成功の裏側にある失敗

2012-06-07 06:57

ディズニーランドのホスピタリティはどのように構築されたか。どのような工夫がなされているかについての本は多い。ちょっと探せばこんな本が見つかる。


この本を読み進めると

「ほうほう。なるほど。これはすごいなあ」

と思う。そして私は由緒正しい管理職なら

「さっそく明日の朝礼でこの話しをみんなに聞かせよう」

とか思うのかもしれん。(いまどきそんな朝礼は誰もやらんか)

しかし

私がより興味を持つのは、「成功の秘訣」が全く機能しない場合だ。前述の本には一箇所だけこんな記述が出てくる。

たとえばユーロ・ディズニーランドはとても大成功とは言えないと聞いています そうですね、忘れてはならないことが3点あります。第一にまったく失敗しない会社は、たぶん、新しいことを何もやろうとしない会社でしょう。失敗を避ける一番確実は方法は、新しいことには一切手を出さないことです。そのことを考えるとディズニーは新しいことに挑戦しているということがわかります。 第二に条件の違いを理解しておく必要があります。ゲストの平均滞在期間は、ディズニーワールドが4泊5日で、ユーロディズニーランドが一泊二日です。旅行する距離はヨーロッパのほうが短く、アメリカとは違う経済法則が働きます。 第三に大成功している企業をみているとわかるんですが、成功の副作用としてもっともよく見られるのが、自信過剰と自己満足です。ユーロ・ディズニーランドもある程度、その罠にはまったのかもしれません。

ディズニー7つの法則 p117-118

一点目は全く質問の答えになっていない。2点目は「じゃあなぜ日本ではうまくいっているのか」という疑問に答えられない。まあこれは心理的前置きというやつだな。

おそらく最も本質的なのは第3点だと思う。そして(これは大きな問題なのだが)この本ではその点にあまり触れていない。

別の本にはこういう記述がある。

顧客が欲しているものを顧客以上にわかっているという考えは、無知からくる傲慢の産物です。顧客を満足させてきた歴史のある企業は、顧客が今何を求めており、何を必要としているかということに注意を払わず、その歴史を頼りに答えを出そうとするのです。最近のウォールストリートジャーナル誌に掲載されたユーロ・ディズニーに関する記事を参考にしてみましょう。 ディズニーがやったことおは、気短なバスの運転手から気難しい銀行家に至るまで、あらゆるヨーロッパ人の足を片っ端から踏んでいくようなものだった。そのことを問われると、ディズニーの前重役たちは、何とも言えない、というふうに首を横に振った。というのも、ディズニーのそうした姿勢は、彼らがいうには、同社をめざましい成功へと導いたものとまさに同じ、クオリティへの厳格なまでの追求から生じたものであったからだ。 ある役員はこう漏らしている。「我々はあまりに傲慢だった。我々のやり方といえば「タージ・マハルをつくればみんな来るだろう」式のものだった」

サービスが伝説になる時 p86
(太字はブログ筆者が付与)

なぜ日本相手に成功した戦略が、ヨーロッパでは失敗に終わったのか。(まだ終わってないか)このように「成功と失敗」を合わせて考えないと、ディズニーが持っている「成功への秘訣」の本当の価値はわからないと思うのだが。

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同じようなことはチェ・ゲバラについても言える。私はミーハーなので映画を見るまで彼については何もしらなかった。興味を持って何冊か本を読んでみる。私にとってより興味深かったのは、「成功体験」を綴った本

よりも、全く同じような方法論を用いながらも敗勢に追い込まれていくボリビアでの活動を綴った日記だった。

キューバであれほどの成功を収めた方法論がなぜ全くボリビアで機能しなかったのか。そしてゲバラはなぜそのことに気が付かなかったのか。

一個人としてみれば、こうした成功と失敗を合わせて考えることで、ゲバラという人間の面白さがより伝わると思う。そして企業としてみた場合には、ユーロディズニーの失敗から学べることは多いと思うのだが。

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私はひねくれ者なので、こうした「成功と失敗を合わせて考える」ことが大好きだ。というわけで期待と不安を持ちつつ見守っているのがこの映画。

米国ではもうすぐ公開。それまで素晴らしい作品「しか」作って来なかったピクサーが去年公開した映画「カーズ2」には驚かされた。なぜ「あの」ピクサーがこんな映画を作ってしまったのか。

調べてみると、「カーズ2」は本来今年公開されるはずだったとのこと。本来2011年に公開される映画はキャンセルになったとのこと。何かがピクサー内部で起こっているのは間違いない。それは何なのか。「ピクサー成功の秘密」と関係はあるのか、などなど。いつか誰かが本を書いてくれることを期待しているのだが。

そしてこの映画はそこからのカムバックになるのか、あるいは「無敵ピクサー失速の謎」がより深まることになるのか。今のところ確かなのは

「ピクサーのCG技術の向上」

だけだ。いや、あのくるくる巻き毛はすごいですよ、ってどうでもいい話でした。