孫子に書いてあること

2012-04-24 07:20

先日こんな記事を見つけた。

また、もちろん、「商品開発に戦略は必要ない」などと言うつもりはない。
商品開発にも「戦略」は必要だし、有効だ。

しかし、「ナウシカ」や「千と千尋の神隠し」がこれほどのブランドになったのは、
「正しい戦略」があったことが主因なんだろうか?

「ドラクエ」「Google検索」「twitter」「iPhone」がヒットしたのは、
「正しい戦略」があったことが主因なんだろうか?

via: 経営戦略よりも重要なこと - @fromdusktildawnの雑記帳

なぜこんなことを言い出したかといえば、この記事を読み返したからだ。

あのね、ま、言いづらい話なんですけど、
世の中には「頭のいい人になりたい人」というのが
すごくたくさんいてね、多くの場合、
その人たちが迷惑をかけるんですよ。
なぜかというと、頭のいい人になりたい人たちは、
すごく頭のいいことを考えて、
みんながそれに従えば
世の中がよくなると思ってるんです。
で、法律や、決まりや、
マニュアルをたくさんつくる。
それに従えば幸せがやってくると思って。
「1、こうするといいぞ」とか、書くんです。
でも、みんなは、頭のいい人の思惑を外れて、
「えっと、4番はなんでしたっけ?」とか、
「俺、じつは読んでないんですよ」とか、
「まぁ、いいじゃないですか」とか言うわけです。
そうすると、頭のいい人になりたい人たちは、
「どうして大衆ってバカなんだろう」って
もう、涙を流しながら思うんです。
「だから戦争が起こるんだ」とか言うんです。
でもね、彼らが言うようなことが、
世の中を変えたことは一度もないんですよ。
まあ、変える手伝いくらいにはなるにしても、
本当になにかを変えるようなものっていうのは、
「こっちのほうが美味しかったぞ」とか、
「つかってみたら便利で、もう戻れないや」とか、
そういう「事実が先に突っ走ったこと」ばかりで、
決まりやルールは、あとからできるんです。

via: 宮本茂さん、『Wii Fit』などを語る。

最近あまり読まないが、凋落し始めたころのソニーでは「パワーポッター」が大活躍していたのだそうな。戦略、商品の位置づけを弁舌さわやかに語り、印象深いパワーポイントにする人たちだ。

今でもソニーの人たちのインタビューを読むとそうした印象を持つことが多い。

タブレットデバイスは、新しいカテゴリーの製品だが、その普及にいたるまでの過程において、日本では最も早い段階で使い始める"Innovators"段階に続く"Early Adopoter"の段階にあり、本格的な普及段階にいたる"Early Majority"が使い始めるまでに、"普及の谷"と呼ばれる"Chasm"を乗り越える必要があるとする。

 Chasmを乗り越えてEarly Majorityを掘り起こすことで市場の拡大が必要と述べる松原氏は、一般ユーザーに幅広くアプローチするためには、従来のようなハードウェアスペックの訴求だけではなく、タブレットデバイスでなにが、そして、簡単にできるのかを示していくことが重要という。

via: "普通の人"にはスペックだけでは足りない:"ソニーらしい4つの特徴"でみんなのTabletに──「Sony Tablet」製品発表会 (2/3) - ITmedia +D モバイル

いや、実に見事な「戦略」であるが、肝心の商品がゴミではなんともならない。結果は明白。Sony Tabletは存在しないも同然だ。

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とか考えているうち、ぼんやりと「孫子」の事を思い出した。孫子には戦において冷徹な計算が必要な部分と、戦闘する個人の意識に関わること、それに「正と奇」という敵に姿をみせない部分と、見せて戦う部分のことがいずれの述べられている。

そう考えなおすと、やはり孫子は深い、という感を持つことになる。「奇」とは敵に姿をみせず、そして自軍に有利な状況を作り出すこと。ゲームのルールを変えることでもある。

iPhoneが最初に発表された時、多くの人が「日本ではうれない」と断言し、その理由をいくつも並べ立てた。

しかし私のような凡人には今にしてわかることだが、Appleはあの製品で、ゲームのルールを変えたのだ。携帯電話という市場で何の実績も販売網も持っていなかった会社が、「奇」により、ゲームのルールを変え、パラダイムをシフトさせた。

そしてそれを支えたのが、冷徹な計算に基づく、兵站であり、技術だったことも見逃すわけにはいかない。

などということを、帰りの電車の中、Gorotteをいじりながら考えていました、とさ。