キャリアをデザインするのだ

2011-04-20 06:51

何かとお世話になっている、フュチャーラボラトリーの橋本社長という方がいる。

この人は、法政大学のキャリアデザイン学部というところで講義を担当されているらしい。時々主催してくれる飲み会にいくと、そこの学生さんとお話しする機会に恵まれる。

そこで何度か聞いたのだが、未だにわからない問が

「キャリアデザイン学部ってなにやるの?」

という点である。サイトから引用すれば

キャリアデザイン学部をひとことで言えば「生き方・働き方・学び方の設計について考え、自分が育ち、人を育てる能力をつける学部」です。
仕事や人生と関連して自分を高めながら他者の能力を引き出すための考え方・専門的知識・技能を学びます。学問が細分化し過ぎる傾向が強い現代にあって、キャリアデザイン学部では総合的な人間研究を重視しています

via: 法政大学|学部・大学院|学部|キャリアデザイン学部|学部紹介|キャリアデザインとは

ということなのだが、何度読んでもさっぱりわからない。

というわけでキャリアについて書いてみようではないか。最近読んだ本「20歳の時にしっておきたかったこと」からいくつか引用する。

後からみると、ほとんどの出来事や発見は、焦点があったように明確になります。自分のキャリアは、フロントガラスではなく、バックミラーで見ると辻褄があっている、とランディ・コミサーは行っています。 20歳の時にしっておきたかったこと p132

キャリアデザイン学部の存在意義を無にするような言葉だが、同じことは有名なSteve Jobsの演説でも述べられている。Jobsがカリグラフィーに心を奪われていた時、それがPC上で使用可能な多彩なフォントに結びつくと、誰が前もってデザインできたというのか。(1984年にMacintoshを見たとき、驚愕した要素のうちの一つが"フォントが自由に変えられること"だった。)

なぜ将来のキャリアをデザインできないか?第一に現実世界というのは不確定要素が多すぎる。センサーを使って周りの状況を綿密に把握し、計画的に歩を進めるロボットよりも、その場その場でばたばた足を動かすロボットのほうが結果としては確実に前に進むものなのだ。水も漏らさぬキャリアをデザインしたところで、それをふっとばす不確定要素は必ずなんども訪れる。

第二に、ほとんどの人は自分が何に夢中になれるかを知らない。やってみて初めて「机に座っていない時もそのことを考える」ものに出会えるのだ(仕事の恐怖に始終おののく、というのではないよ)

逆に論理的に考えてとてもいい仕事についていながら、どうにも幸せでない、という状況が続くこともある。そうした場合にはどうすればいいのか。

では、どうすればやめるべき時がわかるのでしょうか。これは哲学的な大問題です。成功させたいという願望と、実際に成功する確率とを分けて考えるのは、とてもつもなく難しいものです。もちろん、資源を投入すれば、成功する可能性は高まります。でも、時間やお金をどれほどかけても、あるいは、どれほど汗をかいてもうまくいかないときはうまくいかないものです。私がたどりついたもっとも科学的な結論はこうです。

「心の声に耳を傾け、選択肢を検討しなさい」

まずは、自分自身と正直に話し合わなければなりません。成功するまでトコトンやる覚悟はあるのか、それとも別の道を選んだほうがいいのか、自分に聞いてみることです。

20歳の時に知っておきたかったこと。 P100

この「心の声に耳を傾ける」というのはとても難しい。ともすれば「給料がよい」「安定している」「転職先も決まっていないのに辞めるのはいかがなものか」とか合理的な声に打ち消されるからだ。

しかし結局物をいうのはこの「心の声」である。これがNoと叫んでいれば、どんなに合理的な理由があろうと生活の大部分を占める仕事として選ぶべきではないのだ。

面白い事だが、職場や、現在の仕事について延々と愚痴を言い続ける人がいる。聞いているとこれ以上同じ仕事を続けてもその人のメリットはないように感じる。

じゃあやめて他の仕事を探せばいいじゃないか、といえば多くの場合なんだかんだと理屈をつけて結局辞めないことを選ぶ。

私は人の言葉に惑わされることが多い。言葉というのは上辺の姿で、本当の姿はその人の感情に潜んでいる、といことを未だに学んでいないからだ。だから上記のような人に出会うたび首をひねる事が多かった。

今はその人の「心の声」が少し聞こえる気がする。

「自分にかまってくれ。」

という叫びなのだ。その叫びがなぜ発せられるかは私にはわからないが、とにかく人にかまってほしいようなのだ。だから「合理的に考えた結論としてのキャリアチェンジ」を選択せず、そのままの仕事で愚痴を言い続けることを選ぶ。

さて、「かまってほしい」人はおいておいて、キャリアデザインに戻ろう。将来を計画することはできない。ではどうすればいいのか。

ランディ・コミサーはどうやってキャリアを築いていくのか、膨大な時間を使って考えました。そうして得られた知見は説得力があります。ともに働く人の質が最適になるようにキャリアを考えなさい、とランディは言います。そうすれば巡ってくる機会の質が上がると言うのです。出来る人達は、お互いを応援しあい、貴重なネットワークを築いていて、たえず新しいチャンスを生み出しています。

20歳の時にしっておきたかったこと p132

これには気がつかなかった。いろいろな会社、いろいろなポジションにいると一見均一なように見えるこの社会には実にいろいろな文化が存在していることに気がつく。

上記文章では「ともに働く人の質が"最適"になるように」といっているのであって「最高になるように」とはいっていないことに注意する必要がある。何が"最適"かはその人が何を目指しているかによって変わるだろう。

多数存在している文化のうちどれがその人にとって「最適」なものか。これまたジタバタしてみないことにはわからない、というのが私がたどり着いた現実の姿なのだが。

Steve JobsはStanfordでの演説の最後にこう述べている。

Don't be trapped by dogma - which is living with the results of other people's thinking.
他の人々の考え方と共に生きていくというー教条にとらわれる必要はない。
Don't let the noise of others' opinions drown out your own inner voice.
あなたの心の中の声を他人の意見の騒音の中にかき消されないようにしなさい。
And most important, have the courage to follow your heart and intuition.
そして大切なことは、あなたの心や直感に従う勇気を持ちなさい。
They somehow already know what you truly want to become.
そうしたわけか、それらは、あなた方が本当になりたいことを、すでに知っているのだ。
Everything else is secondary.それ以外のすべてのことは二の次でよい。

via: スティーブ・ジョブスのスピーチ 

Stebe Jobsがこう強調し、多くの人がそれに感銘を受けるのは、一見当たり前のようなことでありながらそれを忘れる事が多く、気がついたとしてもそれを実行することが難しいからだ。

しかし

年をとるとわかるのだが、その人の「心の声」はいつしか顔に現れてくる、と最近考えている。といきなり話をねじまげたところで、次号に続く。