ビジョナリーカンパニー
2007-06-01 00:00
ある人の勧めで読んでみた。
確かにインスパイアされる点は多々ある。さて、わが社の「基本理念」はなんだろうか、と考えればそれは「親会社もしくは祖父会社にほめていただくこと」であると思い当たった。誰もそれを公にはしないが、下から見ていると、そうした「理念」はとてもよく見えるのです。
さて、私は人のあらを探すのが大好きな人だから、この本について「どうしても気になる点」を書いておく。それはIBMの扱いだ。
IBMはビジョナリーカンパニーのひとつとして取り上げられている。しかし(おそらく筆者も気がついていると思うが)IBMはこの本でビジョナリカンパニーの特性と思われるものに当てはまっていない。たとえばカルト文化がそうだ。P212に
「1990年代初めに苦境に陥ったのは、このカルトのような社風と、三つの基本信念へのこだわりのためではないかという疑問がわいてくるかもしれない」
と書いている。私もまったくそう思う。しかしその後に「事実をくわしく調べていくと、そうとはいえないことがわかる」と反論を展開する。結論として
「IBMのカルトのような企業文化、基本理念を熱狂的に維持する姿勢が弱まっていったときに同社は苦境に向かっていたといえる」
と述べている。しかし読者にはその結論をどのように合理的に導いたのか理解ができない。少なくとも私には同意できない。
かくして「おわりに」で「IBMにどのような助言を与えるのか」という項では
基本信念を大きな活字で印刷した紙に、全員が署名すべきだと助言するだろう。
とカルト的性格を強める助言している。
またIBMが外部からガースナーを迎え入れたことにも著者は強く反発している。生え抜きの経営陣はビジョナリカンパニーの特性だと主張しているがゆえに。
ビジョナリカンパニーには、変革をもたらし、新しい考え方を取り入れるために経営者を社外から招く必要はまったくない。P308
確かに著者の主張は一貫してはいる。しかし私も現実も彼らの主張からは隔たっている。この本が書かれてからすでに10年以上が経過した。ある記事によればこの本で上げられた18社のうち、7社は現在では到底ビジョナリーカンパニーの名に値していないと言う。私の実感でも、ソニー、ディズニー、フォード、モトローラがビジョナリーカンパニーだなんてのは皮肉か悪い冗談にしか聞こえない。
もともとの調査が「長きにわたってビジョナリカンパニーとしての地位を保っている企業」を取り上げていたことを考えれば「たった」10年あまりでこのような変化が起こってしまったことは皮肉なことだ。
しかしそもそも10年たって思い出され、かつ揶揄の対象になる、ということ自体が偉大である、という点には疑問の余地がない。日本でも毎日山のようにビジネス関連書籍が出版されているが、それらの多く(というか全てではないかと思えるが)は2週間も生きながらえない。
かくしてここで述べたような点はあるにしても、この本から学べる点は多いと考えるわけだ。文句ばっかり言ってなくていい点を学ばなくちゃね。
しかしこの本に書かれているソニーを見ると本当に悲しくなる。1994年、確かにソニーは絶好調だった。輝いていた。私も心から転職できればなあ、と思ったものである。今は転職しなくて-とうかできなくて-よかった、と思っている。この凋落振りはどうしたことだろう。
自分でできないから書くのだが、誰かぜひこのビジョナリーカンパニーだったソニーの転落について冷静なレポートを書いてはくれまいか。それこそ10年以上を生き延びる教訓に満ちた書籍になると思うのだが。