いきいき研究室増産プロジェクトFORUM2012に参加したよ

2012-02-28 07:02

というわけで、途中で帰るのがいつもの私にしては珍しく最初から最後まで参加した。(webサイトはこちら

最初にパネルディスカッションがあった。この中で興味深いキーワードはいくつかあったのだが、それについてはその次に行われた「グループディスカッション」の中で述べる。

というわけでその後いくつか研究室にまつわるキーワードが提示され、それぞれのキーワードに興味を持った人が集まりグループディスカッションがなされた。私が所属したのは「研究者?研究室の説明責任」というグループ。ここで行われた議論について記憶が存在している範囲で、かつ私の勝手なフィルタを通してお届けします。(以下発言は私を除いて全て仮名)

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私「研究者は自分が好きなことをやりたい、説明の責任は行政にあるべきではないか、パネルディスカッションでの意見を聞いて衝撃を受けた。企業の研究所は弱い立場にあるので、常に自分たちが役に立つことをアピールするのは当たり前だと思っていたが。」

A「いや、説明の努力をしていないわけではない。一般への説明についてはいろいろ時間も労力も裂いている。しかし基礎研究の意義と言うものを説明するにせよ誰に説明すればいいのか、といつも悩んでいる。それに基礎研究というものは、どう役に立つのかそもそも説明が難しい。

しかし基礎研究あって応用研究が花開くのであり、解りやすい指標ばかり求めていては基礎研究、ひいては科学技術の泉が枯れてしまう」

B「予算配分の大本は国で決まる訳だが、では国の予算配分に影響を与えるのは何かといえば世論である。詰め込み過ぎだ、という世論になればゆとり教育になるし、行き過ぎだといえわれれ元に戻る。」

C「例えばドイツにいくと、大学の研究が地域のコミュニティと一体化している。ああした活動が必要ではないか」

A「確かに宇宙探査などはもっとも実用と遠い分野であるが、海外に行くと"あなたは宇宙の研究をがんばってください。私は自分の仕事をがんばる"といった声をかけられることもある。やはり国民の科学教育というものが大事なのではないか」

C「例えば科研費の申請書などは大変精密に記載を求められるが、あれとて"通るための書き方"が存在したりしている。」

B「科研費の申請書をいくら精密に書いたところで、研究者の説明責任を果たしたとは言えないのではないか」

参考:パネラーから「研究の提案書が山ほど提出されるが、面白い物が少ない。結局今の枠組みの中にとどまっている」という問題提起があった。

私「なるほど。私は科研費の申請をしたことはないが、聞いた限りだと結局「その道の権威」が審査をしているそうであり、そうした閉じたループの中では新しい魅力的な提案というのはでてこないと思う。

そういった意味では例えばIPAがやっている未踏ソフトというのは面白い成功例かもしれない。(説明の中で誰も未踏ソフトを知らないことを知って衝撃をうける)個々のプロジェクトマネージャーがオープンに審査を行い、合議制ではなく、プロジェクトマネージャーの裁量で認可ができる。採択されたプロジェクトの煩雑な業務はプロジェクト管理組織に任せておける。

あるいは、問題を抱えている企業なり団体が問題を提示し、それにインターネットを通じて自由に解決方法、研究を提案できる制度というのはいいのではないか。P&Gは自前の研究所の他に、そうした研究者のネットワークを作り上げていると聴く。

ヒューストンはP&Gの研究所から60名の科学者とエンジニアを厳選し、彼らを試験管と顕微鏡から引きなして「テクノロジー・アントレプレナー」の肩書を与えた。テクノロジーアントレプレナーたちはヨーロッパ、中国、日本、インド、ラテンアメリカに派遣され、そこで社外のイノベーションを発掘する責任を負う。最前線で活躍する精鋭のスカウト集団だ。

マーベリックカンパニー p124



キャロルが最も驚いたのは、ソビエト連邦時代には秘密にされていた町チェルノゴロフカを訪れた時だった。当時の政権が科学者たちをこの町に集め、最優先研究課題に取り組ませたのである。(いうまでもなくその大部分はアメリカ合衆国に対抗するためのものだった)チェルノゴロフカは住人が22,000人あまりの小さな町だが、ロシア科学アカデミーの会員が20名以上、博士号取得者は250名以上、博士取得を目指す学生は1000名以上に上る。
(中略)
ウェブサイト実際に見てもらいました。すると掲載されている「難問」を見て相手は"あれ?これならいますぐうちの人間が解決できますよ"というではありませんか。

