幻の「ひみつ工業」
2011-08-05 06:31
というわけで元三菱重工社員としては関心をもたずにはいられないニュースが流れた。
日立製作所と三菱重工業は経営統合へ向け協議を始めることで基本合意した。2013年春に新会社を設立、両社の主力である社会インフラ事業などを統合する。原子力などの発電プラントから鉄道システム、産業機械、IT(情報技術)までを網羅する世界最大規模の総合インフラ企業が誕生する。両社の売上高は単純合計で12兆円を上回る。
via: 日立・三菱重工 統合へ 13年に新会社、世界受注狙う :日本経済新聞
これがでたのは8/4 3:00 早朝である。そのあと午前6時に日立の社長は家からでるとき
「それは夕方発表しますから」
と報道陣に答えた。(引用先のページに動画がある)
最初は「日経だから」とタカをくくっていたが、そのうちNHKなどでも報道され始めた。そりゃ日立の社長のコメントを聞けばそう報道するだろう。
しかし早くも午前中には両社からコメントがでた。
三菱重工業株式会社
本日の一部報道について
本日、当社と株式会社日立製作所との統合に関して、一部報道がありましたが、これは当社の発表に基づくものではありません。また、報道された統合について、当社が決定した事実もありませんし、合意する予定もありません。
via: 三菱重工|本日の一部報道について
本日付の一部報道にて、当社と三菱重工業株式会社の事業統合に関する記事が掲載されました が、そのような事実はありません日立製作所
この文面の微妙な違いに気がついただろうか?MHIからは「合意する予定もありません」とより強い否定がでている。
そもそも話の最初からして「ひみつ工業」が誕生するわけはないのだ。両社は単なる株式会社ではない。独自の文化、言語をもった国のほうがイメージに近い。それが無くなるのは何らかの攻撃に耐え切れなくなったとき。何もないのに「統合」など起こりうるわけがない。
おそらく次に引用した記事あたりが本当のところなのだろう。
だが、交渉に対しては両社に温度差がある。ハードディスク事業やテレビの自社生産からの撤退など、大胆な収益構造の改革を進める日立は、中核の事業統合を足がかりにして将来は経営統合に結びつけたい意向が見える。しかし三菱重工は、あくまで事業統合にとどめる方針で、「経営統合」報道が先行したことに対しては「有力OBを中心に強い抵抗がある」(三菱グループ幹部)
via: 日立製作所・三菱重工業:将来像にズレ 「経営統合も」「事業に限定」 - 毎日jp(毎日新聞)
倒産したわけでもないのに「祖国」がなくなるのをOBが黙ってみているわけもない。MHIが再度出した以下の声明は興味深い。
当社と日立製作所との統合に関する報道が引き続きなされておりますが、既に当社からお知らせしておりますように、これは当社の発表に基づくものではなく、また、報道された統合について合意する予定もありません。 にもかかわらず、統合について合意する予定があるかのような誤った報道がなされることは、当社及び関係者にとって極めて遺憾であります。 当社としては、これら一連の報道が当社の発表に基づく正確なものではないことをあらためてお知らせいたしますと共に、このような報道については、断固抗議してまいります。
via: 三菱重工|当社に関する一連の報道について
現に日立の社長は「はい。夕方発表します」と発言しているわけだから、この非難は日立に向けられたものと考えるべきだ。
裏でどのような交渉があったかしらないが、これで話は数年あるいは10年以上にわたって棚上げになるだろう。日立社長の軽率さには呆れるばかりだが、結局破局になる縁なら、早く崩壊したほうが両社にとってよかったのではなかろうか。