学会と企業の距離

2011-12-20 07:09

先日は某学会に出席していた。共通して語られたことは

「学会に企業の人が来てくれない。発表してくれない」

というものだった。
これにはいろいろな理由があるのだと思う。最近は優秀な学生さんにはいってもらうため、企業がイベントのスポンサーになることが増えたようには思う。しかしあくまでも興味があるのは「優秀な学生」であり、その研究内容ではない。

例えば有名な(そして批判も多い)ubicompという国際会議がある。あるところでこんな言葉を読んだ。

"Ubicomp is Windows without drivers"

現実世界の機器を動かすのに必要なドライバーというプログラムが存在しないWindowsのようなものだ、というたとえである。先日はこんな記事を目にした。

実際の企画の仕事は ポジティブ発想で多くのアイディアを出した上で、徹底的にネガティブ検証。 使う時間は前者が10%、後者が90%そんな感じです。

自分自身が徹底的に叩いて、その上で経験者の意見を聞き
世の中に既にあるものと比較して
シンプルですごいアイディアであることを
心底信じることができる状態になる
というプロセスが必要なんですね。

そして、その過程で経験する非常にストイックな地道な検証作業に
耐える精神的強さと謙虚さが企画担当者には必要だと思うわけです。


via: 企画力がないと心配することはない。本当に必要な能力は。。 | 守りから攻めへ ~イプロス社長 岡田のブログ~

例によって私が知っている「インタラクション研究」についてだけ書くが、大学で行われる研究にはこの「90%のネガティブ検証」が決定的にかけている。いや、もちろん既存研究の調査とか新規性、有効性の検証とかそれらしい検証はあるんだよ。でもそれが90%かと言われれば首をひねる。結果「それが本当に有効であることを、担当者自身が信じていない」研究が山積みになるわけだ。

企業の側では、ネガティブ検証が90%ではなく120%くらいになるのがよく見かける問題だ。検証というより、ハナから推進しようという意思がない、という方が正しいと思う。かくして企業と学会の距離はいつまでも埋まらないのであった。。

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などと悲観的なことばかりを言っている場合ではない。先日はこだて未来大学の「はこだて活性化」に関する取り組みについて聞いた。

これには率直に言って驚いた。はこだて未来大学自身が、人工が減少し、いくつもの問題が生じている函館の活性化のため、こんな取り組みをしているらしい。

「スマートシティはこだて」の中核としてのスマートアクセスビークルシステム
のデザインと実装

via: Matsubara Lab » 「スマートシティはこだて」の中核としてのスマートアクセスビークル システムのデザインと実装

こうした仕事は本来行政が行うべきものと思うが、それを大学が推進しているのだ。
質疑応答で

「これは最終的には、松原さん(発表者)が市長にならないといけないのでは?」

という質問がでていた。いや、実際そうするべきだと思う。この人の予定原稿にはこんなことが書いてある。

人工知能の研究者はできていないことをできるよ うにすることに興味を持ち,自分が思いついた新しい手法でできるようになったことを 例題によって示せればそれで満足して,他の「できていないこと」に興味の対象を移す 傾向が強い.例題で示したのはその手法が原理的には正しく動くということであり,そ の手法が社会の広い範囲で利用可能になるためにはさらに多くの工夫が一般には必 要になる.人工知能はその多くの工夫をすることを怠ってきたと言える.

via: SAI_13_01_AIは社会に対してこれまで何をしてきたか_松原.pdf

ここでは「人工知能」を取り上げているが、多くの大学の研究は「その多くの工夫をすることを怠ってきた」という批判から逃れられまい。企業が大学の研究に興味を持たないのは、その「多くの工夫」を切り捨てたものだけ見せられてもね、、という理由もあるように思う。

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などと人事ばかり言っていてはいけない。じゃあお前が「多くの工夫」をしているのかと言われれば、下を向いてしまう。というわけで少し気が早いが来年の抱負。

・iPadアプリを2種類リリースする。
・論文を2種類書く。
・論文にならない変な物を一つ起動する
・(検閲により削除)

といったところで以下次号。