企業としての信念を貫くということ

2012-11-05 07:18

先日のエントリーにコメントをいただけたので、あれこれ考えた。

私の

ユーザ体験そのものは主観で、扱いようがないで、体験の原因のことをここではUXと考えます。人を笑顔にすることがUXなど言われるかもしれませんが、UIから出発したUXは、製品やサービス作りをよりメタに捉えようとする、あくまで製品サービスの設計論であって、現状では笑顔自体や心象の話を直接設計する方法論ではないと私は思っています。

via: 観察と記述 | 動いている世界をそのままに。

これは、、どうなんでしょうね。主観でとらえどころがないから対象にしない、と言っているように読める。

via: ごんざれふ

という主張に対して、渡邊氏のコメントは

で、考えてみました。UXっていうのは「人間のUX」ではなく、ATMのUX、マクドナルドのUX、という「モノ側の主観」みたいなものだと思うんです。ATMがユーザの要求によってできあがったものじゃなく、あくまで「銀行が作り出した装置、サービス」です。

というものだった。UXというのは提供者側の主張であり、それを簡単に「ユーザの声」で曲げてはいけない、という主張である。

このコメント自体には全く同感だ。渡邊氏がコメントしてくれた通り、私はApple原理主義者であり、Appleはユーザの声を大胆に無視する。前にも書いたが、私は初代iMacが登場した時Localtalkを切ったのはやり過ぎだと思っていた。当時の状況を考えればそれは正しかったと思うが、確かにiMacは大ヒットとなった。そして今となっては誰もフロッピーディスクとか使わない。

ではどうすればよいのか?ほとんどの場合、トレードオフが存在しどちらにも尤もな理由があるように思える。そして企業はそれに対して勇気をもって決断するべきだ。

フィル・シラー どんなにすばらしい商品にもトレード・オフはあります。例えばノートPCを例に挙げてみましょう。最近のノートPCでは、パフォーマンスが求められます。CPUに加えて、大容量のメモリ、そしてHDD。しかし、その一方で、薄型軽量であることも求められています。また、長いバッテリー動作時間を求める声もあれば、手ごろな価格への要望もあります。これらすべてが相互のトレード・オフ要因となっているのです。

 これは顧客にとっても、非常にやっかいで悩ましい問題です。そんな中、私がアップルで非常に誇りに思っているのは、アップルは勇気と責任を振り絞って、顧客に代わり、この難しいトレード・オフの中での最良のバランスを見つけ、難しい決断を下し、そしてそのバランスの中での最良の製品を作るということを実践している点です。

via: アップル上級副社長に聞く:「デジタルライフスタイルの未来はiPhoneにある」――フィル・シラー (2/4) - ITmedia PC USER

この決断を避けるのに一番いい方法は「どの分野の製品を出さないこと」だったりする。つまるところ日本メーカーがルンバを出せないのはそのせいではなかろうか。

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というわけでいただいた渡邊氏のコメントについては全面的に同意するのだが、元々の私の主張は少しずれたところにある。

「ユーザ体験は主観で扱いようがない」

これについても同意するのだが、だからといってすっぱり切り捨てていいのだろうか?という点にある。

マクドナルドが本当に「メニューがないことでユーザが感じる不便(これは計測不能)」と「待ち時間が短くなること(これは計測可能)によるユーザの便利さ(これは計測不可能)」を天秤にかけ、定量化できないトレードオフに勇気をもって決断した結果が

「メニューをなくすこと」

ならばその主張は理解できる(同意するかどうかは別として)

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渡邊氏の元の記事で一番理解に苦しんだのがその点だ。

体験の原因のことをここではUXと考えます。人を笑顔にすることがUXなど言われるかもしれませんが、UIから出発したUXは、製品やサービス作りをよりメタに捉えようとする、あくまで製品サービスの設計論であって、現状では笑顔自体や心象の話を直接設計する方法論ではないと私は思っています。もちろん、人間の計測手法の発展により心理心情の直接的な測定が可能になればその時はまた設計方法がかわるかもしれません。

via: 観察と記述 | 動いている世界をそのままに。

ここは具体的にどういうことなんだろうね?

例えばAppleのiPhone。あれを数値でAndroidと比較すると全く売れるわけがない、という結論が簡単に導かれる。

ではAppleはどうやって設計しているか?シラーの言葉を借りれば

シラー まったく寸分違わない状態です。アップルは製品主導の会社です。我々がやっている仕事は、自分たちで欲しくなるクールな製品を作ること――自分の家族や友だちも気に入ってくれるような素晴らしい製品を作ることです。

via: フィル・シラー氏に聞く:アップル流イノベーションが大きく花開いた2010年(後編) (1/2) - ITmedia PC USER

ということらしい。自分たちで欲しいかほしくないか。友達が気に入ってくれるかくれないか。これは全て主観の話しである。そしてAppleはその主観を定量化するためにフォーカスグループを使ったりはしない。彼らは「人々の主観」については想像し、製品のあらゆる側面に対して「ユーザに代わって決断をし」その評価は売上に委ねている。

という話と渡邊氏の「主観は扱いようがない」「製品サービスの設計論であって、現状では笑顔自体や心象の話を直接設計する方法論ではない」という話はどう対比させればいいんだろうね。ここで渡邊氏が主張していることが具体的に何を意味するのかわからないので、之以上考え様がない。

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ちなみにマクドナルドの判断に関しては、想像するしか無い。私の想像は

「定量化できないユーザ満足という指標をすっ飛ばし、定量化できる待ち時間だけをユーザベネフィット(笑)と解釈した、、というより本当は客を"スループット"という定量値だけで表現した」

愚かな判断だと思うけどね。