歪曲できる現実と、そうでないものと
2011-10-27 06:40
Steve Jobsの伝記が発売されたらしい。その中からいくつかの話題が発生している。
会食が一段落した7月中旬、妻ローレンさんと2人で昼時に訪れた。ウミマス、タイ、サバ、穴子。好物を8貫頼んだものの、時折苦しそうに頭を抱え込んだ。半分食べ残したまま、鍋焼きうどんを注文。しかし、じっと見つめるだけだった。
「食べて元気になりたかったんだと思います。あきらめてなかった。痛々しいぐらい必死で生きようとしていた」。高橋さんは、食べられなくても注文を続ける姿に、わずかな可能性でも挑もうとする気合を感じた。それが最後だった。
via: ジョブズ氏 : 寿司屋で友人と「お別れ会」週3度も 今年夏 - 毎日jp - Cybozu.net
そこまでして必死に生きようとしていたJobsだが、その生を奪ったのもまたJobs自身だった。
5日に死去した米アップル共同創業者のスティーブ・ジョブズ氏は、2004年に膵臓(すいぞう)がんと診断された後も医師の勧めに反して手術の予定を9カ月先延ばしし、マクロビオティックの食事療法で治療しようとしたが、後にそのことを後悔していたという。
via: CNN.co.jp:ジョブズ氏「死後の生を信じたい」、迫る死期が製品開発の原動力
食事療法ですい臓がんが治る、なんてのは怪しげな健康食品の類だ。彼の現実歪曲空間については多くの人が語っている。また我々も消費者として、彼のビジョンがどのように世の中を変えていくかを観てきた。
しかし
世の中には歪曲できる現実とそうでないものがある。「できる」領域で見事な力を発揮する人たちはその事実が理解できないようだ。
彼が以下に熱く語ったところで癌細胞を取り除くことはできない。
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Evernoteに保存した情報をたぐればこんな「スーパーエンジニア達」の言葉が目に付く。
メガソーラーどころかギガソーラー級ともなると、出力変動をどうバッファーするかも問題になってくる。蓄電技術が上がるとよいのだが。
しかし10年かければ出来るはずだし、実際にこれらの土地から放射性物質と不安が抜けるには30年はかかるのではないか。
via: 404 Blog Not Found:news - 東日本ソーラーベルトは誇大でも
ギガワットの出力を持つ太陽光発電の出力変動をバッファリングする技術が10年でできる?
太陽光、風力、地熱、小規模水力などの自然・再生可能エネルギーに積極的に投資し、10〜15年後(2021年〜2026年)までにそれらの発電コストが「火力発電よりも安い」「政府の補助金なしでも経済的に成り立つ」状態になんとしでも持って行く。これの実現可能性に関してはさまざまな意見があるが、今のペースで技術が進歩して行けば2013年〜2025年には達成できると多くの研究者が予想しており(参照、参照)、「簡単ではないが十分に達成可能なゴール」としては設定するには適切なレベルである。
via: Life is beautiful: 脱原発への具体的な道筋
あと最短2年で自然エネルギーが火力発電より安くなる?過去何十年も開発されてきた自然エネルギーがあと10年で火力発電より安くなるという目標が「十分達成可能?」
(いや、その目標に向かって全財産自然エネルギー開発に投資する、というなら真面目に聞くけどね)
この二人はソフトウェア開発の世界で名をなした人たちだ。そしてソフトウェア開発というのはいまだに
「一騎当千」
がなりたつ世界でもある。想像だが、彼らは「俺にやらせればこんなのは簡単だ」と放言し、それを実際に達成するという経験を何度もしてきたのではなかろうか。
しかし
人間がソフトウェアを開発するのと物理法則を相手にするのは全然違うゲームだということを理解していないのだと思う。スーパーエンジニア達のこうした「軽すぎる言葉」を見るにつけ、一つの領域で突出した能力を持つ人間の言葉を過大評価してはならない、と思う。
Jobsの愚かな判断については別の感慨を持つ。彼の判断は全く愚かだった。しかしJobsというのはそういう人間だったのではなかろうか。それ故事業で偉大な成功を収めた。それ故癌で寿命を縮めた。この二つの事象は裏表であり、どちらか片方だけ取り出すことはできなかったのだ。
そして彼は彼の「判断」の結果を自分で受け止めた。安全地帯に身を置きながら方言を撒き散らす「スーパーエンジニア達」と同列に語ることはできない。