが。

帰ってくると作業の続き。心おきなく登録情報を送信すると、ようやく本来の画面が立ち上がる。ごきげんに早い。正確に言えばOS9より遅いのだが1GBの領域に無理矢理インストールしていたときとくらべれば雲泥の差がある。残っている設定をあれこれやりだす。

反応は確かににぶい。しかしくるくる回る虹色カーソルを観ていると、Mac -SEで、なにかやれば必ず時計カーソルがくるくる回っていた頃を思い出す。あのときから考えるとOSの重さとマシンの性能の比率はずいぶんとマシンの性能側に有利になったものだが、ここにきてまたOSはずどんと重くなった。フラストレーションは確かに感じるのだが10年前を思い出せば

「まあ最初はこんなところ」

とも思う。たまに他の機械を触り、OS9に戻ると確かにすべてが飛ぶように動く。しかし同時になんだか薄っぺらい表示、それにOS Xで追加された新しい機能が結構気に入っていることにも気がつくのだ。カラム表示のファインダ、それにドックなどが懐かしくなる。

 

かくして私は知るのだ。たぶんそう遠くない未来に私はこちらの環境に移住することになると。そのタイミングがいつになるか、実はだいたい決めているのだがまだ公にすることははばかられるのであった。

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注釈