マーベリックカンパニー p138


こうした国の予算、科研費とは別の、お金がちゃんと回るビジネスモデルを打ち立てることはどうだろうか。

D「私はそうしたファンドのプロジェクトに携わっているが、実際結構うまくまわっている」

B「そうした方法もあるだろうが、やはり基礎研究の必要性を説明する問題は残る。例えばNASAは相当な予算を広報に使っている。日本ではそうした取組がなされていないのではないか。また一般向け科学雑誌、科学番組などの充実ぶりも米国に比べて見劣りする。日本で残っている科学雑誌はニュートンだけだ」

B「一時ある一定額以上のプロジェクトは、広報等に一定の予算を割り当てることを義務付けようという意見があったが研究者達の反対でつぶれてしまった」

A「一般向け科学教育という点では、現在でもいろいろな取り組みがされている。一般向けの講座を開いたり、あるいは研究所で博物館を持ったり。しかしそうした活動が研究者の重荷になっている部分もある」

私(なるほど。そんな取り組みがされているとは全然知らなかったと思いつつ)「研究者がそうした努力をしていることはわかった。しかし結果としてそれはあまり効果がでているとは言えないと思う。"振り回しているパンチ"がどこにも効いていないとすれば、やはりやり方が悪いのではないか」

複数人「そうした問題は、やはり個々の研究室で解決できる問題ではないように思う。そうした枠組みを作ることができるのはどこなのか」

B「大学を独立行政法人化したことにより、そうした"経営"の裁量権が増えたわけだが、結局大学の意思決定は従来通りの"教授会"でなされている」

私「そうした大学の経営は、教授や研究者ではなく、経営のプロに任せるべきではないか。たとえばMITメディアラボの所長伊藤氏はPh.Dももっていない(当日そう言ったのですが、後で調べてみたら、そもそも大学を卒業していませんでした)


メディアラボは1985年設立。

グーグルのストリートビューの前身のサービスや、アマゾンの「キンドル」に使われる「Eインク」といった、ネット業界では先駆的な技術を開発してきたことで知られている、米マサチューセッツ工科大学(MIT)のデジタル技術の研究・教育機関です。



世界屈指のこのコンピューター科学の研究所のトップに、約250人の候補者を押しのけて、44歳の日本人のベンチャー起業家が起用されたのです。そのMITの決断について、米紙ニューヨーク・タイムズは「異例の選択だ」と伝えています。


via: せかいの豆知識:米MITメディアラボ 所長伊藤穣一氏 - livedoor Blog(ブログ)

そうした人間が大学のマネージャーであることが気に入らないというのであれば、マネージャーの定義を

「ボス」

ではなく

「ヤカンをもって走り回っている女子部員」

に変えればよい。

天下のMIT がそうした決断をしているのだから、日本の大学にもそうした取組があってもいいのではないか。」

C「研究を行うというのは、非常に集中を要する作業で、先行研究を調べるために英語の論文を100も読まなくてはならず、集中しないと成果が出せない。他の作業を研究者に行わせるというのはどうか」

B私「研究に集中したいというのであれば、何かを諦めなくてはならない。その代わりに研究費を削って広報、あるはロビー活動の人材獲得の予算に回すとか」

B(これはパネルディスカッションでもあった話題ですが)「例えば医師に関しては医師会などが存在しており、議員や他の団体に意見をいうことがある。しかし研究者は完全に個別、あるいは縦割りでそうした取組がない。あっても個人的なつながりで変な圧力をかけてくる」

B「例えば一般向け講座を開く労力の一部でも議員向けブリーフィングに回すだけで相当効果があるのではないか」

私(口にはださなかったが、そうだなあと思う。議員先生も「日本の未来を開く科学技術に詳しい」、と言えば選挙のアピールにもならんかな)

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と言ったところで時間切れ。残りの時間は全体議論ということで他のグループでどんな話し合いがされていたかを聴く。少なくとも私にとって一番興味深い議論は私がいたグループだったなあと実感する。

実に興味深い議論だった。というわけで帰り道に何をあれこれ考えたかは以下次号。