映画評:ヤング@ハート
2009-01-27 07:00
ふんがーとなっている日は本家から改変しつつ転載。
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米国マサチューセッツ州に実在する、平均年齢80歳のコーラス隊。それで聖歌とか歌っていれば珍しくもなんともないのだろう。しかし彼らと彼女が歌うのはパンク、R&B、ロック and so on。
この映画は彼らと彼女達がコンサートに向けて取り組む数週間を描いたドキュメンタリー。最初は同じように実在のコーラス隊を描いた”歌え!フィッシャーマン ”のような話かと思う。しかし話が進むにつれ映画に引き込まれていく。Shall I stay, or shall I leave ?若い女性が歌えば男相手に決断を迫る歌詞だ。しかし92歳の女性が歌えばこの世に残るか、あの世に行くかの意味になる。
他にも知っているはずなのに驚かされた曲は多い。私と同じ年代の人であれば知っているであろうビージーズのStay'n aliveという曲。それを80歳の彼らが歌えば、まさに”生きていている”という叫びになる。(とはいえ、この場面は唯一映画的演出が過多と思われたのも確かだ が)
平均年齢80歳であるからして、練習も簡単には進まない。なかなか新しい歌詞も頭にはいらないし。あれやこれややっているうち、二人の団員が死亡する。感謝祭の間はゆっくり休んで、明けたら練習に参加すると言っていた男、そして癌と戦いながら”あと10年は大丈夫”と言っていた男。しかし思うのだ。こういう死に方というのはまさに私が望むところではないか。最後の瞬間まで自分が好きな歌を歌いたい、歌える、歌おうとしている。
コンサートのシーンでは彼らに捧げる歌が流れる。歌っているのは、心臓発作をおこし、余命2年と言われその期限からさらに4ヶ月経過した男。映画を見終わってから彼の歌声だけをWebサイトで聞き、印象の違いに驚いた。おそらくは同じ曲を一緒に歌う筈だった男を思いながら歌い上げる彼の表情は何を物語っていたのだろう。全員でなくなってしまった団員を思いながら歌うNothing compares 2 you.何度も聞いた事がある歌なのに全く違う歌に聞こえる。
このコーラス隊を指揮しているのは53?才の若造。これがまた厳しく、そして愛情を持って接している。というか基本的に相手を”お年寄り”扱いしていないのだ。当たり前のことだが、プロの歌い手として接している。そうした彼らの間にある信頼関係。”おじいちゃん、おばあちゃんお元気そうで。”といった慇懃無礼な言葉が入る余地は全くない。
そして映画を見ている私にも、彼らの歌は”お年寄りが元気だ”ではなく”彼ら、彼女達の年齢でなければ出せない味をもった歌”として伝わってくる。うまく表現できないが、余計なてらい、力み、格好付け、打算を若い頃に置き去った、心からの歌声のように聞こえる。
映画を見終わると妄想が爆発する。俺が75になったらこういう楽団を作り、ロックやポップを歌いまくってやる。そして区役所でコンサートを開き
”おじいちゃん。おばあちゃん。いつまでもお元気で”
と心にもないことをいう司会者に向け
”人の心配をするまえに、自分の健康でも心配したらどうだ”
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この映画を見ていると、彼らと彼女たちの成功に大きく寄与しているのは53歳の音楽監督であることに気が付く。”こんな曲”と思える曲を持ってきて、それをなんとかまとめてしまう。その力と発想力には驚かされる。
だから私が”75歳になったらコーラス団結成計画”を実現するためには、そうした音楽監督を見つけることが第一。
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自分が年老いていくにつれ、いろんなことを言われると思う。そしてそれに対する感じ方も変わるのだろう。
しかし
”いつまでもお元気で”
とはたぶん言われたくないのではなかろうか。
ではなんと言われたいかといえば、それはほほほほなのだが。
と言い放つのだ。